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【IFルート】10年ごしの引きニートを辞めて外出したら自宅ごと異世界に転移してた【集団トリップ】  作者: 坂東太郎
『IF:第九章 ユージと掲示板住人たち、全員で異世界の街へ行く』

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IF:第九話 ユージと掲示板住人たち、プルミエの街でのそれぞれの行動:ケモナー班


「間もなく到着します」


「いよいよ、いよいよか……」

「俺このグループに入ったのを後悔してる」

「まあそう言うなって! こっちの法律じゃ普通なんだから!」

「郷に入っては郷に従え、とは言いますが、この場合は当てはまりません」

「私は環境を確かめたいだけです。ええ、それだけですとも」


 プルミエの街の大通りを歩く一団がいた。

 先導するのはケビン商会の店員だ。

 ケビンが案内役につけた店員である。


 後に続くのは、今日から自由行動が許可されたトリッパーたちの一班だ。

 ケモナーLv.MAX、元敏腕営業マン、撮影役の検証スレの動画担当、郡司、YESロリータNOタッチ。

 組み合わせが不安になるグループである。


 ケビンは今後の商売に直結するためユージたちのグループに同行している。

 それでも、ケビンはこのグループの案内役に店員をつけた。

 それほど不安だったのだ。

 なにしろ。


「こちらが、このプルミエの街一番の()()()()です」


 このグループの行き先は、奴隷商館だったから。現代日本の闇は深い。


 たどり着いた奴隷商館は大通りに面していた。

 石造りの外観は小綺麗で清潔で、普通の商館と変わりはない。

 もっとも、ケビン商会とは違って一階の間口が大きく開かれているわけではなかったが。


「なんか、思ったより普通な……」

「さあ行くぞ! この中に俺の楽園が! 理想郷があるんだ!」

「ねえよ。だいたい支給された小遣いじゃ買えないから」


 ガヤガヤと騒ぎながら、ケビン商会の店員の案内で入り口の扉を抜ける。

 ケビンに言われて、店員は中までついていくことになっていた。

 六人が奴隷商館に入る。


「ホテルのロビーといった感じか? 広いし何組か座って商談してる風だし、ほんとそれっぽい」


 柱はあるものの、一階はぶち抜きのワンフロアだった。

 ソファとローテーブルが置かれていることから、元敏腕営業マンはホテルのロビーっぽいと思ったようだ。

 予想と違ったのか、トリッパー五人の足は止まっている。


「いらっしゃいませ。本日はどういったご用件でしょうか」


「こちらの方々は奴隷の購入に興味があるようです。初めてのことだそうで、案内をお願いできればと」


「かしこまりました。では、こちらへ」


 六人に声をかけてきた奴隷商館の店員は丁寧な物腰だった。

 粗野な感じは一切しない。

 一階の雰囲気や店員の物腰が意外だったのか、五人の動きは止まったままだ。

 ケビン商会の店員と奴隷商館の店員はその間に話を進める。

 二人の店員につられて、トリッパーたちは大人しくソファに向かった。


「な、なんか、想像以上にしっかりしてるな」

「ここ、ほんとに俺の楽園か?」

「そんなのねえよ。楽園は夢だ、夢」

「ふむふむ。これは幼女の待遇も悪いものではなさそうですね」


 ソファに座ってヒソヒソと話し込む四人。

 郡司は表情を変えずに周囲を観察している。 

 ケビン商会の店員は五人の後ろに立って無言だ。

 奴隷商館の店員は、ソファまで案内したあとに席を外した。


「失礼いたします」


 声をかけられて視線をあげる五人。


 そこには、妙齢の女性がいた。

 若くない。若くはないが、美人と言っていい顔立ちに美しい振る舞い。

 ホワイトプリムにロングスカート、白いエプロン。


 メイドさんである。

 ティーセットを乗せたワゴンを押して、メイドさんの登場である。

 領主の館にもメイドさんはいたのだが。


 メイドさんは五人とケビン商会の店員、それに奴隷商館の店員が座るはずの席にお茶を置いてその場を離れる。

 どうやらこれが奴隷商館の基本的なサービスらしい。


「お待たせしました。おや、どうされましたか?」


「いえ、先ほどのメイドさんの所作が美しくて、見とれてしまいました」


