急所
突然目の前から消えた俺を探して、前後左右をキョロキョロと探すオーガを見下ろして
ツルハシを引き下げ、急降下で近付いていく。
勢いのついた状態でオーガの背後へと急接近し、オーガの股の下から掬い上げる。
ギュオオオオオオ!!!
人型であれば男女問わず急所となる場所だ、オーガも耐え切れず震える声で鳴いた。
鳴いているということは生きているということだ。
直立したまま痛みに耐えているオーガから、ツルハシを引き抜くと
その勢いのまま弧を描くようにオーガの頭へとツルハシを振り下ろした。
少しの抵抗はあったが、それでもすんなりとオーガの頭蓋に穴を開けることができた。
先ほどの失敗を繰り返さないために、すぐにツルハシを引き抜いてバックステップで後ろへと飛び退いた。
だが、オーガからは既に光が立ち昇っていたので
それも杞憂に終ることとなった。
「あー・・・つっかれたぁ・・・。」
オーガを倒した達成感と、激闘での疲れで意識が飛びそうになり
俺もまた、安心して眠ろうとしてしまった。
しかし、すぐに思考を切り替えて身体を起こす。
ここはダンジョンだ、安心できる場所などあるはずがない。
レベル:48 HP:128/480 技能:鑑定 幸運(微) 瞬間移動
ここの所、立て続けにレベルが上昇している・・・。
いいことなのだが、やはり強敵ばかりと戦うのは疲れが溜まる。
もっとのんびりとレベル上げできないものだろうか。
HPには余裕があるので、今回は瞬間移動で帰ることにしよう。
その場に落ちていたものを拾って部屋へと移動する。
大きな怪我はないが攻撃を弾いていたときに当てた場所は赤く腫れ上がっている。
今日はもう寝よう。
翌日の昼に目を覚ますと、石川さんが木で出来た箱を抱えて庭で待っていた。
「おはようございます・・・。」
「はい、おはようございます!」
眠い目を擦り、挨拶を交わすと
石川さんは持っていた箱を俺に渡した。
「これは?」
「以前お願いされていたお猪口です!」
なるほど、そういえば渡していたなと
お願いしたくせに物凄く失礼だが、すっかり忘れていた。
「開けてみてもいいですか?」
「はい!私もまだ見てないんですよ!」
ただ、と続け
「かなり満足のいく作品だそうですよ!」
二人でワクワクしながら蓋を取ると、中には白い紙に包まれたお猪口が二つ入っていた。
紙を剥がしていくと、現れたのは透き通った青いお猪口だった。
あおいの羽のように、サファイアのような綺麗な青だ。
俺はこれを使わない。
使おうと思っても使えないと思う。
これはお猪口ではあるが、同時に芸術品といっても過言ではない。
態々ありがとうございます、と礼を述べた時に思い出す。
「あ、そういえば・・・。」
昨日のオーガのドロップアイテムを鑑定していなかったこのだ。




