IF:第七章 エピローグ
「いやいやそんな、道中危ないし俺バイト経験あるからコミュ力問題ないし、俺が行きますよホント大丈夫ですから」
「まあまあそう言わずに私なんてきちんと働いていましたし元公務員ですよ? ここは私に任せてください」
「時は一刻を争うんだって! 金になりそうな物を持って俺に行かせてくれ!」
ユージたち強行偵察班が戻ってきた。
道中や街、農村の様子の報告を終えて数日が経ったユージの家の庭は、今日も喧噪に包まれていた。
朝食を終えて、各班にわかれて作業をはじめる前の時間。
いつもなら思い思いに、雑談やネットサーフィン、掲示板へのカキコミが行われるまったりした時間である。
特に騒がしいのはケモナーLv.MAXとYESロリータNOタッチとニートなユニコーンの三人だ。
それも当然なのかもしれない。
この世界の街や村には、フツーに獣人がいる。
それも二足歩行する獣タイプの。
普通の人にとってはレベルが高すぎるが、コテハン・ケモナーLv.MAXにとっては問題ないのだろう。
なにしろレベルマックスなので。
奴隷を性的にアレするのはNGなのだが。
この世界の街や村には、奴隷制が存在する。
奴隷の主は衣食住を保障しなければならないし、犯罪奴隷でなければ身分を買い取れるし、性的なアレはNGらしいが。
それでも、奴隷制が存在する。
幼女を愛するYESロリータNOタッチはやる気にあふれていた。
きっと恵まれない幼女を保護したい、という意味の健全なやる気のはずだ。
愛でる可能性は高いが、NOタッチである。
いちおう恵まれない幼女だけでなく、恵まれない男の子を保護する気もあるようだし。
この世界にはゴブリンやオークがいる。
ゴブリンやオークは他種族、人間であっても性的にアレして苗床にする。
そんなモンスターがいて、盗賊やならず者がいて、封建制で、奴隷も存在する。
清らかな乙女を愛するニートなユニコーンにとっては敵だらけの世界のようだ。
弱い立場の貧民を保護するつもりらしい。
こじらせすぎである。
「ねえねえサクラおねーちゃん、おにーちゃんたちケンカしてるの?」
「アリスちゃん、アレはなんでもないの。ううん、アリスちゃんは聞いちゃダメ」
「ええー?」
ぷっくりと頬をふくらませて不満そうなアリス。
ユージの妹のサクラは、会話が耳に入らないようにアリスを家の中へ連れていく。
お手伝いしてほしーなー、と言われてアリスはあっさり引っかかったようだ。
アリス7才、大人の役に立つのがうれしい年頃であるらしい。
「みんな気が早いなあ。まだケビンさん来てないのに」
「ユージ、来てから決めるのでは遅いだろう。あの三人はともかく、街に向かうメンバーを決めておく必要はある」
「そんなもんかあ。でもほら、ケビンさんとクールなニートがいればいいんじゃない?」
「他人事かよユージ! 俺たちはともかくユージは行くだろフツー!」
「そうそう、ここはユージの家なんだし。あと俺ぜったい貴族と交渉とかやりたくないし」
「本音漏れてるぞトニー!」
家の前に作られた小さな広場で話しているのはユージとクールなニートだ。
あと名無しのミートとトニーをはじめとするトリッパーである。
間もなくケビンが戻ってくる。
王都の伝手を使って、この場所を含む辺境の領主様と直接面会できるように整えて。
ユージと30人のトリッパーは、この世界では稀人と呼ばれる存在なのだという。
別の世界からの訪問者で、この世界にはない知識を持っている者。
過去の稀人の中には、強い力を身につけて偉業をなした者もいたのだとか。
過去、稀人は貴族や有力者に保護されるか、軟禁されて知識を搾り取られることもあったとケビンは言っていた。
時には軟禁よりもキツイ方法を取られることも。
そのためユージたちは、領主と会って交渉することを決めたのだ。
利益に繋がる何らかの情報を提供して、自分たちの自由を勝ち取るために。
軟禁や監禁、拷問を避けるべく、トリッパーたちは自ら動くことにしたのだった。
ちなみに『移動手段』などいくつか上がっている案はあるが、まだ決まっていない。
最終的にはいくつか案を出し、ケビンに相談するつもりらしい。
「いずれにせよ、そろそろ決めておかないとな。いつケビンさんが来てもおかしくないだろう」
「そうだねー。……それにしても、ケビンさん驚くだろうなあ」
そう言って家を振り返るユージ。
視線の先にあるのは、日本ではありふれた庭付き一軒家、ではない。
ユージが見たのはその後ろ。
家の裏手にわずかに見える建物だ。
「みんなでやればなんとかなるもんだね!」
「まあ持ち込んだ物資がなかったらムリだっただろうけどな!」
