IF:第三話 ユージと掲示板住人たち、街で移住希望の農業指導者候補を面接する
「ユージ、さっきの冒険者たちはどう思った?」
「え? いいんじゃないかなあ。五人ともいい人そうだったし」
「あのね、アリスもいいと思う!」
「あら、アリスちゃんも賛成なんだね」
ユージの足元で、コタローがワン! と吠える。そうね、わたしもいいとおもうわ、ゆーじ、さくら、とでも言うかのように。面接官として参加していたつもりのようだ。犬なのに。
冒険者ギルドを出たユージたちは、次の場所へ向かっていた。
一行を先導するのはケビンである。
「でもなあ、獣人さんじゃないからなあ」
「お前は黙ってろケモナー。代官とギルマスの保証付きで良さそうな人だったろ」
「俺も動画担当に賛成! 来てもらったら剣を教わるんだ!」
「ミート? 剣を武器にするってことは、弓と違ってモンスターと接近戦するんだぞ? さすがにムリじゃないか? グロ的に」
「あっ。……エルフスキーの言う通りかも。手に感触があって血が飛び散るとか……うっ」
「アリスちゃんを守るためなら私はやれますよ。ケビンさんのように短剣を、ユージのように槍を突き込んで捻ってやりましょう。幼女の敵に死を!」
「おうそれお前も死ぬな」
「俺やっぱり弓にする! ほらあの冒険者パーティには弓士もいるって言ってたし!」
ケビンの後ろをついていくのは、クールなニートとユージ、アリスとサクラ、コタローだけではない。
ケモナーLv.MAX、検証スレの動画担当、名無しのミート、エルフスキー、YESロリータNOタッチ。
ケビンも含めると、合計10人と一匹の団体である。騒がしい。あと名無しのミートは多少グロ耐性がついたものの、前衛は諦めたようだ。賢明な判断である。
「さて、到着しましたよ、みなさん。ここが目的地です!」
「また面接かあ。緊張するなあ」
「もう、お兄ちゃんったら。私たちは面接官の方なんだし、別に緊張しなくても」
「どんな人なんだろーね、ユージ兄!」
「ここが……奴隷商館、か」
「よっしゃ、やっと獣人さんだ!」
「まあ俺たちは奴隷商館に来るのは二度目だけどな」
「そういえばそうだったっけ。ねえ大丈夫? 生々しい傷がある奴隷とかいないよね?」
「安心してくださいミートさん。奴隷はキレイにされていましたよ。幼女はいませんが」
「最後のセリフさえなければなあ。誰だコイツに同行OK出したヤツ」
騒がしい一行を気にすることなく、ケビンは奴隷商館の扉を開けて、いや、扉は奴隷商館の入り口を守る護衛が開けて、ケビンとユージたちは中に入って行くのだった。
ガヤガヤと、騒がしいままに。
□ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □
奴隷商館の応接室には、緊張感が漂っていた。
この国において、奴隷は自分を買い戻すことができるし、衣食住は保証されている。
とはいえ「自らを売る」という人生の一大事なのだ。
どこか抜けたユージやいつも騒がしいトリッパーたちも、その雰囲気に当てられたのだろう。
「ケビンさんはすでにご存じかと思いますが……以上が面接の際の注意事項となります。よろしいでしょうか?」
「ええ、了解しました」
「えっと、俺は黙ってるから。あとはよろしくね、クールなニート」
奴隷の主の候補者へ、購入前面談の注意事項を説明したのはこの奴隷商館の担当者だ。
以前にケモナーやロリ野郎が来館した時とは違って、今日はきっちりと注意事項の説明があったらしい。
見学ではなく、本格的に購入を検討しているからだろう。
予想以上に注意することが多かったのか、ユージはあっさりクールなニートに投げていた。開拓団長なのに。
「それでは、候補者を紹介しましょう。おい」
「はっ」
担当者の声かけで、護衛兼使用人らしき男が応接室の扉を開ける。
おずおずと入ってきたのは、三人だった。
「はい採用! 採用決定!」
「おい誰かコイツを黙らせろ! 誰だケモナーの同行を許したヤツ!」
「……あれ? 俺、この人たちどこかで見たことあるような」
「三人? 三人も買うお金あるんだっけ?」
入ってきた三人を見て、トリッパーたちが騒ぎ出す。さっきの緊張感はなんだったのか。
一方で、ユージとアリスは驚いている。
入ってきた、三人の獣人も驚いている。
コタローがスタスタ近づくと、入ってきた三人はハッとして跪き、両手を挙げてお腹を見せた。
二足歩行する大きなゴールデンレトリバーと、小さなゴールデンレトリバーと、黒猫が揃って。
「……おや? マルセル、挨拶は教えたはずですが……」
「はっ! ワタシは何を!? し、失礼しました」
「上位の者に対する獣人族の礼。コタローさんはいったい……」
「ああっ! アリス知ってるよ! 村のじゅーじんさんだ!」
お腹を見せる三人に、奴隷商館の担当者は呆気に取られている。
獣人たちも無意識の行動だったらしい。
