21、お盆の同窓会に行ってきます <上>
ガッツリ働いたよ。
体力と精神力と引き換えに、ガッツリ残業代も稼いだよ。
連日帰りが遅い私に気付いた兄夫婦が、おかずを差し入れてくれる位働いたよ。
ストレスのあまり三千円オーバーのピカットチュウのフィギュアにときめいて衝動買いしそうになったくらいだ。
替えパーツで表情が変わって色々ポージング出来るギミックに打ち震えたけど、長時間棚の前で悩んだ結果、ぎりぎり自分を抑える事に成功してデスク用に4百円程度のミニサイズのピカットチュウを購入した。
後日、やっぱり気になってそのフィギュアを見に行ったところ、海外ブランドらしいポップな色合いの女の子の人形を見付け━━ガッツリ心を持って行かれたわ。
10センチくらいの樹脂製だけど足だけぷらぷら動いて座れる仕様。
調べたところ何年も前に輸入開始になったものの、鳴かず飛ばずで廃れた在庫品だったみたいでお値段も千円ちょっとと可愛いかった。
こんな逸材がいたとは!
ビバ! 田舎!
ピカットチュウと並べて置くと━━超カワイイ!
「ちょっ、そんな呪い人形みたいなの置かないでくださいよ」と愛梨には不評だったけど。
その後、他の部署の社員さんからも「1課がヤバい。アシスタント女性が机に呪いの人形を置くくらい病んだ」と言われていたらしい。
かわいいと思うのになぁ。
休日はまた引きこもり生活になり、ピカットチュウと他の社員さんからまで「呪い人形ちゃん」と言われ始めた人形たちのおかげもあって、乗り切った。
ついに迎えたお盆休み。
そう、ついに私は乗り切った!
そして初日の同窓会。
とりあえず、飲む。
とにかく飲む。
私はそう決めていた。
最寄り駅の前にある焼き鳥屋に集まったのは男性陣が多めの約30名。
校区内だからほとんどが徒歩で集合だった。
乾杯から1時間ほどしてだいぶ出来上がりつつある頃、涼太が隣に座った。
「なあ、お前ホントに鮎川さんと付き合ってねぇの? 鮎川さんが迎えに来たがってたけど自重するってさ。もしお前が一人で帰るような事になったら呼んでくれって言ってたんだけど」
━━マジでか。
あの人そんな事言ってたのか。
さすがは鮎川氏。
大人の賢明なご判断ありがとうございます。
でも付き合ってもない女にそこまでしたらダメです。
ここのハイボール美味しい。
次もこれにしようかな。
「そもそも迎えったって徒歩10分もかからないのに?」
「心配なんだろ。一応女だし。俺が送るって言っといた」
「あざっす。でかした涼太」
そんな事言われてたら気にしてしまう。
これで心置きなく飲めるってもんだ。
そう思ったのが顔に出てたらしい。
「酔いつぶれたら鮎川さん呼ぶからな」
ああ、先輩に言われる涼太も微妙で複雑な立場にあるのかも。
こいつ鮎川氏に傾倒してるもんな。
なんだか涼太に悪いような気になりつつ、私は気がついた。
「えー、て事は鮎川氏はアルコールも控えて、連絡があったら出られるようにしてるって事?」
それはそれで、ちょっと重いと言うか、私も複雑な心境だ。
鮎川氏は今朝は早朝から山に自転車のトレーニングに出ていたはず。
7月末に登坂レースといって基本的にひたすら上り坂を登ってタイムを競うという、苦行のような大会に出場した鮎川氏は、次は9月頭の別の山のヒルクライムの大会にも出るそうで。
そんなだからうちの会社の人は「ロードバイクに乗る人はドM」ってみんな言うんだな、と納得した。
でもって次の大会前に自転車を分解洗浄に出したそうで。
オーバーホールって車の安全点検みたいなものだそうで、人やショップによってどこまでかけるか変わってくるらしいけど鮎川氏は7万前後。10万はしないくらいですって。
いや、それは安全点検じゃなくて車検だって!
自転車なのに! と思ったけど禁句なような気がして慎んだ。
ちょっと前に預けていたバイクが戻ったそうで、今朝から早速トレーニングだそうです。
「別に分解洗浄は出さなくてもいいんですけどね。長く乗りたいので」
どうも動揺が顔に出ていたらしく、肩をすくめるように言われた。
いちいち様になりますなぁ。
「まぁ、趣味の物ってどれも高額ですもんね」とかなんとかフォローしといた。
「大手と契約を取り付けた年のボーナスがすごかったんですよ。それを元手に投資的な」
その後、最近の趣味アイテムは高額ですよね、足元見やがって、とかなんとか趣味におけるお金の会話をしていたら鮎川氏はなんでもない事のように言った。
「自転車も今のバイクは苦労してポジションを出していますからそう簡単には乗り換えませんし。分解洗浄も2年毎に受けていますが自分の遊ぶ分くらいは給料以外から稼ぎますのでその辺りはご心配なく」
ん?
聞いてない事まで聞かされた気がしたんですけど。
「僕は何かと運がいい方で」
いや、運でそんなに稼げないでしょ。
呆れ半分でそんな脳内ツッコミを入れたところで、やっぱりさらりと言われた。
「ずっと気になっていた紗紀さんとビアガーデンで会えたくらいですし」
それが8月に入った頃の話だ。
自転車をメンテナンス(オーバーホール)に出すからしばらくの間はランニングだけになるという事で、早く帰れる日があれば一緒に食事を、と言ってもらったけれども。
まあ案の定慌ただしい日が続いて平日は帰れず、休日はたまった家事を消化して残りは休養と、ストレス解消にマンガなんかを読む時間に費やした。
鮎川氏も鮎川氏で、そうは言うものの盆の連休前に駆け込みで入った短納期の仕事で忙しそうだった。
まぁ連休前はどこも忙しいものだよね。
そんな状態だったもんで、通勤時にちらっと見かけたり、タイミングが合って1~2度ちょっと朝に話しただけになっていた。
自転車に関する記述ですが、身近な人のケースを参考にしています。