窃盗
お、今日はプラムも付いてくるのか。
翠に跨る俺と、俺の頭の上に乗るあおい
そして、その少し上を飛ぶプラム
知らない人が見たら、なかなかに面白い画になりそうだ。
「あれ、なんか騒がしくないか?」
古谷さんのお店に近付くにつれて、誰かが声をあげているのに気づく。
「あれは・・・古谷さんか?翠、ちょっと急いでくれ。」
あっという間にお店に着いたが、いまいち状況がわからない。
「古谷さん、どうかしたんですか?」
「あ、井出さん!大変なんですよ!」
何が?と聞こうとしたが、その疑問はすぐに解消された。
「ミュータントベリーが根こそぎ盗まれました!」
さっきは全く気付かなかったが、確かに花壇がまっさらになっている。
「犯人の目星はついていますか?」
と聞いてみると、古谷さんは犯人が車に積み込んでいる所を目撃していたようだ。
「ということは、ついさっきの出来事なんですね!」
そういうことなら
「プラム!前にお土産に持ってきた苺の匂いはわかるな?その匂いがする車を破壊して来い!」
少々過激な命令ではあるが、盗られたものがものなので手を抜けない状況なのだ。
そして、プラムは元気よく飛び立った。
「さて、古谷さんは営業に戻っていてください。」
数人のお客さんも残っている状況で、堂々と窃盗にあって困惑している古谷さんを落ち着かせる。
当然、店内からも俺達は丸見えなわけで
プラムを見て怖がっているお客さんもいるのだ。
俺達が戻ってくる前にこの状況を解決しておいてくれなければ俺達の晩御飯はお預けということになる。
そんなことにはさせない!絶対にだ!
頑張ってくれるプラムのためにも、失敗は許されない。
「それでは、俺も行って来ます!翠、頼むな!」
古谷さんに声をかけ、翠に跨りプラムを追いかけた。
十分ほど追いかけると、遥か前方で煙が上がり
暫くすると爆発音が聞こえた。
あの状態ではミュータントベリーも燃えてしまっているだろうな。
この際仕方が無い、あれが外に出回ることの方がよっぽど問題だ。
だが、古谷さんのお店からメニューがいくつか消えることになるのが心苦しい。
今度また別の物をプレゼントしよう。
「お、戻ってきた。」
あれこれ考えていると、プラムが犯人らしき人影を咥えて飛んできた。
「よし、プラム!お疲れ様、よく頑張ったな!」
さあ、戻ろう。
念のため、爆発のあった場所を確認してみたが
ミュータントベリーは見事に炭になっていた。
「ま、これは仕方が無いか。」
しっかり確認をしたので、お店に向かう。
犯人は起き上がらないが、脈はあるので生きているだろう。
お店に着くと、古谷さんが出迎えてくれた。
「こいつらが犯人で合ってますか?」
「はい、この方達です!」
古谷さんは嬉しそうに手を打って麻縄で犯人を縛っている。
「それで、ミュータントベリーなんですが・・・」
「ああ、やっぱり・・・。あの爆発はこちらでも確認しましたから・・・」
仕方が無いですよ、と笑いかけてくれるが
その顔には確かに影が落ちていた。




