IF:第十二話 ユージと掲示板住人たち、プルミエの街でのそれぞれの行動:トニーとミート班
「エルフの冒険者がいるのは王都だけ。はあ、王都に行きたいなあ……」
「リザードマンを! モンスター扱いするなんて! あげく10級じゃ倒せないから近づくなって!」
「はいはいみんな落ち着いて! 草を採ってくる依頼を受けたんだから!」
「これはアレだね! 大量に採取するか実は貴重な草が混ざってるパターンだね!」
「トニー、ミート、もうちょっと真剣な表情で。よし、動画でまわすぞー」
プルミエの街の北側、農地から離れて木々がまばらに生える林。
そこに、ガヤガヤと騒がしく楽しそうな一団がいた。
自由行動を許されたトリッパーたちの一班である。
名無しのトニーとミート、カメラおっさん、エルフスキー、爬虫類バンザイ!、数人の名無し。
異世界の街に来て冒険者になったんだし、新人冒険者らしく依頼を受ける! と喜び勇んで冒険者ギルドに向かったトニーとミート班。
揉め事はごめんだと応対したギルドマスターに薦められて、一つの依頼を受けたようだ。
「貴重な草……なあ、この草に貴重なタイプってあるのか?」
「こまけえこたあいいんだよ! だいたいこの草がなかったらトイレットペーパーを常に持ち歩かなくちゃいけなくて大変だろ!」
「トイレットペーパーがわりの草なあ。思ったより柔らかいし、燃やしたら消臭剤になるし、森じゃどこにでも生えてるし……集めてくる意味がいまいちわからないんだけど」
「ほら、街には生えてないし採りに行くのは大変なんだってきっと! やった、群生地発見!」
一行が受けたのは、ある種のお約束の「薬草採取」、ではない。
森に生えるある植物、トイレットペーパーになる草の採取である。
ちなみに全員、アリスに草の存在を教えられて使用経験がある。
というかユージの家からプルミエの街に向かうまで、道中でも使用していたのだ。
どこにでも生えていて、使用感も悪くなく、使用後に燃やすと消臭剤になる便利な植物。
森でトイレットペーパーを使って処理に悩むよりはと、ユージとトリッパーたちは活用したのである。
「みんな、そろそろ森だからね! 気をつけて!」
「気をつけてって言われてもなあ」
当たり前だが、トニーとミート班は武装している。
行きの道中でも使ったクロスボウ、ユージから借りた短槍と盾、共有の円盾、小剣、バールのようなもの。
目立たないようにこの世界の服を着ているが、その下に元の世界から持ち込んだプロテクターをつけている者もいる。
まあ、ヒジやヒザを守ったところでしょうがない気もするが。
トニーとミート班が向かったのは、プルミエの街の北側の森だ。
ユージの家がある方角である。
どの森にもトイレットペーパーがわりの草は生えているのに北側を選んだ理由は二つ。
一つは、こちらから来たためなんとなく土地勘があること。
そして、もう一つ。
「だいたい、まだ兵士たちとそんな離れてないし」
チラッと振り返る名無し。
そこには、トニーとミート班に目を向ける二人の兵士がいた。
「いやあ、代官さまもいてくれてよかった! 話が早くて助かりました!」
兵士の横に、プルミエの街の代官も。
ユージたちが代官にゴブリンの頻出について報告すると、街の北の森の大半は封鎖された。
ゴブリンが巣食っている可能性が高く、領軍の訓練を兼ねて討伐が行われる、と大々的に発表されて。
それもまた事実である。
事実であるが、ユージと30人の稀人の存在を隠しつつ物資を運ぶための方便でもある。
もし聞かれたら「北の門を通った物資はどこに運ばれるのか? ゴブリン退治してる領軍にだろう」「森に獣道がある? 補給部隊が通ったからな」などと答えるのだろう。
「な、なあ、荷車を引かされてたの、冒険者ギルドで絡んできた二人じゃなかった?」
「え? ひょっとして、俺たちに絡んだだけでそんなことさせられてんの? キツくね?」
「ひとまず撮影しておいた。例の二人だったか、後で見比べて確認しよう」
「ほら名無し、カメラおっさん! ちゃんと採取しよう! 俺たちは冒険者だからね!」
「ミート、冒険者って言いたかっただけだろそれ……」
普通、いくら封鎖された場所より手前のエリアだからといって、堂々と動きまわることはない。
兵士に監視されて気持ちがいいわけはないし、そもそも兵士たちは「ゴブリンが頻出するから訓練兼討伐」のために封鎖と監視をしているのだ。
つまり、いつ森からゴブリンが出てきてもおかしくはない。
兵士の監視を嫌って冒険者が、ゴブリンを避けるため一般人が近づかないのも当然だろう。
