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【IFルート】10年ごしの引きニートを辞めて外出したら自宅ごと異世界に転移してた【集団トリップ】  作者: 坂東太郎
『IF:第九章 ユージと掲示板住人たち、全員で異世界の街へ行く』

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IF:第四話 ユージと掲示板住人たち、全員で領主夫妻と代官に面会する

遅くなりました、7/22(土)分です


「貴族が暮らす屋敷は石造りか。石工が特別な職の可能性、いや魔法がある世界だったか。ならば」

「なあおい物知りなニートがずっとブツブツ言ってるんだけど?」

「ほっとけミート! それよりめっちゃ緊張してきた……」

「俺はもうダメだ。あとは任せたクールなニート!」

「わかってるな撮影班! アングルは大事だけど固執しないように! なによりやわらかさが伝わるようにだな!」

「落ち着け。怪しまれたら殺されるんだぞ」

「鎧姿の獣人さんはかわいかったなあ……シベリアンハスキーが揃って兵士とか……ほんとわかってる」

「あ、お茶おいし。……ジョージ、紅茶が普及したのっていつ頃だっけ?」

「18世紀から19世紀かなあ。でもサクラ、これは紅茶とまったく同じじゃない気がするよ」


「な、なんかみんな普通だね……」


「どうしたのユージ兄? てがふるえてるよ? さむいの?」


 ユージとアリス、コタロー、それに30人のトリッパーがプルミエの街に到着した翌日。

 ユージたちは、全員で領主の館を訪れていた。

 引率のケビンも含めて、33人と一匹の大所帯である。


 ケビンが手配した服に身を包んだユージたちが案内されたのは、いつもの応接間ではない。

 普段は食堂として使われている場所で、室内には長テーブルが二本用意されている。

 テーブル一本あたり、イスは二列。

 合計で四列になって、正餐スタイルで着席していた。


 ケビンが言うには、王都の貴族の館には大人数でお茶会を楽しむスペースがあるらしい。

 ただここは辺境で、実利を重んじる領主夫妻はそうした部屋を用意していないそうだ。

 辺境に大勢の貴族が訪れることはないから、と。

 貴族らしからぬ姿勢は、辺境の民に支持されているらしい。


 ガヤガヤと騒がしい食堂の扉が勢いよく開く。


「お客人、お待たせした!」


「あなた、いきなりそれでは驚いてしまいますわ。よく来てくださいました、ケビン、稀人のみなさま」


「うむ! 31人の稀人とは、こうしてみると壮観であるな!」


 最初に入ってきたのは大きな男。

 王都の騎士でもある領主その人である。

 貴族の挨拶としては失格な領主を咎めたのは領主夫人だ。あいかわらずデカい。


「お久しぶりですファビアン様、オルガ様。みなこちらに来てから間がありません。この世界の礼儀作法を知りませんので、失礼なこともあるかもしれませんが……」


「よいよい、気にするでない!」


「ファビアン様、そうはいきません」


「レイモンは細かいのう。なに、稀人であることを隠すために人払いしておるのだ、問題はないわ!」


 挨拶がてら、コミュ力低めのトリッパーたちを守ろうとクールなニートが口を開く。

 鷹揚に了承する領主を最後に入室してきた代官のレイモンが止めるが、立場は領主の方が上である。

 使用人も含めて人払いしていることもあって、最後には代官も折れたようだ。

 幸いなことに。

 特に、さっそくカメラをまわしている撮影班の二人にとって。


 ところでユージだけはこの世界に来てから三年目だが、礼儀作法を知らないことは言うまでもない。いちおう何度か教わっているのだが。


 ともあれ、細かな礼儀は気にしないという領主の言質を取って、コミュ力低めのトリッパーたちは胸を撫で下ろすのだった。



「領主様、先日、ケビン商会に依頼していた『なめし』が終わりました。こちらは()()()で獲れたワイバーンの革です。どうかお納めください。私たち稀人を認めていただき、また、住人証明の手続きに代官様を派遣していただきありがとうございました」


 話しはじめたクールなニートが、ケビンに目で合図を送る。

 すぐに領主夫妻のところへ木箱を持っていくケビン。

 メインで交渉を担当する二人の連携である。

 ユージをはじめ、トリッパーたちは無言である。


「まあ! なんて美しい革目でしょう!」


「なんと、あの地にはワイバーンが出るのか! して時期はいつだ? やはり春か?」


「ファビアン様、落ち着きを。行かせるわけにはまいりません」


「だがレイモン! 空を飛ぶモンスターとの戦いは貴重なのだぞ! 領軍を鍛えるためにも」


「なりません」


 うっとりと革をなでる領主夫人、ワイバーンと聞いて参戦する気満々の領主、なだめる代官。

 カオスである。

 ユージたちではなく、この街の権力者たちが。

 まあケビンやクールなニートの思惑通り、お礼の品が喜ばれたことに間違いはないだろう。


「ケビンさんの見立てでは、毎年春に襲来するのではないかと。来年も狩れた際は、また献上させていただきます」


 領主はともかく、夫人が喜んでいるのを見てクールなニートが話を続ける。

 このあたり、事前にケビンと打ち合わせていたらしい。

 クールなニートは『賄賂』と取られかねない贈答に抵抗がないようだ。本当に現代日本人か。 


「なんぞ儂に頼みたいことでもあったか?」


「頼みとは少々違うかもしれません。私が稀人のみなさまから相談を受けまして、領主様に(はか)りたいことがございまして」


「ほう?」


「現在、稀人のみなさまは開拓地で生活しています。開墾もはじめていますが、収穫は微々たるものでしょう。食料を運び込まねばならないのですが、そうすると必然的に道ができますし、運搬のためには道を造る必要があるのですが……」