 粗い紙の束を手に戻ってきた店員の質問に答えたのは元敏腕営業マンだ。

 どうやらこのグループ、交渉や基本的な会話は元敏腕営業マンが担当するらしい。

 さすがユージに取引の基本を教え込んだ男である。本当に敏腕だったかどうかはともかく。


「それはそれは、ありがとうございます。ちなみに彼女も奴隷です。当商館の職員として働かせていますが、お望みであれば購入可能ですよ」


「……は?」


 固まる元敏腕営業マン。やはりコイツもポンコツか。


「彼女はもともと王都のとある貴族の屋敷で働いていました。読み書き算術、家事炊事に接客をこなし、簡単な礼儀作法を教えることも可能です。その分お高くなっておりますし、お給金もそれなりの額が必要です」


「そう、ですか。申し訳ありません、俺たちは田舎からの移民でして、奴隷というのが、その」


「これほど能力があり、身綺麗にしていると思いませんでしたか? ええ、他国からいらっしゃった方や奴隷をよく知らない方はそう思われるようですね」


 気を悪くするでもなく、ニッコリと笑う奴隷商館の店員。むしろ元敏腕営業マンより敏腕くさい。


「この国では、奴隷の衣食住を保証することが(あるじ)の責任です。能力に見合ったお給金も必要ですし、奴隷がお金を貯めて奴隷身分を購入したいと言った場合、主が断ることはできません。もちろんおたがいが納得すれば、奴隷でなくなった後も雇うことは可能ですが」


「…………それ奴隷か?」

「おい黙れ動画担当。元敏腕、それよりも! そんなことはいいから!」

「そうです。制度はあくまで制度です。実際に幼女が置かれた環境を確かめなくては」

「これは……法解釈が難しいですね」


「みんな落ち着けって。すいません、お騒がせして」


「いえいえ。では、当商館にいる奴隷を見てみますか? 購入希望者がいれば奴隷になる契約で、この商館にはいない者もおりますが」


「……はい?」


「早急にお金が必要な者以外は、これまで通りの暮らしを続けて購入者を探す場合もあるのです。その場合は書類でご紹介して後日面接という形ですね」


「奴隷ってなんだっけ……むしろ俺が働いてた会社の方が俺を奴隷扱いしてたような……衣食住の保証……」

「もうコレただの人材斡旋所じゃね? エージェント企業じゃね?」


 虚空を見つめる元敏腕営業マン、予想外の待遇に驚く検証スレの動画担当。

 郡司はブツブツ呟きながら考え込んでいる。


「ほらみんな、見せてくれるって! さあ行くぞ!」

「奴隷の年齢は何歳から何歳と規定はあるのでしょうか? 特に下限についてお聞きしたいのですが」


 それぞれにショックを受ける三人をよそに、ケモナーとロリ野郎はノリノリだ。

 立ち上がって残りの三人を促すほどに。

 こうして五人と一人の案内人は、奴隷商館の店員につれられて奴隷を見てまわるのだった。

 購入資金もないのに。




「みなさま開拓民なのですね。では農作業に慣れたこちらの奴隷はいかがでしょうか。とある農園で働いていた男です」


 奴隷商館の二階と三階は、奴隷の待機場所兼宿舎になっているようだ。

 部屋の扉は下半分にあるだけで、上から奴隷の姿を見られるようになっている。


「獣人さん、獣人さんはいませんか!?」

「幼い男女はいないようですね。幼い頃から奴隷とならないことを喜ぶべきでしょうか」

「ええい、黙れお前ら!」


 まるで独居房のように部屋は狭く、プライバシーはほとんどない。

 だが奴隷も部屋も、小綺麗なものだった。

 それも当然かもしれない。

 待機するように言われた部屋をキレイに使えない奴隷など、そうそう買われないだろう。

 部屋をキレイにすること、それにこうして購入希望者が来た時にそれぞれ何か行動することは奴隷にとってのアピールなのだ。

 もっとも、元農家のおっさんの筋肉アピールはトリッパーたちの琴線に触れなかったようだが。農業指導できる人材は捜していたはずなのに。


「身体能力に優れた獣人は人気がありますので、いまこの商館の中にはいませんね。何名か希望者はいたような……」


「書類! 書類を見せてください!」


「それと、幼い子が奴隷となることはほぼありません。奴隷同士の子供が生まれた場合はそのまま育てられるよう主に義務が課せられています。お金に困った場合は両親、もしくは父親か母親が奴隷になって一家ごと雇われることがほとんどです」