と、アリスがニコニコと「知ってる」と言い出した。
先ほどまでの緊張感はどこへやら、状況は一気にカオスである。
「そうか! あの村でユージたちに身売りしようとした獣人さんたち!」
「ああ、それでなんとなく見覚えがあったのか。カメラおっさんの動画を見たしな」
「あの一家ってことは! よしよしよし、じゃあ三人揃って採用で!」
「お前ら落ち着け。アリスちゃんも、少し静かにしててくれるかな?」
「はーい!」
掲示板時代から、カオスなトリッパーたちを抑えるのはいつもクールなニートだ。
アリスは手をあげて応えたあと、その小さな手で口を押さえている。かわいい。
なぜか、この集団のリーダーのはずのユージも手で口を押さえている。かわいくない。
「それで、どういうことでしょうか? 俺たちは農業の指導ができる者を探していましたが、一人だけで……」
「ええ、聞いております。奴隷となるのは一人、こちらの犬人族の男だけです。ですが、ほかの二人も同行したいということで……面談の場に連れてきました」
「やっぱり、あの時の冒険者さん! お願いします、家族を離さないでください! ボクも働きますから!」
「こら、マルク。虫のいい条件だということはわかっています。ですが、ワタシは身を粉にして働きますので! ずっと農民でしたから、この地の農作業については教えられます! どうかワタシを買ってください!」
「クールなニート、この人たち、あの農村の……」
「ああ、ユージ。そもそも、ケビンさんにあの時のことを説明していたんだ。こっそりほかの人里に行ったことがバレて信頼関係を崩すよりは、こちらから話しておいた方がいいだろうと」
「みなさんが私のことを信用できないのも当然かと思います。そこは気にしてませんし、むしろ様々な術を考えてらっしゃったようで、失礼ながら評価を上げました。上からの目線なようで申し訳ありませんが」
「え、あ、いや、そこはいいんですけど……その、この人たち」
「話を聞いたあと、いつもの村に行商に行きまして。モンスターとの戦闘で畑が荒れて、やはり税金分は足りないようで、でしたらということで奴隷商を紹介したのです」
「この者たちは、三人ともまだ奴隷ではありません。商談がまとまり次第、身売金を渡すことになっています」
「そういったスタイルもあるんでしたか。なるほど……」
説明を受けて、クールなニートはアゴに手を当てて考え込む。
ユージはよくわかっていない。アリスは口に手を当てたままだ。コタローは検分するように、座る三人の獣人の前をウロウロしている。
「聞いているかもしれませんが、俺たちの開拓団は少々特殊です。決まったら、今後はほかの村や街に行けなくなると思ってください。ずっと開拓地で生活することは問題ありませんか? 奴隷となる一人だけではなく、ほかの二人も」
「家族が一緒であれば問題ありません。農村でもそんなものです。あの村は街に近いといっても、街に来るのは年に一度程度で、離れた農村ではずっと出ないのが当たり前です」
「森に出て狩りができるニャら問題ニャい。街は好きじゃニャいし」
「ボクも、お父さんとお母さんが一緒なら問題ありません! だからお願いします! その、ボクが奴隷になってもいいですから!」
「過酷! 農村の人たち過酷すぎる!」
「落ち着けミート。日本だって、一昔前の農村はそんな感じだったらしいぞ。隣村から嫁が来るだけで村をあげての大騒ぎってな」
「おおおおお! 一人が決まると三人セット! すばらしすぎる! 採用、採用しようクールなニート!」
「獣人の親子、ですか。ところで二人目の子供は考えてらっしゃいますか? 大事なことなのです」
「もうやだコイツら。人選間違ってるだろ。はあ、王都行きたい」
クールなニートと農業指導者候補の獣人、犬人族のマルセルの間で真面目な会話が交わされている間にも、トリッパーたちは小声で大騒ぎである。
ともあれ、おおむね前向きな意見が多い。
というかそもそも「奴隷」を購入するのはOKなのか。人身売買ではないのか。現代日本人の闇は深い。
「奴隷、か。いずれにせよ、持ち帰って検討します。決定までの期限はいつまででしょうか?」
「そうですねえ、もし断られたら別の買い手を探さなくてはなりません。この夏の間にお願いします」
「……わかりました」
たしかに、農業指導者は探していた。
ケビンから「奴隷なら見つかった」という事前説明もあった。
だが、クールなニートや一部のトリッパーたちは、「奴隷の購入」にまだ抵抗があるようだ。すでに賛成しているトリッパーたちもいるが。
ユージがこの世界に来てから三年目、トリッパーたちが来てから初めての夏。
この世界に生活基盤を作るための人材確保は、すんなりとはいかないようだ。
文字量がかさむわりにまとまらない……
次話でなんとかします!たぶん!
次話、11/25(土)18時更新予定です!





