IF:第三話 ユージと掲示板住人たち、街の滞在拠点で今後の予定を打ち合わせる
ついに全員で、プルミエの街にたどり着いたユージたち。
案内役のケビンとユージとアリス、それに30人のトリッパーは、門前広場で顔を突き合わせてヒソヒソと話していた。
「いいか、みんな。『異世界』『稀人』という単語は禁止だ。いくら領主様に認められたとはいえ、隠すに越したことはない」
「えーっと? クールなニート、どういうこと?」
「ユージ、不安なら外では黙ってればいいって。みんなも、ごまかすのが苦手なヤツは黙っておけ!」
「その方がいいでしょうね。僻地の村人が何かの折りに集団で来ることもありますし、移住者の団体が訪れることもあります。さきほどの二つの単語さえなければ、多少騒いでも問題ありませんから」
「よっしゃケビンさんからOK出た! 俺はしゃべるぞミートォ!」
「……みんな、あとは任せた」
「んんー、私は気をつければ大丈夫だと思うのよね」
「石材、木材は共通だけどデザインや配色に共通項がない。そうか、移民の街なんだっけ。バラバラなのにどこか統一感がある」
「ルイスさん?」
「あー、こうなったら聞こえないんです。大丈夫、はぐれないように連れていきますから」
「こっちに獣人さん。あっちに獣人さん。生きててよかった……異世界に来られてよかった……」「はいここにさっそく違反した人がいます!」
大騒ぎである。
だが、まわりの目は優しい。
集団でやってきて、中に入ったら大騒ぎする。
ケビンが言うように、ときおりそうした集団が現れるのだ。
パッと見た限りではバレないように、服装や持ち物に気を遣ったこともあって、『どこか他の地域から来た移民団』としか思われていないようだ。
いまのところ。
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「ここが滞在場所、ですか……」
「そうですユージさん。商会には全員入れませんからね、空き家を借りました。大部屋で寝ていただくことになるのですが……」
「この人数です、問題ありません。最近はだいぶ慣れてきましたし」
「おおおおお、異世界の家! なんていうかこう、レトロな感じ!」
「ざっくりしすぎだろおい。一階は石造りで、二階三階は木造の家、かな?」
「NGワード出ました!ってもう建物の中だからいいのか」
「この土間の一階、この場合は地階と言うべきでは」
「じゃあUKみたいに二階が一階だね! ややこしい!」
「ルイス……」
プルミエの街を進んで、ケビン商会のほど近く。
ユージたちは、一軒の家の中に足を踏み入れていた。
一行は32人と一匹。
とうぜん、ケビン商会には全員が泊まれるスペースはない。というか宿屋でも怪しい。
内密の相談をするためにも、ケビンはほかに空き家を用意したようだ。できる商人である。
「アリス、もうしゃべっても大丈夫だよ」
「ほんとう? アリス、ちょっとくるしかった!」
異世界、稀人。
いくつかNGワードが設定されたため、アリスは自分の手でんんーっと口を押さえていた。健気な幼女である。アリスよりトリッパーたちの方がポロッと漏らしそうなものだが。
「お邪魔でなければ、私もここに泊まります。入り口の警戒はお任せください」
「助かります、ケビンさん」
「よーし、じゃあ割り振りするよー! って言っても部屋数少なそうだけど」
「アリスちゃんは最上階でしょう。幼女には安全な場所で安心して過ごしてもらわなければ」
「その前に探検するぞミート!」
「待て待て、先に撮影班を下見に行かせてくれ」
「なあもう自由行動でいいの? 俺ちょっと行くところが」
「みんな止めろ! アイツ奴隷商館で獣人さんを買うつもりだぞ!」
カオスである。
街に到着して、滞在場所まで移動しただけでカオスである。ケビンの胃は大丈夫か。
もっとも、ケビンは自ら好んで一行に協力しているのだが。いつかトリッパーたちに付き合った利益が生まれるはずだ。たぶん。
プルミエの街、とある建物の二階。
いや、一階を地階とするならば二階は一階だが、ユージと28人のトリッパーは日本人だ。
トリッパーの残り二人はアメリカ人で、サクラだけはどちらとも言える。
ともあれ、ここであえてグラウンドフロア制を採用しなくてもいいだろう。
ということで、二階。
部屋を割り振って旅装を解いたユージたちが集まっていた。
ケビンも含めて、今後の予定を確認するためである。
なにしろいきなり自由行動にしては何が起こるかわからない。何を起こすかわからない。賢明な判断である。
「まずは明日、領主の館へ挨拶に行くことになっています。これはみなさん全員でお願いします」
「おおお! ひょっとして表敬訪問ってヤツ!? なんか偉くなった気がする!」
「気のせいだミート。それに表敬訪問ではなく、打ち合わせたいこともある」
