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【IFルート】10年ごしの引きニートを辞めて外出したら自宅ごと異世界に転移してた【集団トリップ】  作者: 坂東太郎
『IF:第十章 ユージと掲示板住人たち、異世界で開拓する』

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IF:第十四話 ユージと掲示板住人たち、モンスターの集落を討伐する部隊と合流する


 ユージとアリス、コタロー、ケビン、新たに開拓民となった元冒険者のリーダー・ブレーズと斥候のエンゾ。

 それと希望したトリッパーたちは、川ぞいを南下していた。


 領軍が発見したゴブリンとオークの集落討伐に参加するためである。


「アリス、みんなから離れないようにね。それと火魔法を使うときは、ちゃんとお願いされてからだよ」


「はーい、ユージ兄!」


「うっ。ごめんなさいお兄ちゃん。あの時私がアリスちゃんにOKしちゃったから……」


 この世界で育ったアリスは、モンスターの討伐に積極的だった。

 自分が役に立てるのがうれしいという幼女らしい気持ちもあるだろうが、それだけではない。

 倒せる時に倒す。

 それが、モンスターがはびこる危険な世界で暮らす者たちの常識なのだ。


 アリスが討伐に参加したがったため、ユージは同行を決めた。

 二人が行くと聞いて、討伐部隊に立候補したのはユージの妹のサクラだ。

 ユージはアリスの保護者のつもりだが、サクラもまたアリスの保護者のつもりなのだろう。義妹なので。

 もしかしたらユージの保護者のつもりなのかもしれない。ユージは10年引きニートだった男なので。


「ああ、モンスターはどんな集落を作っているんだろう! 洞窟かな? 巣穴かな? それとも簡単な家を建てるのかな? 楽しみだねジョージ!」


「ルイス、あまりはしゃぎ過ぎないようにな。……蟻塚タイプも考えられるんじゃないか?」


 サクラの後ろを歩くのは、サクラの夫であるジョージとルイスだ。

 アメリカ人の広告デザイナーとCGクリエイターは、モンスターの生態が気になるらしい。

 いや、ジョージは妻であるサクラを守るために参加を決めたのだ。たぶん。


「めっちゃ楽しみですねルイスさん! ジョージさん! あああああ! 機材よりもカメラマンが欲しい!」


 アメリカ人の二人の横を歩くのは、検証スレの動画担当だ。

 モンスターの集落、予定されている大規模戦闘を前に、テンションが振り切れている。

 肩に担いだ撮影用カメラや背負子に乗せられた大量の機材では物足りないらしい。映画でも撮るつもりなのか。

 元の世界とやり取りすると音声がおかしくなるため、そのまま映画に使えることはないだろうが。

 撮影に興味を持ったトリッパーに動画撮影を教え込んでいるようだが、身の危険があるモンスター討伐にはついてこなかったらしい。

 ちなみにカメラおっさんは、ユージの家のまわりの開拓地を撮影するためついてこなかった。定点観測も必要なのだろう。


「ゴブリンとオークがエロゲみたいに女性を襲うって聞いたら行かないわけにはいかないだろ。望まないロストをさせるモンスターは殲滅だ!」


「そうだそうだ! だいたいゴブリンとオークはエルフの天敵だからね! 根絶やしにしておかないと!」


「アリスちゃんが行くとなれば、私が行かない理由がありましょうか。たとえこの身が犠牲になろうとも、私は幼女を守ります!」


 アメリカ組のほかにも、参加を希望したトリッパーたちがいる。

 肩を組んでゴブリンとオークの殲滅を誓っているのは、ニートなユニコーンとエルフスキーだ。

 己の性癖に忠実すぎる。あとそれは元の世界のフィクションの話である。主に成人向けの。


 アリスが危険な場所に行くとなれば、ユージとサクラのほかにも参加を希望するトリッパーも出てくる。

 YESロリータNOタッチである。

 幼女を守るためなら自分が死んでもいいらしい。立派な決意である。言葉だけの意味なら。


「モンスターたちの本拠地はどれほどの数なのか。領軍は、冒険者たちは。全包囲して殲滅、いや薄いところが破られる可能性も、ならば予想される撤退ルートを半包囲して反対側から精鋭をぶつけるか……」


