孵化
お礼を言うと、「この間の美味しいジャムのお礼だよ」と返してくれた。
俺もつい嬉しくなってしまったので、急いで家に走り
孵化器を置いてから保存していたヒラトリの実を抱えて三井家に戻った。
幾つかを切り分け、お茶と一緒に戴く。
「はぁ、やっぱり三井のおじさんの入れるお茶は美味しいですね。」
「ははは、そう言ってもらえると嬉しいよ。おいしい果物まで持って来てくれたしな!」
「この実なら庭で勝手に育っているので定期的に取れますよ、また持ってきますね!」
そういうと、三井のおばちゃんに呼び止められ
「この実はまだあるかな?あったら幾つか貰えないかい?」
と投げかけてきたのだ。
またも家まで走り、袋に詰められるだけ詰めて三井家へ
「おばちゃーん!もってきたよ!」
はい、と渡すと
「ありがとうね、ちょっとゼリーにしてみようかと思ってね」
なるほど、と頷くと
「出来上がったらさとし君の家の冷蔵庫に入れておくよ。」
「うん!ありがとう!おばちゃんの作るお菓子っておいしいから好きなんだ!」
ニコニコと四人で笑いあい、今日のお茶会は終わりをむかえた。
さて、先程の孵化器の件なのだが
三井さんからは、孵化までに三週間ほど掛かることを聞いていた。
だが、家に帰ると卵にヒビが入っていたのだ。
急いで孵化器から卵を外すと、持ち上げた手の中で孵化した。
卵が特殊なだけに、モンスターでも産まれるのかと思ったが
予想を裏切り、殻を割って出てきたのは青い毛の雛だった。
「カラーヒヨコ?いや、可愛いのは可愛いんだが。」
ピヨピヨと鳴いては、手のひらの上で歩きまわるのだ
可愛くないわけがない。
外に小屋をつくろうとも思ったのだが
一羽しかいないのにこんなに小さいときから淋しい思いをさせてやる必要はないと考え直し
箪笥の引き出しを引っこ抜いて俺の古着を詰めて住処を作ってあげた。
「うーん、このヒヨコって何を食べるんだろう?」
普通のヒヨコならば、市販のエサで大丈夫なのだろうが・・・
なんせダンジョンの中からの不思議な卵から生まれたのだ
エサもそれなりのものを食べるのかもしれない。
そんなことを考えていたのだが、青いヒヨコは引き出しから飛び出ると
ヒョコヒョコと庭に歩いていった。
「おい、そっちは危ないぞ!」
と声をかけるも、キュウリの植えてあった場所まで止まる事はなかった。
そして、ギリギリで存命しているキュウリの葉をつつき始めたのである。
葉っぱを食べてるのかと、口元を確認してみると
小さな虫を食べていたようだ。
「こらこら、おなか壊すなよ?明日になったらエサを買ってやるからな。」
と告げると、ピィと小さな返事が返ってきた。
翌日、朝からスーパーへ向かった。
今回は、カラーヒヨコちゃんのために調理前の卯の花を買いに来たのだ。
購入して今更だが、卯の花は鳥でも食べられるのだろうか?
「うーん、食べられるよな?一応ペットショップも寄って行こう。」
そうしてペットショップでは色々な穀物が混ぜられている飼料を購入しておいた。




