IF:第二話 ユージと掲示板住人たち、街で移住希望の冒険者たちを面接する
「ユージ殿、いえ、ユージさん、お待たせしました。おうお前ら、入ってこい」
プルミエの街の冒険者ギルド、その二階にある一室の扉が開く。
入って早々にユージに声をかけたのは、頬に傷跡が残る人相の悪い男。
冒険者ギルドマスター、サロモンである。
「さーて、どんな人なのかなー!」
「落ち着けミート。俺たちはただ冷静に面接するだけだ」
「不採用で。獣人さんの冒険者パーティにしよう」
「引退されるということは年配の冒険者でもいいのでは? そう、お子様がいらっしゃるような」
「どうせエルフじゃないんだしなあ。王都までの護衛を頼んだらいくらぐらいなんだろ」
「誰だコイツら連れてきたヤツ! どう考えても人選ミスだろ!」
「お兄ちゃん、緊張しすぎだって。ほら、クールなニートさんもいるんだし大丈夫だよ」
「ユージ兄? おててがふるえてるよ?」
「なんでもない、なんでもないんだアリス」
先に部屋で待っていたのは、開拓地から街にやってきたユージとアリスとケビン、それにトリッパーたちのうち街に同行してきたメンバーだ。
ユージとアリス、ユージの妹のサクラと、引率役のケビン。
それに名無しのミート、クールなニート、ケモナーLv.MAX、YESロリータNOタッチ、エルフスキー、検証スレの動画担当、計10人の団体様である。
希望者を募ったところ、このメンバーとなったらしい。
コタローはユージに抱えられて、呆れたようにわふっと肩を落としている。ちょっとへんたいりつがたかくないかしら、とばかりに。どうしてこうなった。
今回ユージたちが街に来たのは、開拓団として迎えるかどうかの面接のためだ。
トリッパーのうち「人にこだわりがあるメンバー」と考えたら、変態どもが立候補するのは当然なのかもしれない。
面接は大丈夫か。
「失礼します!」
「ははっ、かしこまりすぎだろブレーズ。俺たちゃ冒険者だぜ? 気取ったってどうせ地が出るだろ」
「ちょっとエンゾ! すみません開拓団長さま」
ギルドマスターのサロモンに続いて、ぞろぞろと五人の冒険者たちが入ってきた。
いや、四人は武器を携帯して鎧姿だが、最後尾の一人は平服だ。
四人はギルドマスターとともにユージたちの向かいに座るが、平服の女の子はひときわ大柄な男の斜め後ろに立っている。
「ユージさん、こちらが3級冒険者パーティ『深緑の風』のみなさまです」
「開拓団に迎え入れていただけるとなれば、移住することになりますからな。今日は拠点管理を担当している人物も連れてこさせました」
「なるほど。では、その五名が移住希望者ということですね」
「な、なんかクールなニートがかたい……」
「ほら静かにしてお兄ちゃん。クールなニートさんに任せちゃおう」
ケビンの紹介に、ギルドマスターが言葉を続ける。
応じたのはクールなニートだ。
ユージはすでに採用面接の空気に耐えられそうにない。開拓団長なのに。
「では、さっそく面接をはじめましょうか。弊社……この開拓団を希望した動機をお聞かせください」
「あー、ウチのリーダーと弓士が結婚するらしくてよ。そんで盾役と嬢ちゃんも結婚するって言ってなあ。こりゃ引き際かなって時にサロモンのおやっさんがこの話を持ってきてくれたのよ」
「エンゾ! あってる、あってるけど!」
「気取ってもムダ、かあ。まあそれもそうだな。エンゾの言った通り、結婚するんで引退を決めました。戦闘指南役を探してる開拓団のことを聞いて、開拓民として移住できればと」
クールなニートの質問に身をすくめるユージ。
ユージだけではなく、名無しのミートやケモナーやエルフスキーや動画担当も引き気味だ。
アメリカで働いていたサクラはともかく、ロリ野郎もこの空気が平気らしい。超人か。
まあ、面接される側の冒険者たちが畏まらなかったために、日本の採用面接よりは緩い雰囲気になったようだが。幸いである。ユージにとって。
「俺たちは3級冒険者だ。斥候の俺、エンゾは森の探索に罠を教えられるだろう。手先は器用な方だしな、細けえ作業も任してくれ! あと夜遊びも教えられるぞ?」
「よ、夜遊び? プルミエの街で、夜遊び?」
「そ、そそ、それはまさか、その、獣人さんもいらっしゃるお店がありますか?」
「なに反応してんだミートとケモナー。おい、ユージもちょっと目が輝いてんぞ」
「……お兄ちゃん?」
「な、なんでもないんだサクラ! そんなお店にいっても俺なにも話せないだろうし!」
面接をクールなニートに任せた外野は大騒ぎである。なんで連れてきた。