「ふむ、なるほど。要は道ができて開拓地の場所がバレる、さらには稀人だとバレることを心配しているのだな?」


「ええ、その通りです」


 ユージとトリッパーたちは、開拓民としてこの地に在ることを認められた。

 ただ、『この世界にない知識を持つ稀人』は、金の卵を産むガチョウになり得る。

 他領の貴族や大商人など、稀人の存在を知れば狙う者もいるだろう。

 そのため領主夫妻と代官は、ひとまず稀人たちの集団を隠すことにしていたのだ。

 現在、ユージとトリッパーたちが暮らす地は開拓地として扱われているものの、一部の人にしか知られていない。

 ケビンやユージ、クールなニートの懸念は理解されたらしい。


「32人という人数です、いつまでも隠し通せるとは思っていません。ですが、あまりにも早いと」


「うむ、そうだな。……では、北の森の一部を封鎖しよう」


「え? 封鎖?」


「落ち着けユージ。領主様、そこまでして問題はないのでしょうか?」


「なに、あの辺りにはちょうど懸念が上がっておったところだ。そうだなレイモン?」


「はい。北の森にはゴブリンが頻出していると冒険者ギルドから報告がありました」


「うむ、今回は訓練を兼ねて領軍が対応することにすればよい。野営と補給の訓練も兼ねているとでもすれば、糧食の運搬も目立たず、森の中に道ができてもおかしくないだろう。実際にゴブリンがいるのだからな!」


 ユージたちも心配していた、頻出するゴブリンたち。

 領主は『領軍の訓練』を名目に、ゴブリンの巣の捜索と討伐を行うらしい。

 そうなれば森の一部を立ち入り禁止とするのもおかしくはないし、物資の運搬も目立たない。

 ところで、座るクールなニートのズボンの裾をコタローが甘噛みしていた。わたしをぬかしたわね、と言いたいらしい。空気が読めない女である。犬なので。


「なるほど……私たちのために、ありがとうございます」


「はは、気にするでない! これは訓練であり、民を守るためのゴブリン討伐である!」


 頭を下げるニートに、からりと笑う領主。

 稀人であると領主に明かしたことは、トリッパーたちの想像以上にプラスに働いているらしい。

 封建制で権力者が味方にいるメリットたるや。


「あれ? ゴブリンって冒険者ギルドに依頼するんじゃなかったっけ?」


 そんな和やかな会話をぶった切ったのは、当然ユージである。

 雉も鳴かずば撃たれまいに。

 コイツこの流れで発言しやがった、とトリッパーたちから驚きの目で見られるユージ。

 あ、と言いながらユージがいまさら口を押さえる。手遅れである。手遅れではあるが、致命的なミスではない。


「ふむ?」


「あー、落ち着けユージ。領主様、ゴブリンの頻出は私たちも気付いていました。冒険者ギルドに報告して、必要であれば討伐の依頼をかけようと思っていたのです」


「なるほど、そういうことか。まあ儂の領軍に任せるがよい!」


「ありがとうございます。……実は冒険者ギルドに関しては、一つ相談があります」


「ほう? 申してみよ」


「私たちは、元の世界で戦闘経験がありません。この世界でモンスターを見て、自らの身を守る必要性を痛感しました。冒険者に教官役を依頼できないか考えていましたが、ここまで秘匿するとなると……」


「ふむ、誰でもいいわけではないな。冒険者から漏れたら意味がないからの。では儂自ら」


「あなた? 何か言いかけましたか?」


 身を乗り出した領主の腕にそっと手をかける領主夫人。

 領主、教官役を買って出るつもりだったらしい。この地のトップなのに。


「レイモン、ファビアンが何か言い出す前に任せますわ」


「はっ。秘密を守るとなれば奴隷がいいかもしれません。領軍から人を出すならば、派遣したまま街に帰らせないわけにはいきません。秘密が漏れる可能性も」


 レイモンの言葉に、何人かのトリッパーが無言のまま驚きを見せる。

 あっさり奴隷を薦めてきたことに。

 いくらこの世界では当たり前といっても、あっけらかんと言い出した軽さに驚いたらしい。

 一人、獣人さんかな、などと目を輝かせていた者もいたが。


「儂からギルドマスターへ手紙を(したた)めよう。口が堅く信頼できる冒険者がいれば、その者らでも構わぬぞ」


「ありがとうございます、領主様。では後日、冒険者ギルドに向かい、その後あらためて代官様に相談いたします」


「うむ、それでよい。もし誰もいなければ儂」


「では稀人のみなさま、(ワタクシ)とファビアンはここで失礼いたしますわ。レイモン、あとは任せますわね」


「はっ」


 言葉を遮って領主夫人が席を立ち、領主を立たせる。

 いちおう話が終わったこと、領主が『稀人の教官役』を諦めきれないことを理解したのだろう。なにしろ過去の稀人には、超常の力を授かった者もいたそうなので。冷静な判断である。



 ともあれ領主夫妻への話は終わり、大筋で合意は得た。

 領主夫妻は席を立ち、あとは代官と細かな話を進めるのだった。クールなニートとケビンが。

 ユージをはじめ、ほかのトリッパーたちは置き物である。

 全員参加だったのは領主夫妻への挨拶と顔繋ぎのためだったので、いちおう仕事は果たしたと言えるだろう。たぶん。



長くなったのでいったんここまでで。

更新遅くなったせいで、二日後に次話ですしね……

ということで次話、7/29(土)18時に投稿予定です!

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