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【IFルート】10年ごしの引きニートを辞めて外出したら自宅ごと異世界に転移してた【集団トリップ】  作者: 坂東太郎
『IF:第九章 ユージと掲示板住人たち、全員で異世界の街へ行く』

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IF:第五話 ユージと掲示板住人たち、念願の冒険者ギルドへ行く



 領主夫妻が退室した後、クールなニートとケビンは代官と話し込んでいた。


 開拓地となったユージ家と周囲の開拓、開墾の状況、ケビン商会の新商品である保存食開発と販売の現状、対ワイバーン用バリスタの設置申請、教官役に求めるものなど、その話は多岐に渡った。


 クールなニートとケビンを除く31人と一匹はじゃっかん飽きて、小声で雑談をはじめるほどである。子供か。まあアリスは子供だが。


「では明日、ケビン商会へ向かう」


「お待ちしております」


 ようやく会話が終わり、代官が立ち上がった。

 けっきょく、冒険者ギルドでの教官役探しは、紹介状だけではなく代官自ら向かうことにしたようだ。

 求めるものの重さ、必要な信頼度を示すためにはそれがいいのかもしれない。


 長い面会を終えて、ユージとアリス、コタロー、30人のトリッパーたちもぞろぞろと立ち上がる。

 人払いしていたことから、領主の館の出口までは代官が案内してくれるようだ。


 廊下を先導する代官のレイモンが足を止め、振り返らずにユージたちに告げる。


「おわかりいただけたかと思いますが、領主様は大変な愛妻家でして。こちらに帰ってくる度に、何人か首になるのですよ。領主夫人であるオルガ様に手を出そうとした、とおっしゃって」


