計画
院長と一緒に病室へと戻ってきた。
先程まで寝ていた男性は喋る事が出来るようには見えなかった。
布団で見えなかった部分も今は見えているが、腕や足もかなり細くなっている。
それでも表情は柔らかく、視線は院長の方を向いていた。
待っていたぞと言わんばかりに。
それだけでわかる。
この二人の間には、それだけで伝わる何かが有るのだろう。
仲が良いのだ。
そして俺もそれを見て理解した。
院長先生は既に話していたのだ。
治る可能性がある事を。
俺は医院長へ問いかけた。
「準備は整っていますか?」
「ええ、どんな結果でも後悔はしません。きっとこいつも…」
視線を医院長から外し、彼を見る。
寝たままこちらへ小さく頷くのを確認し、ポーチから長命珠を取り出した。
それをそのまま彼の手に握らせる。
「使うことを意識して握ってください」
俺の指示でふるふると小さく、しかし確実に彼は長命珠を握った。
そのまま見守っていると、パキリと薄い氷が割れたような音が鳴る。
そして、彼の掌に光の渦が現れて彼の身体に入っていった。
無事に成功したようだ。
だが、寿命が延びただけで身体は相変わらず細いまま。
まるで細い竹のようだ。
だからここで不老珠を使う必要がある。
「もう一つお願いします。使い方は同じです」
正直なところ、今の彼にとっては物を握るだけでもきついと思うが
こればっかりは仕方がない。
同じように握らせると、割れた音と同時に薄く発光しながらも段々と肉付きがよくなっていく。
これは見たことがある。
まるで伊崎さんが末期癌から復活した時と同じ現象だ。
光が収まると、そこには青年が寝ていた。
若い時の姿なのだろうか。
ふと医院長を見ると、目元には薄く涙がにじんでいた。
そして医院長が俺に言った。
「ああ、こいつです。私の大切な友人です…」
医院長の目元ににじんでいた涙は次第に流れ始め、それを隠すように両手で顔を覆った。
「そう泣くな、吉村。快気祝いは盛大にやると言っていただろう」
寝ていた彼が呟いた。
そして、今度は俺に向かってしゃべりだした。
「井出さんだったね、ありがとう。まだ少し体に慣れていないが、力が抜けるような感じはもうなくなったよ。かかった費用は言い値で払おう」
それに俺も答える。
「いえ、医院長にはお世話になっているのでお代は結構ですよ。もしもどうしてもというのであれば、困ったときに手を貸してください」
「井出さん、そろそろ私のことを医院長ではなく吉村と呼んでください。コイツも医院長ですからね」
「ははは、違いない!俺は飯島だ。困ったときに手を貸せばいいんだな?それなら任せてくれ!俺の計画があと1年で完成する。完璧なものなのだ。成功すれば今以上に手助けできる!」