トニーとミート班のハートが強い。
まあ、内情を知っていて、かつたまたま視察に来ていた代官に話を通せたからのようだが。
ともあれ。
トニーとミート班は、新人冒険者として採取依頼をこなしているようだ。
ガヤガヤと騒がしく、楽しそうに。
「ギルドマスター! 採取してきたよ!」
「短時間で! これだけの量を!」
「さあ言ってくれ! お約束の『こ、こんなに……?』ってヤツを!」
「すまん名無し、一歩下がってくれ。そうそう。よし、いいアングルだ」
パンパンの布袋を肩から担いで、男たちがプルミエの街の冒険者ギルドに入ってきた。
中にいた冒険者たちはチラッと目を向けて、目をそらす。
ヤベエヤツらだ、かかわるな、とばかりに。
登録二日目の新人冒険者相手にヒドい扱いである。賢明な判断である。
「はい、お疲れさまです」
頬に大きな傷跡が残るギルドマスターが愛想笑いを浮かべる。
歴戦の勇士でも「代官との繫がりを持つ新規開拓団の開拓民」には頭が上がらないらしい。世知辛い。
「おおっ、なかなかの量ですね! おい、計って報酬を頼む」
横に控えたおばちゃんに指示を出すギルドマスター。
あっさりした驚き方に名無し一人の不満が募るが、そもそもありえないほどの量ではなかったらしい。
当然だろう。
いかに大量とはいえ、森に行けばそこら中に生えているのだ。
外は危険で手間と時間がかかるため冒険者ギルドに依頼が出ているだけで、その気になればすぐに集めて来られる。
「では、こちらが報酬です」
「こ、これだけ……?」
「いやあ、働いてお金を稼ぐって素晴らしいね!」
「俺たちの時給安すぎィ! でも出来高払いだしこんなもんかあ」
「その、新人冒険者への依頼ですし、この草は値段も高くはありませんので……」
ガックリと肩を落とす名無し、申し訳なさそうに頭を下げるギルドマスター。
名無しとトニー&ミートは騒がしい。
カメラおっさんは静かだが、カメラをまわすのに忙しいらしい。
そして。
「ギルドマスター! 俺、王都に行きたいんですけどどうすればいいですか!? 王都に行ってエルフに会いたいんです!」
「え? そこの冒険者さん、いまリザードマンに遭遇したことあるって言ってましたね? その話詳しく! どこ、どこに行けば会えるんですか!」
エルフスキーと爬虫類バンザイ! は大騒ぎである。
ケモナーと同様に、夢にまで見た相手に会いたくてしょうがないようだ。ケモナーほど業が深い感じはない。
「片道一週間……新人冒険者には危険な道中、かあ……」
「ほら元気出して! そのうちみんなで行けばいいっしょ!」
「マレカージュ湿原! 川を下ってマレカージュ湿原に行けばリザードマンがいるんですね!」
「待って、水路は危険だってケビンさんが言ってたから! ちょっと落ち着けって!」
情報を手に入れてしまった二人の騒ぎは止まらない。
ギルドマスターと居合わせた冒険者たちはちょっと引き気味である。
「ほらみんな、今日は帰るよ! もうすぐ夕方、集合時間だから!」
「くっ、俺の冒険者生活初日がこんなあっさり終わるなんて! 俺の眠ってた力は!」
名無しのトニーに率いられて、トリッパーたちは冒険者ギルドを後にする。
彼らが去った後のギルドは、弛緩した空気が流れていた。
やっと行ったか、なんだったんだアイツら、と。
トニーとミート班。
自由行動となった初日に、新人冒険者として依頼をこなしたらしい。
強敵やモンスターの大群に出会うテンプレもなく、採取量や質に驚かれることもなく、無難に。
とりあえず、中世ヨーロッパ風剣と魔法のファンタジー世界を堪能したようだが。
こうして、ユージとアリスとコタローと30人のトリッパーたちの自由行動初日が終わった。
ひとまず何事もなく楽しめたようだが、しょせん一日の出来事である。
住人証明を手に入れて街に入れるようになり、お小遣いを得て、冒険者として登録して、さまざまな情報が集まったトリッパーたちがこれからどう行動するのか。
それは開拓団長となったユージも、案内役となったケビンも、トリッパーたちのまとめ役であるクールなニートも知らない。
あとコタローも知らない。コタローは賢いが、犬なので。
次話、10/7(土)18時更新予定です!
これでひとまわりしたので、次話からまた話が進む予定!
話が進むというか自由度が上りすぎてどうなるか作者もわかりませんが……
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