空中散歩
「瞬間移動・・・また凄い能力ですね。」
確かに、俺も物凄く重宝しそうな能力だと思う。
「ささやかながら払うべき対価と条件はあるんですがね、それでも戦闘でもしていなければ使い易い能力です。」
HPなんて普通に生活していて減ることなんて考えられないしな。
「あ、あと三十分ですよ!」
ステージとは反対側に設置された巨大なモニターを指差し、石川さんが教えてくれた。
折角ここまで来たのだから、この際この二人だけでなく
会場中を驚かせてやろうと口角を上げた。
五分前になるとステージも完成し、音楽が流れ始めた。
それまでの間、このお祭りになっている公開生放送に便乗したスポンサーや
地域の方々が出している露店を見て回った。
俺もいい機会なので、色々な食べ物を買い込んではポーチに入れていった。
この祭りの原因を辿れば俺なのだ、会場を貸してくれた地域にも貢献できるし
何より美味しいものを食べられるのだ。
時間になり、セレモニーマスターがステージの真ん中に現れた。
「沢山のご来場、誠に有難う御座います。本日は私、水橋が進行役を勤めさせていただきます。」
その後も、スポンサーの紹介やお偉方の挨拶が終わり
ついに虹水晶が割られる時が来た。
「では、ちょっと行ってきますね!」
石川さんが元気よく挨拶をし、ステージを駆け上っていった。
なんと、石を割る役目は石川さんの担当だったのだ。
「それでは石川さん、お願いします!」
水橋さんの掛け声に、はい!頑張ります!と答え虹水晶を思い切り叩きつけた、
虹水晶は無事に割れたので、こちらも準備をする。
割れてから虹が飛び出すまでにはタイムラグがあるので、十分間に合うだろう。
巨大モニターに映し出された虹水晶の中で、閉じ込められていた虹が強く揺らめいた。
いまだ!
俺は、石川さんと同じように一気にステージを駆け上がると
虹の発生とほとんど同じタイミングで飛翔のイヤリングを発動させた。
発動後、少しだけジャンプをして確かめてみたが大丈夫そうだ。
虹は海の方へと飛んで行き、観客からは興奮したような声があげられている。
石川さんに、行ってきますと挨拶をして
ステージの上へと一気に飛び上がる。
フワリと浮いた身体の操作はそんなに難しくなく、思ったように動かせる。
虹に触れてみたが、手は通り抜けるばかりで掴むことはできなかった。
ふと後ろを見ると、観客が俺のほうを見て指をさしていたので
虹を渡るように見せかけてゆっくりと空中散歩を楽しみながら下りていった。
下で待っていた石川さんと古谷さんが、どうやったんですか?と訊ねてきた。
「コレですよ。一日に一時間だけ空を飛べるんです。」
と、耳に付けたイヤリングを見せながら答えた。




