3、月曜の朝っぱらから素敵な挨拶をされてしまった。
金曜の夜は結局日付が変わってから解散し、翌朝は目が覚めたら8時を軽く過ぎていた。
飲んだ割には早起きした方だ。
その日は1日引きこもりでパソコン三昧と漫画に明け暮れた。
ちなみにパソコンも無料漫画だったり、小説サイトをさまよってたんだけど。
日曜日は朝のうちにショッピングモールに行って2時間ほどウィンドウショッピング的にウロウロし、県内のショッピングセンターだったらどこにでも入っている雑貨屋で八百円位の部屋着用Tシャツを買った。
それから併設のスーパーで月曜からの食材三日分を買い込んで帰宅。
午後に軽く掃除をしていたら、時間指定しておいた荷物が届いた。
日本最大のショッピングサイトに予約しておいた新作ミニカー2台。
本当は日本人なら誰もが知っているような小さい男の子向けのミニカーブランドなんだけど、キャラクターとのコラボ商品が定期的に発売されていて、これがもう何ともツボで。
確実に大人のコレクターをターゲットにしていると思われるメーカーの戦略に、まんまとはまってますわ。
幸い私はコンプリート魂は持ち合わせていないので、自分の「これは」と思う好みの物だけを収集している。
今回、悩みに悩んで購入した2台。
1つは微妙な仕上がりだったので残念ながら「ちょっとビミョー用」の飾り棚行きになったけど、もう一つは「アタリ、キター!」な感じでお気に入りキャビネットに仲間入り。
合わせて現在16台。総額にすると1万円ちょっと。
まあ、ブランドバッグなんかに比べたら可愛いものでしょう。
━━よし、大変有意義な、素晴らしい週末だった。
月曜からまたなんとかやって行こうという気になれるってもんだ。
女子会で管を巻いたように、30までに出来れば結婚したいな、とは思ってる。
でもそれも世間一般にそういった風潮があるからそう言うだけで。
初婚年齢が上がり、30代未婚も増加していると言われる中、実はそこまで焦っていないし、まぁ、そのうち。
その日が来ないかも、ていうか来ない気がする、と悲観的にならないでもないけど現実から目を背けがちになっているのも事実で。
ぼっちが苦にならないからなぁ。
その一言に尽きた。
一人暮らしのアパートから車で15分の所にある一級河川沿いにある工業団地。
工業団地と言っても10社足らずの企業が川と並行して横一列に並んでいるその中央付近に、私の勤め先はある。
月曜の朝8時を少し過ぎた頃。
「おはようございます」
出社し、車を降りた所でえらく遠いところから挨拶が聞こえた。
ああ、お隣の金属加工会社の社員さんか。
良く通る、いい声だこと。
月曜の朝からそんなステキな挨拶をする社員さんがいるんだねぇ。
いいねぇ。
お隣はうちより社員さんの平均年齢、かなり若そうだしなぁ。
そんな事を考えながら玄関に向かえば、「紗希さん、あの後は大丈夫でしたか」と声が追いかけてきた。
ぎょっとして振り返れば、白い網状のフェンスの向こう側に随分とスタイルのいいスーツ姿の人物。
涼やかなメガネのイケメンが、朝にふさわしいと思えるような笑顔で会釈したのが見えた━━
こういった場合、会釈だけで社屋に入ってしまうほどのスルースキルは持ち合わせていない。
ふらふらとそちらへ行かざるを得なくて━━
「おはようございます……お隣さんだったんですね」
声を潜めたようにそう言うしかなかった。
大声で叫ぶように会話するなど愚の骨頂。
始業時刻は8時半だけど、事務女性は机拭きという始業前の奉仕作業があるので男性社員よりは出社が少しだけ早いのが幸いとはいえ、なぜか毎朝、早朝から出社している社員さんもいるワケで。
出来れば人目につかないうちにこの場を離れたい。
この工業団地は河原沿いという僻地に位置する。
まわりはほぼ田園地帯。
通常よく聞くのはイベント会場などで「駐車場に限りがあるので公共の乗り物でお越しください」だけど、ここはまさに逆バージョン。
「公共の乗り物は一切無いので各自自力でなんとか通勤してください」という場所なので、ほとんどが車通勤だ。
田舎ならではの広めの敷地の中央にお互い3階建ての大きな建物があり、周囲をぐるっと取り囲むように駐車場になっている。
その間は大抵どの会社も網状の白いフェンスで仕切られていた。
そりゃお隣の会社も見えるけど、向こう側まで50m以上あるワケで、じろじろ見るわけでなし、ちょうど間に屋根と風よけの囲いのある駐輪場がこちら側にあるので今まで意識する事はなかったのに。
この人、なんで私の名前知ってるんだ?
よほど不審そうな顔をしていたらしい。
「ここで営業を担当しております、鮎川と申します」
さすがは営業さん。
慣れた調子で名乗ってくれたけども。
鮎川さん━━
やっぱり思い出せないわ。