パチパチ
二度目の配布の際に、水野さんと岡田のおばちゃんがパープルカウの肉を当て
院長がネズミの肉を当てた。
中身が生のままだと衛生面で不安が残るので、念のために七輪も用意している。
アルミホイルを開くと、肉汁が熱でジュウジュウと音を立てていた。
そして、その匂いがまた凄く美味しそうなのである。
みんなの視線が三人の手元へと注がれ、手元を見られている三人も
その目付きに敏感に反応し、隠すように紙皿へと載せるのだった。
「量はあるので安心してください」
俺が一言添えると、皆がすぐに手元にあった物を食べ終えてしまった。
そんなこんなを繰り返し、十回目あたりでアルミホイルで包んだ物が尽きた。
既に日は暮れ、灰の熱も殆ど無いようなものだった。
それでも、しばらくの間は昔話に花が咲き
七輪に火を入れて、その火にあたりながら時間を過ごすのだった。
するとここで、三井のおじさんが急に立ち上がり
「ちょっと酒持ってくる」
の一言を残して走り去ってしまった。
三井のおじさんは日本酒が好きだからな。
ここで、ふと何かを忘れている気がするが
一向に思い出せる様子もなく、悶々とした感情に支配されてしまう。
あれでもない、これでもないと
ぶつぶつ呟く俺は、傍から見たら不審者そのものだろう。
やがて、三井のおじさんが酒瓶を両手に持って歩いてきた。
その酒瓶をみて、やっと思い出すことができた。
「ああ、徳利か!」
思わず声を出してしまったが、三井のおじさんも忘れていたようで
ぬる燗で飲むのに必要だと、取りに戻ろうとしたところで待ったをかけた。
俺は一度家に入ると、ガラスケースの中に飾っている物とは別の徳利を倉庫から取り出し
庭に戻って三井のおじさんに手渡した。
「よかったら使ってください。」
青い宝石でできた徳利に目を付けたのは、三井のおじさんよりも
水野さんと明日香ちゃんの若い二人だった。
現在、俺の手元にあるのは徳利二つとお猪口が四つなので
三井のおじさんに手渡した徳利とお猪口のセットと
俺が保管している、もう一セットを解散する際に譲り渡す旨を伝えると大変喜んでもらえた。
しかし、俺の心境としては複雑だ。
使用した徳利を洗いもせずに渡すことに躊躇いがある。
ましてや譲り渡す相手は若い女性なのだ。
だが、これを解決するための打開策がないので
酒盛りが終わったら一度洗ってきますね、と二人にこっそりと伝えて
了承を貰ってから再びコンテナへと腰かけた。
酒盛りは時間が経つほどに盛り上がり、灰で焼いたものだけでは足りなくなってしまった。
七輪は元気にパチパチと音を鳴らしているので、網を敷いて肉を焼き足していく。




