ゴポゴポ
「じゃあレイズ、好きな時間に戻ってくるんだぞ?」
正直に言えば、俺ももっとレイズと遊びたいのだが
うちの子でなくなるわけではないのだ、我慢しよう。
娘を嫁に嫁がせる気分とは、こういうものなのか。
そんな気分を押さえつけながら、翠に跨り軽く頭に手を置くと
「それでは、古谷さんの所へ挨拶して戻りますね。何かあったらSNSでお願いします。」
レイズを抱きかかえ、レイズの手を振って見送る石川さん。
その姿がまだ見える位置だが、レストランの駐車場で降りて
従業員の方に、古谷さんを呼んでもらった。
待っている間に花壇の方を見ると、カラフルなミュータントベリーが茂っていた。
勿論、中心にはスターメロンの樹が生えている。
「うん、いい感じに育ったな。」
久しぶりにミュータントベリーをもいで食べてみたが、味が変わっていることもなかった。
幾つめかを口に含んだときに、古谷さんが現れて
美味しいですよね、と笑いかけてくるので
ついつい苦笑いで返してしまった。
警備、もとい番犬の事を古谷さんに伝えると
予想通りに、二つ返事で了承がもらえた。
家に帰ると、まず最初にパソコンを立ち上げた。
SNSにログインし、ダンジョンと入力して検索を始めた。
「ふーん、他のダンジョンは相変わらずか。」
変わった事といえば、瓶に入った液体が落ちたとの報告があがっていたことくらいだろう。
最近は村での絡みが増えてきたので、ダンジョン攻略が遅くなっているかもしれない。
何周すればいいのかわからないので、多少億劫になっている部分があるのは間違いない。
「よし、とりあえず明日だな!」
翌朝、レイズに顔中を舐められて起きることとなった。
「ん、レイズおかえり~・・・」
半分寝ているような目で、レイズを目視して撫でる。
のそりと起き上がり、顔を洗う。
「よし、いきますか!」
今日は今後の安全のために、一階層を攻略することを目標に決めた。
階段を抜ければ、キラキラと輝く世界だ。
変わった所は無く、スターアイと鉱石粘土だけが増えていく。
だが、階段だけがどこにも見当たらなかった。
比較的に狭い層なのだが、こうも見つからないと苛立ちが募る。
「だー!くそっ!」
苛立ちに任せてツルハシを前方に投げつけてしまった。
だが、ツルハシが壁に当たる事はなかった。
壁に当たる前に何かに突き刺さったのだ。
ツルハシの刺さったそれは、緑色の血液をドクドクと流しのそりと動いた。
ハイディングワーム:外敵から身を守るために一定範囲を誤認させる芋虫
どうりで見つからないわけだ。
イモムシは、ゴポゴポと何かを吐きながらこちらへ向かってくる。
これには覚えがある、あれは酸だと気付くのに時間は掛からなかった。