 開拓地を出発して以来、クールなニートはずっとブツブツ言っている。

 効果的な討伐方法を考えているらしい。

 当たり前だが、領軍が主になって討伐する予定のため指揮権はない。

 とりあえず、安定して位階を上げるための「ゴブリン牧場」案は考えなくなったらしい。なによりである。クールどこいった。


「ユージさん、みなさん。合流予定地点まで間もなくです」


「ははっ、これ俺いらなかったんじゃねえか? ケビンさんは行商人より冒険者になった方がよっぽど稼げそうだ」


「エンゾ、俺たちの仕事は討伐作戦に入ってからだ。まあケビンさんが優秀な道案内だったことはその通りだが」


 領軍が計画しているゴブリンとオークの集落討伐。

 合流するべく森を行くユージたちを先導したのはケビンだ。

 行商人なのに手慣れた様子で森を歩き、怯えることなく道案内をこなしている。

 モンスターがはびこる世界の行商人は、並の胆力では務まらないらしい。

 さすが『戦う行商人』の二つ名持ちである。


 集落討伐には、プルミエの街の冒険者の参加も予定されている。

 領軍に望まれたのは斥候役の冒険者たちと、荷物運びや戦後処理をこなす新人冒険者だ。

 開拓地に新たに移住してきた元冒険者のリーダー・ブレーズと斥候のエンゾは、小金稼ぎのために参加するつもりだった。

 本来は稀人(まれびと)の存在を秘匿するために開拓地を出られないはずだったが、トリッパーとケビンの監視付き、ということでOKが出たらしい。

 ユージのゆるい判断ではなく、トリッパー全員とケビンの了解つきである。


 ゴブリンとオークの集落討伐に参戦することを希望したのは、ユージとアリス、コタロー。元冒険者の二人。それと、8人のトリッパーたちだった。

 残る22人のトリッパーと8人の新規開拓民は留守番だ。

 元冒険者パーティ『深緑の風』のうち盾役と弓士が残ったのはもしもの時の防衛のためだろう。


 道案内するケビンの前では、コタローが勇ましく胸を張って一行を先導している。

 てきはせんめつするのよ、と張り切っているらしい。容赦ない女である。獣なので。



  □ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □



 開拓地を出てから三日目。

 モンスターに遭遇するのを避けるためか、ケビンとコタロー、斥候のエンゾは、大回りして領軍の待機場所に向かったらしい。


 先頭を歩いていたケビンが足を止め、右手で奇妙な動きを繰り返す。

 ボケたわけではない。

 ケビンはおっさんだが、まだ30代だ。

 味方に向けたハンドサインである。


 暗くなる前に、一行は領軍が待機している場所にたどりついたようだった。



「むっ、ユージ殿! ユージ殿ではないか! どうしたのだ? もしや開拓地に何か?」


 領軍の待機場所に近づくと、報告を受けて天幕から出てきたデカい男がひときわデカい声を出す。

 2メートルを超える身長に横にも大きな体。

 筋肉の鎧のうえに金属鎧をまとった姿は威圧感がある。


「えっ? 領主様? なんでここに?」


「先日60匹のモンスターが流れてきましたが無事に撃退しました。ご心配ありがとうございます」


 驚くユージをよそに、クールなニートが問いかけに応える。クールか。


「ちと体がなまっておったからな! 儂の領地を荒らすモンスターどもを我が斧槍(ハルバード)で薙ぎ払ってやろうと思いついたのだ!」


 ユージたちに近づいてきたのは、この辺境の領主、ファビアン・パストゥールその人だった。

 大規模討伐の際にたまにあることなのか、ケビンと元冒険者の二人は半笑いだ。


「うわあ、うわあ! りょーしゅさま、すっごく強そう!」


 金属鎧に身を包み、巨大な斧槍を示した領主を見て、アリスは興奮したようだ。

 ユージとアリスの足元で、コタローもぶんぶんと尻尾を振っている。つよそうなにんげんね、それにぴかぴかしてるわ! とばかりに。


「おお、アリス殿もおったのか。そうだろうそうだろう、儂は領主であると同時に騎士なのだからな! 『強そう』ではなく強いのだ!」


 ふんす、と胸を張る領主。

 平民であるアリスの言葉に気を悪くする様子はない。むしろノリノリである。


「それでどうしたのだユージ殿? ケビン殿? むっ、そちらの二人も見覚えがあるな」


「はっ。俺はユージさんの開拓地に移住した『深緑の風』のリーダー・ブレーズです。移住が決まる前に面接していただいたことがあるかと」


「それに、3級冒険者として領主さまが指揮する大規模討伐に参加したこともありますぜ。モンスター相手の斥候は冒険者の方が向いてっからな」


「うむ、『深緑の風』の二人であったか! むっ、ではユージ殿たちは」


「えっと、お邪魔じゃなければ参加したいと思ってます。俺たちの安全のために」


 領主は、幼女アリスの褒め言葉どころかエンゾの砕けた物言いも気を悪くする様子はない。

 頭脳労働は夫人や代官に任せているのだろう。脳筋である。

 細かなところを気にしない領主に、ユージはようやくここに来た目的を伝えられたようだ。相手は貴族なのに。開拓団長としての成長かもしれない。一言話しかけただけだが。


「おお、そうであったか! ちょうどよい、作戦会議がはじまるところだ! ユージ殿と『深緑の風』にも参加してもらうことにしよう!」


「了解です領主様。エンゾ、頼むから黙っててくれよ」


「おう、任せたブレーズ。言いたいことがあったらブレーズに耳打ちするわ」


「えっ? お、俺ですか?」


「落ち着けユージ。領主様、私も参加してよろしいですか?」


「うむ! ではついて参れ!」


 動揺するユージをすかさずフォローするクールなニート。

 高位の冒険者だった二人はともかく、ユージたちも参加することになったようだ。

 ひょっとしたら領主はユージたちに「稀人」としての知識を期待したのかもしれない。

 あるいは何も考えていないか。



 ともあれ。

 ユージとアリス、コタロー、討伐作戦参加希望者たちは、領軍や冒険者の集まりと合流を果たした。

 ユージやトリッパーを悩ませたゴブリンとオークの頻出。

 その原因を叩く作戦が、間もなくはじまるようだ。


次話、2/10(土)18時更新予定です!


※2/10追記 更新、明日2/11(日)の18時に変更します……

      遅れて申し訳ありません。

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