百鬼さん
宿泊客がレストランへと移動する際に、レイズも一緒に移動するため
一度でも宿泊した客はレイズの存在を知っている。
確かに存在することを知っている。
レイズは人懐っこく、近寄ってきた宿泊客にも絶えず愛想を振り撒いているので
携帯で写真を撮って帰る客も少なくは無い。
そんなレイズと一緒に撮った動画であれば、信用する人も出てくるだろう。
当然レイズだけではなく、あおいと翠も一緒に映っているため
レイズを知っている人が見れば納得の動画だ。
プラムが映っていないのは意図的にそうしている。
プラムが映りたがらないことと、プラムがうちを守っているため
その存在はあまり公には出来ない。
現在でも、うちへの侵入を目的とした行動を取る者は少なからず出てきている。
ダンジョンを攻略するよりも、攻略している人物から直接奪えばいいという
そんな浅墓な考えを持った人が週に二、三人程プラムに捕獲されている。
その侵入者も、世間の探索者でさえ
レベルという概念が存在していることを知らない人が多いのだ。
これも仕方が無いことなのだろう。
ふと思ったのだが、知らないというのなら教えればいいのではないだろうか?
信じるか信じないかは大衆の判断に任せるが、レベルというものは確実に存在している。
それならば、その存在を教え
じっくりとレベルを上げながら攻略していくことを薦めてみるのはどうだろう。
思い付きから行動へ移し、今週の捕獲人数と戦ったモンスター
拾ったアイテムの報告などをまとめ、最後には
行動に移す際には十分な警戒をし、自己責任で探索をしてください。
と記載しておいた。
他人に強いられて探索することなど早々ないだろう。
それに、本来ならば命を懸けてまで入手した情報を広める必要もないのだ。
なので、俺は質問が来ても答えるつもりは無い。
単純に知りたければダンジョンに潜り、生きて帰ってこればいいだけなのだ。
だが、毎度ひっかかるのだ。
なぜ俺が一人でも攻略を進めることができるのに
大勢で押しかけても攻略が進まないのかということに。
武器だってそうだ。
先日、短剣を入手したが
それまではツルハシと包丁だけで進んでこれたというのに。
中には模造刀や、改造したモデルガンを持ち込む者もいたという。
なのにだ、一向に攻略が進まないのは何故なのだろう。
ダンジョン以外でも何かあるのかもしれないな・・・。
想像するだけならいくらでもできるので、暇な時間をそうして過ごしていった。
二時間程すると旅館の従業員の方が、台車に大きな樽を載せてやってきた。
やはりというか、まず間違いないと思っていたが。
「やっぱり百鬼さんでしたか、用意はできてますよ。」
この人は旅館で働いている板前の百鬼さんだ。