「自由行動! 自由行動はいつからですか!」
「あ、俺も気になる。ほら、アリスといろいろ見てまわりたいしさ」
「トニー、ユージも。せめて領主の館への訪問が終わるまでは待ってほしい。明日一日は訪問と準備、その後の作戦会議にあてて、最速でも明後日からとしよう」
「くっ! たしかにコイツらを自由にして明日何事もなく集まれる気がしない!」
「なあ、どうせ問題起こるんだし、だったらいま自由でいいんじゃない? ほら、明日は権力者に会うわけで、こう……」
「もみ消しですか」
「おい郡司先生の前で滅多なこと言うな!」
予定を確認するだけでコレである。
本当に自由行動の時間を設けていいのか。せめてグループ行動にするべきではないのか。
ひとまずトリッパーたちは、あと一日半をガマンすることに決めたようだ。
期待はもちろんだが、彼らとて不安な気持ちもあるのだろう。
元ニートも多く、ここは日本ほど治安がいい街ではないので。
「表敬訪問じゃないって、何か話すことあったっけ?」
「たくさんあるぞ。まずは挨拶、それと認めてくれたことの感謝として、ワイバーンの皮の一部を献上する」
「え? 賄賂? 大人って怖い!」
「頼みを聞いてくれた後の献上品だ、賄賂とは違うだろう。そもそもこちらと日本では習慣が違う」
「あ、そっか」
「まだまだあるぞ。道造りについての相談、防衛方法と戦力をどうするか、話次第だが、冒険者ギルドへの紹介もお願いしたい。献上品にもう少し色をつけておくべきか」
「あの、俺はしゃべらなくていいんだよね? なんかややこしそうで……」
「お兄ちゃん……」
クールなニートの言葉を聞いて、何もしなくていいことを確認するユージ。
妹のサクラはちょっと呆れたようだが、仕方あるまい。
こちらの世界に来てからユージは活動しているが、その前は10年ものの引きニートである。むしろ会話を避けようとして当然だろう。
それに。
「俺も黙っておくわ……みんな任せた!」
「俺も俺も! なーに、クールなニートも郡司先生もいるし大丈夫大丈夫!」
「いいか、とにかく領主夫人を撮ってくれ。俺の、いや、同志たちのために」
「俺もできれば話したくはないかなあ」
ユージ以外にも、発言を避けたいトリッパーたちはいたようだ。一人おかしい。コテハン・巨乳が好きです、である。封建制の世界の領主夫人を性的な目で見て、生きて帰ってこられるか怪しいところである。
「そうですね、紹介状をお願いしましょうか。領主ご夫妻も代官様も、みなさんの存在が公になることや、よけいな危険は避けたいでしょう。おそらく書いていただけると思いますよ。もっとも、直接派遣することもありえますが」
「そのあたりは明日の話次第ですね」
「ええ」
騒がしいトリッパーたちをよそに、クールなニートとケビンが話を進める。
いちおう、ユージはそれらしく頷いている。あとアリスとコタロー。二人と一匹が話を理解しているか怪しいところである。
まあ話を聞こうとしているだけでも、自由すぎる一部のトリッパーたちよりマシかもしれない。
「では、明日はみなさん、朝のうちに身を清めて、お渡しした服を着てください。私からもお声がけしますが」
「ふふ、お気遣いありがとうございます。明日、アリスちゃんは私と一緒にお着替えだね」
「はーい、サクラおねーちゃん!」
アリス、元気な返事である。ちゃんと話を聞いていたらしい。賢い幼女である。
「では、あとは食事しながらお話しましょうか。食事処から、この家に運んでもらうよう手配していますから」
「おおおおお! 異世界の料理! 異世界の街で味わう異世界人が作った異世界の料理!」
「せっかくなら外で食べたかったなあ。ほら、屋台とかお約束じゃない?」
「食事でも……外に出られないのかッ! ケモナーにとっての楽園がすぐそこにあるのにッ!」
「ケビンさん、看板幼女がいる店はご存じありませんか? ない?」
食事一つで大騒ぎである。
ケビン、宿屋ではなく空き家を手配したのは慧眼だったようだ。食事の手配も。
プルミエの街に到着した初日は、こうして大騒ぎのうちに過ぎ去るのだった。
ちなみに。
異世界の料理は、マズくはないが美味しくもなかったらしい。
総じて「味が薄い」のが不評だったようだ。
あと、誰かが言い放った「煮込み料理のこれ、何の肉?」の一言が。
世の中には知らない方がいいこともあるのである。
もちろんドングリ博士は、それを聞いたあとも美味しくいただいていた。虫ではなかったので、他の何人かも食べられたようだ。ヘビの煮込みは広東料理にも存在する立派な料理である。
次話、7/22(土)18時更新予定です!
カオスすぎて話が進みません……w
※7/22追記 次話、遅れて24(月)か25(火)の更新となります。
遅くなって申し訳ありません……