 ドキッとした様子の一部のトリッパーをしり目に、クールなニートが「人員補充が大変そうですね」などと返している。クールか。


「ええ、本当に、後始末が大変なんですよ。なにしろ首になるわけですからねえ。……物理的に」


 体と血痕の始末が大変なんですよ、と語り、ゆっくり歩き出す代官。


 何人かのトリッパーたちの足が止まる。

 ユージ。初めて会ったその時から、目線は何度も稜線と谷間に吸い込まれていた。

 巨乳が好きです。そもそもコテハンからしてアウトである。

 撮影担当のカメラおっさんと検証スレの動画担当の二人。今後、『カメラ』の存在を広められなくなったかもしれない。


 俺はセーフだよな、俺はバレないようにチラ見しかしてないし、などと男たちが脳内で主張する中。


「どうしたのーユージ兄! みんなー! アリス、おいてっちゃうよ?」


「アリスちゃん、あんな男たちは放っておいていいのよ。さ、行きましょ!」


 小さな足で歩き続けていたアリスが、立ち止まったユージたちを振り返る。

 が、ユージの妹のサクラに手を引かれてふたたび歩き出す。


 不安そうに顔を見合わせる一部の男たちを置いたまま。


 代官の釘は、深くトリッパーたちに刺さったらしい。

 あとチラ見はバレる。どれだけこっそりでもバレる。解せぬ。



  □ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □



「ついに、ついに!」

「眠っていた俺の力が判明する時が!」

「新人なのにこれは……とか言われちゃったりして! して!」

「お前らテンション上がりすぎだろ」


 プルミエの街の大通りに、大騒ぎする男たちの姿があった。

 トリッパーたちである。

 とうぜん、ユージとアリスとコタローもいる。


「みなさん、道を開けてください! 後ろから馬車が来ています!」


 引率の先生、もとい、引率するケビンは大変そうだ。


 昨日の面会用の服とは異なり、ユージは革鎧を着込んで盾と短槍を持ち、アリスもローブを身に着けていた。

 トリッパーたちにはこの世界の装備がまだ行き渡っていないため、簡素な服と、持っていてもおかしくない装備だけだ。

 ルイスもジョージもチェーンソーは持っていないし、ドングリ博士も猟銃は置いてきている。

 トリッパーたちの持ち物で目立つのはクロスボウ、登山杖、それにバールのようなものである。

 いちおう、この世界に似たような物は存在して、ケビンのOKも出たものだ。

 バールのようなものの形状と強度はともかくとして。


 ケビンの案内で到着したのは、街の中心に近い石造りで2階建ての大きな建物。

 盾の上で交差する二本の剣が描かれたエンブレムが、看板として入り口の上に設置されている。


 冒険者ギルドである。


「あ、ユージ、アリスちゃん、待って。俺が動画撮りながら先頭で入って、みんなが入ってくる様子を中から撮るから。カメラおっさんはみんなが入るところを撮ってくれ」


「異存なし。了解だ、動画担当」


 撮影班の二人が言葉を交わし、検証スレの動画担当が木製の扉を押して入っていく。

 ユージもトリッパーたちも、一番乗りにはこだわりがないらしい。


「んじゃ行こうか、アリス」


「はーいユージ兄! ぼうけんしゃさんたちがいっぱいかなあ」


 動画担当が中に入ってしばらく間を置き、アリスの手を引いてユージが冒険者ギルドに足を踏み入れる。


 途端、見定めるようにいくつもの視線が飛んでくる。


 入り口から右手には、木製のテーブルと背もたれのないイスが並んでいた。

 どうやら酒場としても営業しているようだ。

 多くはグループで腰掛け、話をしたり食事をしていたり、中には昼間から酒を飲んでいる人物もいるようだった。

 左手にはカウンターがあり、三人の受付らしき人が向こう側に座っていた。

 若い女性、おばさま、おっさん。美人受付嬢で揃えているわけではないらしい。


「ああ? 見ない顔だな。子供連れで冒険者ゴッコか? こっちは遊びじゃねーん……だぞ……?」


 入り口に近いテーブルに座っていた冒険者二人組が立ち上がり、ユージに近づこうとして止まる。


 ぞろぞろと、ユージに続いて人が入ってきたので。


「おおおおお! ここが! ここが冒険者ギルド!」

「おい聞いたか!? いまユージ絡まれてたぞ!」

「テンプレきたああああああ!」

「アリスちゃん、こっちにおいで。ほらおじさんの背中に隠れて」

「待て待て待て。お前はナチュラルに幼女に近づこうとするな」

「あああああ! 獣人さんの冒険者さん! 猿型は初めて見てはあああああん!」

「だからコイツは置いてこうって言ったのに!」

「領主の館と同じように石造り。いざという時は防衛の拠点になるのだろう」

「雰囲気あるねジョージ! くうっ、やっぱりリアルはすごい!」

「そうだなルイス。使い込んだ様子や汚れ、匂いがそうさせるのか」

「ほら二人とも入って入って! 後ろがつかえちゃうから!」


 なぜ全員で来た。


 大斧を背負った大柄な冒険者と、見た目は猿の猿人族の男が後ずさったのも当然だろう。

 妙な道具を持った新顔が入ってきて、続けて犬と子連れのなよっちい男が入ってきたと思ったら、後から後から人が来るのだから。


 プルミエの街の冒険者ギルドを訪れたのはユージとアリス、コタロー、30人のトリッパーたち。

 そして。


「おやあ? この街の冒険者は、冒険者ギルドにやってきた依頼主にからむんでしょうか。どう思います、()()()?」


「そこの君、ギルドマスターを呼ぶように」


 ケビンと、冒険者ギルドへの同行を約束したこの街の代官も、ユージたちの集団に混じって。


 冒険者ギルドの空気が凍る。それは、ピシッという音を幻聴するほどの勢いで。


 なにしろ代官が同行する団体である。

 代官となれば、このプルミエの街のトップだ。

 もちろん領地全体で見ればトップは領主だが、そこは問題ではない。


 代官が同行する団体に、冒険者がからんだ。


 必死に目をそらし、俺は関係ないアピールをはじめる酒場の冒険者たち。失敗した口笛の音がスースーと虚しく響く。

 青ざめる受付のギルド員。端に座っていたおっさんは慌てて後ろに駆け出す。代官のリクエスト通り、ギルドマスターを呼びに行ったようだ。


 大柄な冒険者と猿人族の冒険者の顔は、青を通り越して真っ白だ。一人は見た目猿なのでよくわからないが。



 ユージとトリッパーたち、念願の冒険者ギルド。

 建物の外観も中も、いかにもトリッパーたちが夢見る冒険者ギルドだったが、いまでは空気が凍り付いていた。

 ハイテンションだったトリッパーたちが、大人しく次の動きを待つほどに。


 だが、二人組の冒険者は話しかけた段階で止まったのだ。

 穏便な対処でお願いしたいものである。

 でなければ、ケモナーLv.MAXの餌食になりかねない。男にモフられる二足歩行する猿など誰得である。



登場人物が違いますから、状況やセリフも本編から変化しています。

ちなみに本編は「七章 六話〜七話」(全体87〜88話)あたりですね!

それにしても、全員しゃべりだすと進まない……


次話、8/5(土)18時更新予定です!

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― 新着の感想 ―
いいねぇ ココであの二人が登場か 以後二人はどうなるんだろう 楽しみだね
[良い点] カオスなとこ [一言] カオスwww
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