好印象
空き巣の悲鳴に起こされて、家の中からぞろぞろと人が出てくる。
「たっ、たすけてくれー! 化け物が! 化け物が襲ってきたんだ!」
泥棒が俺たちに助けを求めてきた。
うちの子を化け物と呼ぶとは失礼な!
まあ、知らない人が見たら化け物なんだろうが・・・。
俺と関わりがあることなど全く知らない泥棒は、相も変わらず喚いている。
そんな泥棒を見て、明日香ちゃんが呟いた。
「あ・・・あれって・・・」
泥棒が手から離さずに持っていたものを指さし、更に言葉をつづけた。
「私の下着・・・。」
泥棒は明日香ちゃんの言葉に反応し
下着を持っていた手を背後に回したが、もう遅い
既にこの場にいた人達は目にしているため、泥棒の言い分など聞いてやる義理もない。
プラムに降ろしてくれと頼み、地面に足がついた安心感で
腰の抜けてしまった泥棒の目出し帽を取ると、再び明日香ちゃんが声をあげた。
「あー! この人!!」
その言葉から知人であることは理解できたのだが、次の言葉で岡田のおばちゃんがキレた。
「高校生の時に私のストーカーしてた人です!」
「ほう、私の孫にストーカー・・・ね。そして家へ無断で立ち入ったと・・・。」
岡田のおばちゃんの目が据わっている。
「ただで済むとは思わないことだよ。」
普段はとても優しい、怒ることなど無い人だと思っていた。
じわりじわりと泥棒へと近づいていく岡田のおばちゃん。
その行為がまた恐ろしい。
一メートルほどの距離を置き、止まった岡田のおばちゃんが深呼吸をすると
明日香ちゃんが慌てだした。
俺がそちらに気を取られ、視線を戻した時に
泥棒の顎へと、岡田のおばちゃんの回し蹴りが綺麗に決まった瞬間を目撃してしまった。
綺麗に決まったハイキックに、呆然としている俺たちへ
明日香ちゃんがこっそりと、岡田のおばちゃんのことを教えてくれた。
「おばあちゃん、実は空手の有段者なんですよ。」
少しぼかして教えてくれたが、恐らく一段や二段では無いだろう。
明日香ちゃんが慌てだしたことを見れば、それなりの強者であることは理解できる。
膝をつき、両手で体が倒れるのを辛うじて支えている泥棒を
伊崎さんが組み伏せて、伊崎さんの奥さんが警察へと電話をかけていた。
パトカーが来る前に、交番勤務のお巡りさんが先に到着した。
「泥棒を取り押さえたという報告がまわってきたのですが、こちらで合っていますか?」
俺が返事をするよりも早く、伊崎さんが犯人を組み伏せているのを目視したお巡りさんは
到着するのが遅くなってすみませんと、丁寧に接してくれた。
実際に到着するまでの時間は、体感で十分ほどだったので
あまり待った気もしなかったのだが、それでも一言加えてくれたお巡りさんは
俺の中で少なからず好印象を与えていた。




