感謝
苗を受け渡す際に後日、様子を見に行くと約束したので
起床してすぐに向かうことにした。
「わあー、予想以上だ。」
「い、井出さーん!!」
俺がミュータントベリーの増殖した様をまじまじと見ていると
古谷さんが涙目で呼びかけてきた。
「あ、古谷さん。おはようございます。」
「はい、おはようございます。じゃないですよ!!」
あれ?いま朝だよな・・・
「なんですかあれ!!!」
ああ、そっちか。
「いやー、昨日言ったじゃないですかーやだなー」
「うう・・・、もっとちゃんと聞いておけばよかった。」
がっくりと項垂れて、古谷さんは呟いた。
「だめですよー?普通の物とは違うので、注意事項はしっかり聞いておいてくださいね?」
できる人なイメージを持つ古谷さんが、まさかこんな風になるとはな
のんびりできる所にきて緊張感が解けちゃったのかな?
「安心してください、恐らくあれ以上は成長しないと思いますので。」
ほら、と指をさすと古谷さんもそちらを見る。
「美味しそうな苺があんなに生っているんですから。」
「いつのまに・・・・」
「ほら、さっさと収穫しちゃいましょ。今回はお手伝いしますから。」
先程まで、果実どころか花すら咲いていなかったので
古谷さんは大変驚いていたが、俺はもう慣れてしまった。
一粒を口に放り入れると、すぐに咀嚼する。
甘さの中に、ほんのちょっとだけ塩っぽさがある
「うん、おいしい。」
どれどれ、と古谷さんも食べ始めた。
ミュータントベリー:食すと、所持している技能のランクが上がる可能性がある。
「は?なにそれ?」
「古谷さん、ちょっといいですか?」
俺は口を真っ赤に染めている古谷さんに声をかけた。
「ふぁい、なんでしょう?」
お・・おう・・・
「古谷さんを鑑定してみてもいいですか?」
と、問いかけると
「ええ、かまいませんよ。」
と帰ってきた。
古谷さんは、ミュータントベリーをもりもり食べているので
そのまま鑑定をかけてみた。
古谷 亮司 : レベル:1 HP:10/10 技能:中級調理(24/100)
「なるほどね、おー上がってく上がってく。」
鑑定した結果、古谷さんの調理技能の括弧内の数値が
稀にだがちょっとだけ上がるのが見て取れた。
一応、伝えておこうかな。
「古谷さんこの苺なんですが、食べるとちょっとだけ才能が育ちますよ。」
技能を才能と置き換えて伝えた、違う気もするが技能というと解り辛いかも知れないからね。
「なんと!?そんなことが!」
「ええ、古谷さんの場合だと料理が更に上手になるようですよ。」
「ありがとうございます!ありがとうございます!」
実験に付き合ってもらっただけなのに泣いて感謝された。




