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【IFルート】10年ごしの引きニートを辞めて外出したら自宅ごと異世界に転移してた【集団トリップ】  作者: 坂東太郎
『IF:第八章 ユージと掲示板住人たち、異世界の街へ行く』

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IF:第二話 ユージと掲示板住人たち、領主との交渉で提示する材料を相談する

ちょっと短めです


 ケビンが領主との約束を取り付けて、ユージの家にやってきた次の日。

 ユージとトリッパーたちは、家の前に集合していた。

 切り株やらキャンプ用のチェアを持ち出して、作戦会議である。


 自由に行動できるように、街に行って領主に交渉する。

 街に行くのはユージとアリス、コタロー、クールなニート、弁護士の郡司、撮影役の検証スレの動画担当の五人と一匹だ。

 ケビンと合わせて、領主と会うのは六人である。そのうち交渉役が何人かは怪しいところである。


 作戦会議。

 誰が交渉するか、というか交渉できるかは別として、材料は必要だ。

 ただ好きにさせてくれと言うのではなく、利益を提示して自由を勝ち取るつもりなのだから。


「携行食ですか。ええ、それが作れるのであれば喜ばれると思いますが……ですがユージさん、すでに携行食はありますよ?」


「え?」


「保存食についてお話した時にお渡しした、堅く焼き締めたパンと干し肉ですね」


「抜けすぎだぞユージ! 俺たちはちゃんとわかってたから!」


「ミートの言う通りだ。ユージ、ここはサンプルを見せるべきだろう」


「あ、そっか。ケビンさん、俺たちが作ろうとしてるのは、こんな感じなんですけど。よかったら食べてみてください」


「見本があるのですね。では失礼して」


 ユージからそれを受け取り、ケビンが一口かじる。

 ケビンは、驚きで目を丸くした。


「……これは、おいしい」


「俺たちの世界ではフツーに売ってるものですね! この前教えたオートミールに近いのかな?」


 ユージがケビンに食べさせたのは、スティック状の栄養機能食品だ。

 カ○リーメイトやソ○ジョイ、一本満○バー的なアレである。

 サクッと食べられて小腹を満たすアレである。


「難易度がなー。どれだけ再現できるかわからないんだけど」

「大丈夫大丈夫、完成度が低くてもあのかったいパンよりおいしくなるって!」

「歯が欠けるかと思った。憧れだけで食べるもんじゃねえな」


 ユージたちからちょっと離れた場所に座る大半のトリッパーたちは、口々に騒ぎ立てる。野次馬か。

 昨日ケビンから分けてもらった保存食を批評している。

 興味本位ではなく、交渉材料になり得るか確かめたらしい。


()()()()()()()()()()は、いま試作中です。缶詰もですね。ですがこれはまた」


「教えなくてすいません。でもこれ、難易度が高いみたいで。材料があるかどうかもわからないし、作り方も簡単に説明できなくて」


「はあ、複雑なのですね」


 まだトリッパーたちがこの世界にやってくる前、ユージはケビンに保存食を教えた。

 ケビンの協力を取り付けてお金を稼ぎ、食料や道具を得るために。


 だが、今回交渉材料にしようとユージたちが考えた栄養機能食品は、ケビンに教えなかった。

 なにしろカロリーやら栄養素やら、話しても通じるとは思えなかったので。

 イチから教えるにしても、当時ケビンと直接話せるのはユージしかいなかった。あと幼女と犬。

 掲示板住人は、ユージが説明するには荷が重いと思ったらしい。


 この地を治める領主は、騎士団にも籍を置いているのだという。

 オートミールと薫製、缶詰はケビンが作り、一般に売り出すとして。

 ユージたちは、携行食としての栄養補助食品が交渉材料になるのでは、と考えたようだ。

 もちろん、案はこれだけではない。


「あとはコレです!」


「これは? 絵、ということですか?」


 キャンプ用折り畳みテーブルの上に、ユージが置いたもの。

 そこには、人物が描かれていた。

 とうぜん、服を着ている。


「いえ、違いますケビンさん。絵ではなく、そこに描かれた服を提案しようかと」


「はあ、たしかに初めて見る形ですが……」


「待て待てユージ、一枚だけ見せてもしょうがないだろ!」

「ユージさん、アリスちゃんを見せないと! 私が買ってきた服を着こなすアリスちゃんを!」

「おい俺が描いたヤツはどうした! ケモナーのケモナーによるケモナーのための服は!」

「落ち着けお前ら!」


 戸惑うケビンの前に、ドサッと紙の束が置かれる。

 トリッパーたちが描いたもの、写真を印刷したもの、送られてきたイラストやデザイン案をプリントしたもの。

 描き手もクオリティもさまざまだが、そこには圧倒的な量があった。あと情熱。


「こ、これは……これも見たことがない、これも、これも、これも。ユージさん、なんですかこれ!」


 パラパラと紙をめくるケビン。

 この世界の商人は、見たこともないデザインとその量に圧倒されているようだ。


 エルフ、ドワーフ、獣人。さまざまな人種がいながら、服は簡易なものしか存在しない。

 ユージが元いた世界には、それが許せない者たちがいたらしい。変態を筆頭に。まあ変態だけではないが。


 ちなみに掲示板で服のアイデアを呼びかけたところ、現在進行形でイラストやデザイン画、どこからか拾ってきた写真が投稿され続けている。

 エルフに着せたい、犬の獣人さんはこれ、猫は、いやもっと種類はいるだろ狼はこれ。

 ドワーフったらやっぱりこういう感じ、ファンタジー世界ではこんな鎧を着てほしい、貴族のドレスは。

 掲示板住人たちの夢は広がりまくっているらしい。

 ときどき手描きのホラー絵も投稿されているようだが。


「綿や絹、糸から作れれば産業としてはより大きいのですが……あとは皮製品、毛皮を利用したデザインも用意しています」


「おお、おお……!」


「どうですかケビンさん? 俺、こういうのはあんまり詳しくないんですけど……」


「いけますよユージさん! 貴族はいつだって新たな流行を探していますから!」


 バッと立ち上がってユージの手を取るケビン。

 続けてクールなニートをはじめ、近くに座っていた者たちに次々と握手を求める。

 領主との交渉材料であり、必ずしもケビン商会が作るわけではないのに。


「布は運んでくるしかありませんが、珍しい布はゲガス商会が得意ですからね! つまり繫がりがある私にも機会があります!」


 ケビン、交渉材料を服とした時に、自分が噛める旨みの気配を嗅ぎ取っていたらしい。(したた)かか。さすが商人である。


「毛皮は大森林で取れますし、領主様も喜ぶでしょう! それにきっと、服ならよけいな争いを生まないでしょうから」


 大きく頷くケビン。

 以前ユージが知識を提供するとき、ケビンは保存食の知識を求めた。

 窓にはまっているガラスでもなく、ケビンを呼び込むために使った鏡でもなく、門に使われている金属素材でもなく。

 ケビンは「死の商人」ではなく、「死の商人」となって稼ぐことを求めていないらしい。


「まあ暗闘はあるでしょうけどね」


 ケビンがボソリと呟いた声は、誰にも聞こえなかったようだ。

 どこの世界でも、どんな手を使ってでも既得権益を守りたい者はいるらしい。お金に群がる者も。



 ユージがこの世界に来てから三年目の春。

 提示する利益の内容は決まった。

 いよいよユージは、ユージと仲間たちは街に向かうようだ。

 農村とは違う、街。

 この世界で初めての、街である。


短めですが、所用のため……と思いきや更新日時ミスってました。。。


次話、4/29(土)18時更新予定です!

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