「はあ、これはもうダメかなあ。私はセリーヌ、弓士です。狩りを少し、それに弓を教えられるわ。人数を揃えれば、防衛には役に立てると思うんだけど……」
「弓、遠距離武器ですか。確かに、使える者が増えればありがたいですね」
「『深緑の風』のリーダーのブレーズだ。軽戦士として近接戦闘を指導できる。それからこの無口な大男はドミニク。パーティの盾役で、盾の扱いを教えられるだろう。開拓団ともなれば、身を守る術は大切だからな」
言われて、コクリと頷く大男。面接でも言葉を発するつもりはないらしい。日本なら確実にアウトである。
「それと、後ろで控えているのは元奴隷でドミニクの嫁だな。俺たちの拠点の管理を担当してきた。掃除洗濯炊事、家事を教えられるだろう」
「やった! 30人もいるのに、家事ができる人が少なくて」
「母ちゃんは偉大なり!」
「おいお前と一緒にするな。元社会人の俺は家事ぐらいできるし」
「斥候、軽戦士、盾役、弓士、家事担当。なるほど、バランスがいいパーティですね」
「だろう? だから儂が推薦したのです! 3級冒険者パーティとして実績は充分、それに依頼主からの信頼も厚いのですよ。その、多少ぶっきらぼうなのはご容赦いただきたく……」
「ユージさん、彼らは冒険者としては礼儀正しい方ですよ。粗暴な方もいらっしゃいますからねえ。この前の二人組のような」
「は、はは、申し訳ないケビン殿」
冒険者たちの、面接らしからぬ態度をフォローするケビン。
どうやらケビンは、この五人を開拓団に入れることに賛成らしい。
それも当然かもしれない。
彼ら『深緑の風』は3級冒険者のパーティだ。
冒険者は10級からはじまり、1級が最上位である。
だが、一流冒険者と呼ばれる4級以上の冒険者は、辺境全体で40人程度しかいない。
「領主夫人と代官様にお会いいただきましたが、お二方とも賛成でした」
「おや、そちらはすでに終わっていましたか。では、五人の経歴については」
「ええ、問題ありません」
稀人が集まる開拓団は、領主夫妻と代官、為政者たちも重要視している。
代官はケビンに「候補者がいれば過去の記録を当たる」と告げていた。
『深緑の風』の五人は、すでに人物調査をクリアしているらしい。
「あのねえ、アリス、つよい人がたくさんになるのはいいと思うの!」
「そうだねアリス。でもほら、俺たちは静かにしてようか」
幼女は移住に賛成なようだ。モンスターとの戦いが身近な世界において、戦闘力が重要だとわかっているのだろう。脳筋幼女である。本来、幼女は魔法使いだが。
「『深緑の風』のみなさん。現段階では言えませんが、この開拓団は特殊です。少なくとも、自由に街には行けなくなるでしょう。それでも希望しますか?」
暢気なアリスとユージをよそに、クールなニートの面接は続く。
もっとも、いまだに厳しい目を向けているのはクールなニートとケビン、それにサクラぐらいのものだが。
ぼんやりしたユージ、強い人たちが仲間になりそうでニコニコご機嫌なアリス、いいとおもうわ、と言いたげなコタロー。
そして。
「俺はなんか大丈夫な気がするなー」
「ミート! だけどこの人たちは人族だぞ!? せっかくなら獣人さんを!」
「王都まで片道一週間ぐらい、往復二週間ちょっと。八人かける十五日って考えたらけっこうな値段になるんだろうなあ」
「いまそれどころじゃねえだろ。後で聞けエルフスキー。あと動画に声が入るからちょっと黙ってて」
「二組の夫婦、ですか。つまり何年かすれば……」
「だから動画に声が入るって、あ、どうせ聞き取れないし、いっか。でもロリ野郎は不穏な計算を止めてくれ」
ほかのトリッパーたちはお気楽なものである。他人事か。
自分たちの開拓団への入団を希望する人たちで、最悪、受け入れることで身の危険があるかもしれないのに。
きっとギルドマスターやケビン、領主夫人や代官を信用しているのだろう。
あと採用担当のクールなニートを。きっとそうだ。
ユージがこの世界に来てから三年目の、トリッパーたちにとっては初めての夏。
開拓団となった32人と一匹は、新たな開拓民の選別を進めるのだった。
予定ではこのあと農業指導者候補にも会い、一通り面接した後は採用するかどうか、開拓地に持ち帰って決めるらしい。
そこでGOが出れば、秋の前には移住して冬に備えるのだという。
激動の春に続いて、夏も忙しくなるようだ。
ユージにはあまり自覚がなさそうだが。
次話、11/18(土)18時更新予定です!
……ひさしぶりの登場すぎて設定資料を引っ張り出しましたw
『10年ニート』の本編七章あたりから登場し、
十一章のワイバーン戦で活躍した『深緑の風』の皆様です。
本編ではホウジョウ村のキーマンでしたね!





