脳天
三階層へ階段を下りていく。
出口の先に見えたのは荒野だった。
地面はひび割れ、植物も見当たらない。
だが、俺は出口の外へと踏み出せずにいた。
何故なら、そこにはウサギを追い回す巨大なトカゲが走り回っていたのだ。
茶褐色の鱗に二足歩行で走り、両手は小さく背には巨大な翼がある。
レッドドラゴン:食物連鎖の頂点に君臨する魔獣
そんな奴が一匹だけではなく、俺の目が捉えただけでも四匹はいる。
空にも何かが飛んでいるが、小さすぎて鑑定もできなかった。
階段を下りてしまったため、上の階層では既に敵が湧かなくなってしまっている。
なので、当然レベル上げもすることができない。
詰んだ。
こうなってしまった以上、俺が起こせる行動は二つだけ。
ここで諦めてダンジョンを放置すること、ここで無理をしてでもドラゴンを倒すこと
まだ考えればいくつかありそうだが、今はあまり余裕がない。
隠れてはいるが、見つかれば襲われるわけだ。
こうしていても何も始まらないので、震える足を叩きながらも出口からドラゴンへ向かい走った。
ウサギを追うことに夢中なドラゴンの背後から瞬間移動で近づき、短剣を差し込む
鱗が思ったよりも固くなくてよかった。
刺した短剣を回して傷口を広げ、短剣を掴んだままドラゴンを蹴りつけた反動で短剣を引き抜き後ろへ飛ぶ。
これだけ派手に動いていれば当然なのだが、ドラゴンに囲まれてしまった。
だが、不思議なことに俺が刺したドラゴン以外の奴等はその場に座り込んでしまったのだ。
その全てが、立てば四メートル程はありそうな大きさで
そいつらに、現在俺はものすごく威圧されている。
それでも現在対峙しているドラゴンに加勢するつもりはないようで
そのことで少しだけ安心することができた。
一対一であれば、いざというときに瞬間移動を使い逃げ切ることができる。
それだけでもわかっていれば、多少なりとも心に余裕が持てるので
先ほどまでの妙な焦りは既に消えていた。
ドラゴンの攻撃はわかり易く、噛み付きと
尻尾と翼での殴打くらいのものなので
しっかりと躱していけば問題なく倒せそうだ。
小さな両手は、やはり攻撃には向かなかったのだろう。
避けては切りつけ、避けては切りつけ
先の戦闘での疲れもあり、集中力も散漫になってきている。
それだけではなく、こちらの動きは悪くなる一方なのだが
ドラゴンの方はそうでもない。
それは時間が経つにつれ、大きな差となっていった。
このままではじり貧だ、少しでも現状を好転させなければならない。
そこで、ドラゴンが噛み付いてきた時を狙い
イヤリングを起動させ、ドラゴンの真上まで来たときにイヤリングを停止させ
落下の最中に短剣を両手で握り、ドラゴンの脳天へと叩き込んだ。




