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【IFルート】10年ごしの引きニートを辞めて外出したら自宅ごと異世界に転移してた【集団トリップ】  作者: 坂東太郎
『IF:第十章 ユージと掲示板住人たち、異世界で開拓する』

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IF:第十章 プロローグ


「きゃー! ユージ兄、つめたーい!」


「うーん、もうちょっと待った方が水が温まったかなあ」


 辺境の大森林に、幼女の声が響き渡る。

 応じるように男の声と、わんっ! と犬の鳴き声も。


 ユージがこの世界に来てから三年目。

 慌ただしかった春が終わり、季節は夏になっていた。


「じゃあアリス、火まほーでえいってやる?」


「アリスちゃん、お願いしてもいいかな? でもちょっとだけだよ?」


「おおっ! ジョージ、アリスちゃんが魔法を使うって!」


「落ち着けルイス。発生源が気になるのはわかるが、近づきすぎると巻き込まれるぞ」


 ユージの家の庭。

 そこにいたのはユージとアリス、コタローだけではない。

 アリスのすぐ横にユージの妹のサクラが、その後ろにはサクラの夫のジョージと友人のルイスがいる。ルイスのテンションは高い。


「おおおおお! 異世界に来てよかったです! アリスちゃーん!」

「おい誰かコイツを止めろ! というかこの環境で水遊びするユージの精神がすげえ!」

「加勢するぞ動画担当! いまのうちに機材を離しておけ! 濡れたら大惨事だ!」

「なあ、カメラおっさんも離れた方がいいんじゃないか?」

「なんでここには幼女と人妻しかいねえんだよおおおおおお! 獣人! 獣人さん!」


 だが、アメリカ組よりも門の近くにいるトリッパーたちはさらにテンションが高い。

 特に、羽交い締めで拘束されるYESロリータNOタッチが。


 春に30人のトリッパーが来てから初めての夏。

 ユージはサクラと一緒に、家の倉庫からとあるものを引っ張り出していた。

 幼い子供がいる庭付き一軒家には付きものの夏の風物詩。

 ビニールプールである。


 ロリ野郎のテンションが上がるのも当然だろう。

 もっとも、アリスに合うサイズの水着はなく、濡れてもいい服を着て遊ぶようだ。

 ユージやサクラ、ジョージたちは短パンで、プールに足を突っ込むだけのつもりらしい。しょせん子供用の浅いプールなので。

 ちなみにコタローはすでにずぶ濡れである。水遊びをためらうような雌犬(ビッチ)ではない。


「水遊びかあ。白い鳩の水上公園が懐かしい!」

「どこの田舎の話だよ。地元が湖の街って湖で泳ぐもんじゃないのか?」

「止めろ名無し。湖の街って、有名な巨大ショッピングモールのことだから。名無しは知らなくてもしょうがないけど」

「え? 水遊びって沢でやるもんじゃないの? 度胸試しに岩場から飛び込んだり、川を滑り降りたり!」

「ガチの田舎者きましたー!」

「沢では釣りをするものだろう? あとはざざむしを」

「黙れドングリ博士! それ以上は言わせねえから!」


 テンションが上がっているトリッパーは、ロリ野郎だけではないらしい。

 いつものごとく大騒ぎである。


 ユージの家は、いまでは森に囲まれているだけではない。

 32人と一匹は、日本から持ち込まれた物資を使って、家のまわりを開拓した。

 森は伐り拓かれ、立派な『開拓地』と呼べるだろう。


「さーて、俺は畑の様子を見てこようかな!」

「働くねえトニー。んじゃ俺は掲示板を見てこようっと!」

「働かねえなあ名無し。俺もチェックするかな!」

「お前ら、今日は休みだからって……俺も俺も!」


 日本から持ち込んだ苗と種を植えた畑が一つ、この世界の農作物を育てる畑が一つ。

 ローテーションでユージの家のトイレとお風呂も使っているが、トリッパーたちが主に使う野外共同トイレと野外共同浴場。

