瞬間移動
伊崎さんは問題なく立ち上がり、その場で少し跳ねた。
その身体は生を諦めていた先程までとはうって変わり、活力に満ち溢れている。
それは、飛びついてきた奥さんと娘さんを受け止めるほどだった。
「これなら大丈夫だろう。」
院長は目の端で光るものを袖で拭い、俺のほうに身体を向けた。
「これなら大丈夫そうじゃ、ありがとう。」
院長が礼をしてきたので、こちらも礼で返す。
「約束通り、あの五本は院長の好きに使ってください。明後日にまた来ますので。」
伊崎さんと同じように、親族と相談して許可を取れた人を明後日の夜
病院に来て貰う様に約束を取り付けて
伊崎さんと握手をした後に病院を後にした。
もちろん、伊崎さんに精密検査を受けるように念押ししてからだが・・・。
「ふぅ、長い夜だったなー。」
実際には三時間かそこらだったが、密度の濃い時間だった。
それと同時に、軽率な言動には注意しないといけないということも学べたので
とても有意義な時間を体験できた。
家に帰ると泥の様に眠り、目覚めると既に陽が真上まで昇っていた。
「やばい!!アラームは・・・止まってるな・・・。クソッ!」
すぐに飛び起き、パソコンを立ち上げる。
石川さんからメッセージが飛んできていたので、寝坊したことを正直に書いて送った。
石川さんからのメッセージには、中継されているサイトノURLが貼り付けられていたので
それをクリックしてページを移動した。
中継されている画面では、まだ足場のセットが出来ていないようで
放送開始のカウントダウンが残り二時間程までに進んでいた。
「よかったー、これで寝過ごしてたら石川さんに会わせる顔がないもんな。」
まだ中継されてない事を知ったので
ほう、と息を吐きもう一度カウントダウンされている画面を見る。
「ん?この人って・・・」
作成中の足場の横で、カメラに向かってピョンピョンと跳ねながら
大きく手を振る石川さんが映っていた。
そのすぐ近くに古谷さんも見つけたので、俺もなんだかほっこりしてしまった。
だが、あと二時間だ。
「どうしようかな、ダンジョンに潜るには時間が不安だし。」
とりあえずすることもないので、ポーチをひっくり返し
中身を取り出してみた。
出てきたアイテムから試験管に入っているものは全てポーチに戻し
その他のアイテムの仕分けをした。
「ん?なんだこれ?」
混ざっていたのは薄紫色の球体で、中心部には象形文字のようなものが一文字だけ見える。
瞬移の宝珠:使用すると技能(瞬間移動)を得ることができる
「うわぁ・・・」
んー、もうちょっと見れないかな?
瞬間移動:僅かにHPを消費し、障害物の無い任意の場所に瞬時に移動する。




