患者
看護師さんは頷き
「失礼ですが、お名前を伺ってもよろしいでしょうか?」
「ええ、井出と申します。」
看護師さんは確認が取れると、院長室へと案内してくれた。
院長室の中には十人ほど人がいて、その中には伊崎さんの姿もあった。
「おお、伊崎さん!その後の調子はどうですか?」
聞くまでも無いだろうが、伊崎さんは明るい声で答えてくれた。
「ええ!おかげさまでこの通りです!」
伊崎さんは答えながら、その場で片足スクワットをし始めた。
「あはは、病み上がりなんだから無理はしちゃダメですよ?」
大丈夫大丈夫!と高めのテンションで話す伊崎さんに、なんだか違和感を感じた。
だが、それに気付くのに然程時間は掛からなかった。
伊崎さんは態と明るく振舞っているのだ。
伊崎さん以外の方々の顔色が良くない。
それに、この部屋にはまだ院長が来ていない。
この様子からすると、この方々は薬についてまだ聞いていないのだろう。
つまり、現在この部屋に居る人で薬の効果を知っているのは俺と伊崎さんだけということだ。
暫くの間、伊崎さんと会話していると
院長がドアを開けて入ってきたので挨拶を交わした。
「ところで院長、この方達はもしかして・・・。」
院長は黙って頷いたので、ここからは口出ししない方がいいだろう。
俺も納得できたので、院長の頷きに頷いて返した。
「お待たせしたの、今日あなた方に集まってもらったのは他でもない。予想はついているだろうが、少しだけ聞いていってくれないかの?」
患者達が顔を伏せたのを見て、院長は伊崎さんを呼んだ。
「伊崎さん、お願いしてもいいかの?」
伊崎さんは、はい!と元気に答え
「私は二日前まで、この病院で一番症状が重かった癌患者でした。」
この言葉に患者達は驚いたが、伊崎さんは話を続けた。
「二度目の手術後、リハビリを始めた頃になって癌が再発しました。三度目の手術は体力が無く、ただ死を待つだけの身体だったんですよ。」
患者達からしたら信じられないだろう。
なにせ先程から、凄く明るく振舞っていて片足スクワットまで始めちゃうほどには元気なのだ。
「私も皆さんのように日々を過ごすごとに肉が減り、立ち上がることすら困難になって行きました。ですが、院長に言われたのですよ。」
ここで伊崎さんが頭を掻きながら、少し照れくさそうに言葉を止めた。
院長を見ると、こちらも少し顔が赤くなっている。
話が止まってしまった事で、患者達が困惑しているので俺が入って続けることにした。
「皆さんは生きたいですか?ここに居る人に限り、薬を譲ってもいいと思っています。」
ですが、と続け
「貴重な薬ですので、生きて居たくない人に差し上げる余裕はありません。」