 そして、ユージの家の北側、勝手門と繋がるように一軒の粗末な平屋があり、いまも改築中だ。

 ユージの家に住んでいるのはユージとアリス、サクラ、ジョージ、ルイス、コタローの五人と一匹。

 ほかの27人は自分たちで作った平屋か持ち込んだキャンプ用テントで暮らしている。

 それだけではツラいだろうと、ユージの家の一階、畳の部屋に布団を敷いて、ローテーションで毎日2〜3人がお泊まりする。

 それが、開拓地の日常となっていた。


 もしユージの家がなければ、トリッパーたちは早々に街で暮らすことを選んだかもしれない。

 まあ家というより、電気とネットが繋がるから、トリッパーたちは開拓地で暮らしているのかもしれないが。

 なにしろここにいればネットが繋がって掲示板に書き込めるし、なんだったらアニメも見られるのだ。

 異世界にいながらにして、元の生活を送れるようなものである。ちょっと不便だが。


 いつもは班ごとに開拓や探索、戦闘訓練などに当てているが、今日は休日。

 数名の見張りと望んで戦闘訓練する何人かを除いて、ユージとトリッパーたちは休みを楽しんでいた。


 いま、この時までは。


「おーい、ユージー! みんなー!」

「親分! てぇへんだ、てぇへんだ!」


 ユージの家に向かって駆けてくる二人。

 洋服組Bと名無しのミートである。


「えっと、どうしたんですか?」

「なんでえミート、騒々しい」


 お約束に応えたのは名無しのトニーである。余裕か。

 普通に聞いたユージが真っ当に思える。


「ああっ! ユージ兄、サクラお姉ちゃん、ほらあそこ!」


「アリスちゃん? あ、私も見えた!」


 洋服組Bと名無しのミートが説明するより前に、アリスとサクラ、それにトリッパーたちが原因を見つけたようだ。


「え、なになに? モンスター? ヤバ、槍も盾も家の中で」


「ふふ、大丈夫だってお兄ちゃん。ほら、あそこ」


「ユージ兄、モンスターじゃないよ! ケビンおじちゃんだよ!」


「……ああ! おーい、ケビンさーん!」


 ようやく見つけたユージが、ぶんぶんと手を振る。

 さっきまでプールの水を触ってたせいで水が飛び散る。

 撮影担当の二人がカメラを遠ざけたのは正解だったようだ。


「ユージさーん! みなさーん!」


「クールなニート、どうした難しい顔して?」

「元敏腕営業マンか。いや、ケビンさんが来るのが予定より早いと思ってな」

「そういえばそうかも!……あっ、俺わかっちゃったかも!」

「トニー?」


 太鼓腹を揺らして、ケビンが走る。

 丸い顔に笑みを浮かべているあたり、悪い報告ではないのだろう。

 もっとも、『戦う行商人』の二つ名を持つケビンは、笑みを浮かべたまま戦うらしいが。


「ケビンさん! ひょっとして!」


「はい、トニーさん! みなさん、候補者が見つかりましたよ! この開拓地への移住を希望する人たちが!」


「おおおおお!」

「募集をかけてからけっこう時間がかかったな」

「ケビンさん! それは獣人さんですか!?」

「エルフ! なわけないよなあ。王都に一人だけって言ってたし」

「その方はお子さんはいらっしゃいますか? 女の子でしょうか?」

「なんだっていいからいろいろ教わって強くなってリザードマンに会いに行くんだ!」


 ケビンの一言で、トリッパーたちは大騒ぎである。



 ユージがこの世界に来てから三年目の夏。

 トリッパーたちがこの世界に来て初めての夏。


 ケビンが開拓地にやってきたのは、移住候補者が見つかったかららしい。


 ユージ、人生初の採用面接が間近だ。しかも試験官の方で。



ちょっと短めですが、プロローグなので……

次話、11/4(土)18時更新予定です!

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