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【IFルート】10年ごしの引きニートを辞めて外出したら自宅ごと異世界に転移してた【集団トリップ】  作者: 坂東太郎
『IF:第九章 ユージと掲示板住人たち、全員で異世界の街へ行く』

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IF:第十三話 ユージと掲示板住人たち、街で合流して報告会と今後の相談をする


 プルミエの街、とある建物の一室。

 そこには、33人と一匹が集まっていた。

 ユージとアリスとコタロー、ケビン、それに30人のトリッパーたちである。むさい。

 女性はユージの妹のサクラとアリスだけである。あと雌犬。


「ということで、俺たちは新人冒険者らしくお金を稼ぎました!」

「くっ、トニーとミート班楽しそう! 俺もそっちに行けばよかった!」

「冒険者ギルドで絡まれるってテンプレはあったのに、森ではモンスターに襲われなかったのかー」


 一行はケビンが借り上げた家屋で合流して、夕飯兼報告会をしていたようだ。

 いまは最後の「トニーとミート班」の報告が終わったところである。


「いったん落ち着け。とにかく、全員無事でなによりだ。問題も起こさなかったようだしな」


 報告会を仕切っていたのは、いつものごとくクールなニートだ。

 自身も参加したユージ班はともかく、他の班の報告と大騒ぎっぷりを収めるのにお疲れ気味のようだ。

 なにしろ30人のトリッパーが自由行動で、複数班からの報告である。

 しかもユージは素知らぬ顔で報告を楽しむだけである。開拓団長なのに。いつも通りか。


「では今後についてだが……」


「はい! エルフの冒険者がいる王都に行きたいです!」

「マレカージュ湿原! リザードマンに会いに行きましょう!」

「なに言ってんだお前ら! 冒険者ギルドで獣人さんとパーティ組んで仲良くなるんだよ!」

「私は貧しいエリアを見てまわりたいのですが……護衛をお願いできないでしょうか?」

「歓楽街があるって聞いた。領主夫人ほどじゃなくても! そこに俺の夢が!」

「今日は簡単な依頼だったから討伐依頼を受けたい! ゴブリンかウサギ!」


 大騒ぎである。

 アリスはコタローを抱きかかえて、トリッパーたちの勢いに「ほえー」と呑まれ気味である。あとユージも。


「みんな落ち着け。一度冷静になれ」


 疲れた顔でトリッパーたちをなだめるクールなニート。

 戦闘が絡まなければ、クールなニートはクールなのだ。


「初めて街に来て、わかったことがある。……俺たちは弱い」


 クールなニートの声が響く。

 なんとなく静まり返るトリッパーたちとユージ。同席したケビンは、興味深くクールなニートを見つめている。

 アリスとコタローは「弱い」発言に異論があるようだが、サクラに「いまは静かに聞いてよう」となだめられていた。さすが魔法だけなら4級相当の幼女と、5級相当の犬である。