「物資というより、ネットと掲示板が大きいだろう。農作業や狩りは経験あったけど、家は建てなかったからなあ」
ユージの家の北側。
勝手口に面して、そこには一軒の建物ができていた。
トリッパーたちが超大型ホームセンターで買い込み、こちらの世界に持ち込んだ資材。
それを使って建てた、平屋の建物だ。
基礎にはコンクリート、柱は日本から持ち込んだ木材。
難易度を考えてログハウスではなく、壁は土壁にしたらしい。
天井は防腐剤を塗ったベニヤと枝葉。
中には大きな一部屋しかない。
稚拙な作りの土壁といい、ベニヤに葉っぱ付きの枝を並べた屋根といい、粗末な平屋である。
それでも、雨風は凌げる。
トリッパーたちはいま、持ち込んだテントのほか、平屋で生活していた。
ユージの家に住んでいるのはユージとアリス、妹のサクラ、サクラの夫のジョージ、それとコタローだ。
寝室は全員二階にあるため、一階のリビングダイニングと和室には交代制でトリッパーが泊まっている。
普段は平屋かテントで寝泊まりして、トイレとお風呂は野外。
ローテーションでユージ家で寝泊まりする。
トリッパーたちはそんな生活を送っていた。
まあ野外のトイレも外の浴槽も、それなりにこだわって作ったようだが。
そんな生活でも不満が出ないのは、交代制でユージの家に泊まれること、何より電気・ガス・水道、ネットが生きているためだろう。
平屋にはユージの家から電気が引かれているし、ネットサーフィンも掲示板へのカキコミも、動画を見ることも可能だ。
もっとも電気は工事で引かれたわけではなく、単に延長コードで引っ張ってきたためコンセントの数は少ないが。ブレーカーは大丈夫か。いやそもそもどこから電気が来ているかわからないのだ。きっと問題ないのだろう。
ともあれ、気を遣わなくていい仲間とキャンプ暮らしで、ここは異世界。
同じトリッパーの中には、位階が上がって魔法が使えるようになった者もいる。
もう一ヶ月ほど経ったが、トリッパーたちはこの暮らしを楽しめているようだ。
「一階建てだけど、一ヶ月でできるなんてなあ」
「ユージ、この世界には魔法があるんだ。アリスちゃんのように土魔法の使い手もいるだろう。ひょっとしたらこの世界ではもっと早く家が建てられるかもしれないぞ?」
「まあそうかもしれないけど……」
ユージ、いまいち釈然としないらしい。
なにしろユージはこの世界に来てからすでに三年目。
家のまわりの木を伐るなど開拓をはじめたものの、トリッパーたちが来るまでは遅々として進まなかったので。
「ほらほら二人とも、そろそろ仕事するよ! というかクールなニート、今日は何する? また開拓と採取?」
「そうだな、今日は」
「おーい、ユージさーん! みなさーん!」
作業を促した名無しのミート、考えはじめたクールなニートの声をさえぎって。
森から、大きな声が聞こえてきた。
ユージとトリッパーたちの声が止まる。
「あー! ケビンおじちゃんだー!」
庭で洗濯物干しを手伝っていたアリスが駆け出す。
春、トリッパーたちがこの世界での生活にも慣れた頃。
街を見つけ、村に交流のパイプを作り、ケビンの情報が正しく、ケビンが信頼できることを確かめたトリッパーたちの元に。
ふたたび、ケビンが現れる。
「みなさん、領主との面会の約束を取り付けてきましたよ!」
ケビンはしっかり、約束を果たして。
ユージがこの世界に来てから三年目、トリッパーが来てから一ヶ月ほど経った春。
この世界での生活がどうなるのか。
いよいよ、新たな展開がはじまるようだ。
とりあえず、領主との交渉班にはケモナーLv.MAXとYESロリータNOタッチとニートなユニコーンを入れない方がいいだろう。
街には危険がいっぱいなので。彼らが行った場合、特定の人たちにとって。
それと、ユージと同じ性癖を持つ、コテハン・巨乳が好きです、も。
領主夫人が同席したら会話にならなくなるうえに手玉に取られることが確定なので。
もっともユージもケビンもトリッパーたちも、その情報は知らないのだが。
ということで、エピローグでした。
次章の展開はまったく何も考えていませんが
次話は4/15(土)18時に更新します!
※4/13 16:00修正 アリスをユージの家の住人に追加しました
アリスを外で暮らさせたらいろいろ危ない!w
ご指摘くださったみなさま、ありがとうございました。
※先週(前話)、4/1のあとがきで作者の別シリーズ
『ゴブリンサバイバー』が書籍化することを報告しました。
エイプリルフールの報告でしたが、マジです。
興味がある方、下のリンクから『ゴブリンサバイバー』にジャンプできますので
よろしければぜひ!
ウザくて受け入れられないかハマるか、極端すぎる物語ですw