「はあ……なんか、思ったより危険な世界じゃないような」


「両親を亡くした孤児は親族や近隣の裕福な家庭が引き取るか、あとは孤児院に預けられることが多いですし……」


「孤児院! 孤児院があるのですねッ!?」


 奴隷商館の店員の言葉に、ケモナーLv.MAXとYESロリータNOタッチ、変態二人が反応する。

 元敏腕営業マンは二人の反応に頭を振り、検証スレの動画担当は気にせずカメラをまわして奴隷のアピールを撮影している。郡司は無言で無表情だ。


「では、一階に下りて獣人の奴隷希望者の書類をご案内しましょうか。ただ……獣人は人気がありますので、お値段の方も少々お高くなっていますよ」


「くっ!」


「なあ、別に奴隷が欲しいわけじゃないんだろ? だったら普通に獣人さんと仲良くなった方がいいんじゃない? 獣人さんの冒険者だっていたんだし、なんなら獣人さんの家族連れとか集まる里とかの方がお前の理想のような」


「元敏腕営業マン天才かよ! なんで気付かなかった俺!」


 本当に。

 なぜ奴隷にこだわっていたのか。現代日本の闇は深い。


「はは、何やら解決されたようですね」


「申し訳ありません、その、冷やかしになっちゃったみたいで」


「いえいえ、いいんですよ。なにしろみなさま開拓民で、まだ新しい開拓団とのことですから。当商館を見知っていただいただけでありがたいことです。農業指導ができる奴隷や農作業に向いた奴隷、戦える奴隷、家事炊事ができる奴隷、必要になる時が来るかもしれません。その時はぜひ当商館へお越し下さい!」


 謝る元敏腕営業マンに、ニッコリと笑顔で語る奴隷商館の店員。

 引け目を感じさせて次に繋げる手法である。

 もし本当に奴隷の購入を考えた時に、元敏腕営業マンはいくつかある他の奴隷商館ではなく、この商館に来ることになるだろう。

 元敏腕は敏腕ではなく、奴隷商館の店員が敏腕であったらしい。


「さあみなさん、次の目的地は決まりました。さっそく出発しましょう!」

「待て待て待て! ここは冒険者ギルドに! 普通に獣人さんと仲良しに!」


 話は終わった、とばかりに立ち上がる二人の変態を見ても店員はにこやかだ。

 そのまま柔らかな物腰でトリッパーたちを送り出す。


 けっきょく最後まで奴隷商館も商館の店員もキレイなまま、それどころか奴隷たちにさえ悲壮感はなかった。

 むしろ奴隷が人道的な扱いを受けていて、社畜時代を思い出した元敏腕営業マンがダメージを受けたほどだ。

 ブラック企業に勤めた元社畜は、この国の奴隷より奴隷だったのか。


 ともあれ。

 奴隷商館を出たケモナーLv.MAXと元敏腕営業マン、撮影役の検証スレの動画担当、郡司、YESロリータNOタッチの五人組とケビン商会の店員は、孤児院に向かうのだった。

 奴隷商館に続いて孤児院。

 まるで、人道的に扱われているか確かめる品行方正な視察団の行動である。

 きっと彼らの目的はそうなのだ。きっと。



おかしい、一話に二班ずつ入れる予定が……

次話、9/23(土)18時更新予定です!


高額商品なわけでそうそう雑には扱われないよね、という設定でした。

本編では語るタイミングがなく、IFルートでようやく書けた……

悲惨な奴隷なんていなかったんや!(この国には)


■ 新作コメディはじめました!

『アイヲンモール異世界店、本日グランドオープン!』というタイトルで、

 架空のショッピングモールを舞台にした物語です!

 興味のある方は下のリンクをクリックしてみてください!

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