 32人と一匹の中で最強は幼女と犬だ。

 クールなニートの「俺たちは弱い」発言も当然か。


「ギルドマスターには四人がかり、五人がかりでも歯が立たなかった。弓もクロスボウもあっさり斬り落とされた」


「でもこの世界の武器しか使わなかったし! 今日だってちゃんと冒険者したし!」


「ドングリ博士、例のアレは通用すると思うか?」


「どうだろう、初見ならイケるんじゃないかなあ。それか散弾なら一発ぐらいは……」


 ケビンがいるからか、猟銃とは明言せずに話をするクールなニートとドングリ博士。

 ドングリ博士が持ち込んだ猟銃。

 この世界にない武器でも、当たり前だが発砲の前には狙いをつける必要がある。

 武器である、狙われていることに気づかれたら、ギルドマスターは対処するだろう。ドングリ博士も自信はないらしい。


「俺たちの中で最強の攻撃は通じるか不明。そして、冒険者ランクが一番高いのはユージだ。アリスちゃんとコタロー以外では」


 あらためて冒険者ギルドの登録試験の結果を思い起こさせるクールなニート。

 32人全員、冒険者として登録はできた。

 だがほとんどは10級、数名が9級、ユージは7級相当だが8級スタートだ。

 いかに慣れない武器だったとはいえ、全員駆け出し冒険者相当の強さしかない、ということだ。


「戦闘力がなくても財力があれば護衛を雇える。権力があれば何かが起きても対応できる。だが、俺たちには何もない」


「え? 権力? どういうこと?」


「お兄ちゃん。ほら、代官様がいたから冒険者ギルドで絡まれてもああなったわけで」


「ああ、そういうことか。……すぐわかるなんて、サクラはすっかり大人になったなあ」


 真剣な話をしていても、ユージの抜けっぷりは変わらないらしい。

 妹のサクラ以外にはスルーされている。トリッパーたちも慣れたものだ。


「全員分の住人証明を得て、街には自由に来られるようになった。予定通り、一度帰らないか?」


 そう言ってまわりを見るクールなニート。


 ユージたちは、街に来た目的のほとんどを済ませている。

 信頼できる戦闘指南役や農業指導者はまだ確定していないが、一朝一夕で見つかるものでもないだろう。

 何しろバイト募集のフリーペーパーも転職サイトも人材派遣会社もない世界なのだ。

 冒険者ギルドはあるが、「明日から住み込みで働ける人!」と依頼をかけてもそうそう見つからない。

 そもそも、ギルドマスターが信頼できる冒険者を探してくれる手はずになっている。

 この世界での人材探しは、時間がかかるようだ。


「はい! 俺は帰る案に賛成です!」

「ミート? あんなにノリノリで冒険者してたのに!」

「だってそろそろ掲示板に書き込みたいし!」

「あっ。ネタも素材も揃ってるからなあ」

「俺も帰りたい。さすがにバッテリーが限界でなあ」


「私も賛成かな。その、ゆっくりお風呂にも入りたいし……」


「リザードマンの居場所はわかったのに! くう、力があれば!」

「力が欲しいか……?」

「いやいまそういうネタ止めろって」

「護衛を雇うお金があれば、一人でも王都に行くのに」


 クールなニートの提案は当初の予定通りのことなのに、トリッパーたちは大騒ぎである。


 初めて来た異世界の街。

 思ったよりも清潔で快適に生活できているが、トイレもお風呂も、ユージの家ほどの快適さはない。もちろんネットも繋がらない。

 力が必要だというクールなニートの発言もさることながら、トリッパーたちにとってはその辺が大事なのかもしれない。


「俺も、帰った方がいいと思う」


「お兄ちゃん?」

「ユージ?」

「やっぱりユージも掲示板に書き込みたいのか! それともお風呂に入りたい方?」


「まだ帰らないで、冒険者ギルドで訓練するのもいいと思うんだけど……でもやっぱり、危険はあるわけで」


 ぽつりぽつりとユージが語り出す。

 トリッパーたちは、茶化すことなくユージの言葉を聞いていた。

 この世界に来てから三年目、先輩トリッパーのユージの言葉を。


「ウチに帰れば、謎バリアがある。そうすればほら、モンスターに襲われたって逃げ込めばなんとか……ワイバーンにだって勝てたんだし……」


「ユージィ! もっと前向きに!」

「いいこと言うかと思ったら引きこもりの発想だった件」


「その、戦い方を教える人が来て、みんなで訓練して、モンスターとか動物を倒して位階を上げて、いろいろ動き出すのはそれからでも遅くないかなって!」


「お兄ちゃん……」

「ユージもいちおう考えてるっぽい」

「さすが開拓団長! さすユージ!」


 後ろ向きに思えた発言だが、ユージはユージなりに考えていたらしい。


 トリッパーたちもユージも、街に入れるようになった。

 同時に、ワイバーンやゴブリン、オークは倒したものの、この世界で飛び抜けた戦闘力があるわけではないことがわかった。

 だから、謎バリアを利用して安全を確保しつつ、力をつける。

 ユージはそう考えたのだろう。

 もちろんケビンや領主、代官のはからいで食料や物資を確保できる状況も理由の一つなはずだ。

 このままで生きていけなければ、さすがのユージもリスクを冒すだろう。たぶん。


「さて。では、決を取ろう。一度帰ることに賛成な者は挙手を。街に残る、あるいはすぐに別の場所に行きたいという者はそのままで」


 開拓団長であるユージの意見を受けて、クールなニートが呼びかける。


 すぐに31本の手が挙がった。

 わかっているのかいないのか、アリスも手を挙げて32本。

 ユージとアリスとトリッパーたち、全員である。


 同席していたケビンは手を挙げていないが、相談役としての立場だからだろう。

 あとコタローも手を挙げていない。犬なので。そもそも脚しかない。


「……みんな意外に冷静だな」


「おいクールなニート、どういうことだ!」

「そうだそうだ! いくらケモナーだって獣人さんと仲良くなる前に死ぬわけにはいかないだろ!」

「大丈夫、エルフは逃げない。逃げない、よなあ」

「思ったよりも街の環境はいいようです。それに……お金や力がなければ、幼女を保護できませんから」

「すごく不安なんだけどそれちゃんと保護だよね? 攫うつもりじゃないよね?」


 剣と魔法の世界の、初めての街。

 憧れの異世界なのに、トリッパーたちは意外に冷静であったらしい。クールなニートが驚くほどに。

 憧れの異世界は失敗すれば死ぬこともあると、モンスターとの遭遇で理解していたのだろう。


「じゃあ、みんなでウチに帰ろう!」


「ユージ、必要な物を購入してからな。ケビンさん、よろしくお願いします」


「ええ、お任せください。せっかくみなさんが街に来たわけですからね、私一人で運ぶよりも量を増やせますし」


「位階が上がって力もついてるからね!」

「お手柔らかにお願いします! 俺引きニートだったんで!」



 ワイワイと、報告会と今後の相談は最後まで騒がしい。


 ともあれ、ユージとアリスとコタロー、30人のトリッパーたちは帰ることにしたようだ。

 謎バリアに守られたユージの家と、自らの手で伐り拓いた開拓地へ。




※10/14追記 絶不調のため更新遅れます。15日には更新したく……遅れても18日までにはなんとか!


次話、10/14(土)更新予定!

次話は掲示板回、次々話で今章エピローグにして章を締めるつもりです。

次章は班ごとや個別の行動もはじまるので、いろいろ視点を変えるかもしれません。


10/25発売の『10年ごしの引きニートを辞めて外出したら⑤』、活動報告で書影を公開しました!

六巻目の今巻が最終巻!

web版に続いて書籍版も予定していたラストまでたどり着いて打ち切りではないですよ?w

書籍版のユージもよろしくお願いします!

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― 新着の感想 ―
[一言] 今気づいたけど現代製の放たれたクロスボウの矢を斬り落とせるってありえないレベルですごい。 しかも10m以下の距離で・・
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