森の奥村
「ありがとうございます、本店の方は少し名が売れていまして。」
騒がしくてすみません、と続けた。
「いやいや、いいですよ。ここは何もないですから、人を呼び込むいい機会ですよ。」
あぁ、そうだ
「古谷さん、今日が開業日なら食材欲しいですよね?持ってこられるだけ持ってきますよ。」
そう言うと、喜色を浮かべ
何度もお礼を言ってきた。
「いえいえ、古谷さんもこの土地の人間になったのですから。助け合いですよ。」
俺もこの土地に来て言われた言葉、嬉しかった言葉。
「改めて、古谷さん。ようこそ、森の奥村へ。」
もちろん、これは村の正式な名前ではない。
あまりに人口が減ってしまったために、森の奥と呼ばれているのだ。
郵便も森の奥村と書けば、届くので不思議なものである。
それを伝え、俺は急いで家に戻る。
ダンボールを引っ張り出して、ウサギ・コウモリ・オオトカゲの肉を一箱一杯に詰めた。
次に、ポーチに卵・ヒラトリの実・蜂蜜を入れた。
以前なら一箱でも持ち上がらなかっただろうが、今のレベルなら余裕で持ち上がる。
あとは落とさないように運ぶだけだ。
結構な重さもあるので、落ちる事はなかったのだが
地面が整備されているわけでもないので、転ばないように注意をしなければならなかった。
裏口に到着すると、荷物を降ろしてノックをする、しっかり三回だ。
すぐに古谷さんが出てきて、中に入れてくれた。
「それじゃ、ここにおいておきますね。取引のリストに入ってないものもあるので、試しに使ってみてください。」
「ありがとうございます、実は配達が間に合わなくてどうしたものかと考えていたんですよ。」
「それはよかった、野菜は無いけど大丈夫ですか?」
と訊ねてみたら
「ええ、新作の開発で野菜は多めにストックしてあるのですよ。」
なるほど、確かに肉の方が腐りやすいからな。
「それならこの肉は安心ですよ、常温で保管しても傷むことが無いので保管が楽なんです。」
言ってなかったっけ?と思いながらも吃驚している古谷さんに言い放った。
「どうなっているんですかね?」
古谷さんが聞いてくるが、俺もわからないので一緒に首をかしげる。
「まあ、衛生面に関しては注意を払っているので大丈夫ですよ。」
俺も毎日食ってるしな。
「それは心配してませんよ、この肉の状態を見ても悪くなっているようには見えませんしね。」
よかった、古谷さんからのお墨付きがあれば少しだけ残っていた不安も払拭できる。
「この蜂蜜も少しばかり特殊なものですので、味見をしてから使ってくださいね。」
古谷さんなら心配は無いだろうと、ダンジョンのことを軽く説明して品物を卸した。
「では、また明日!」




