頼み
院長は俺の言葉に少し肩を揺らし、真面目な顔で声を発した。
「伊達さん、お願いがあります…」
院長の話によると、お世話になった人がもうすぐ亡くなるそうだ。
老衰らしい。
もはや手の施しようもなく、現在では点滴で生きているような状態らしい。
医者としても、これ以上は無理だと判断しているが
僅かでも可能性があるのならと、俺に話を振ったようだ。
手がないわけではない。
いや、鑑定の効果さえ正しければ確実に寿命を伸ばすことが出来る手段がある。
仮に失敗しても院長は俺を責める事はないだろう。
無責任かもしれないが、俺も万能ではない。
現代を生きる者として、医者が匙を投げた者を確実に救える自信は持てないのだ。
ただ、それでも
俺は院長の頼みを断ることは出来なかった。
院長の言う通りだ。
少しでも可能性があるなら助けたい。
俺の身近な人間に危機が訪れるならば助けたいのだ。
幸い、それが出来るアイテムは俺のポーチで塩漬けにされている。
蘇生珠だ。
しかし、老衰で亡くなる場合の効果がわからない。
蘇生したところで寿命が延びていないのであれば、死者をいたずらに苦しめることになる。
これは寿命が延びていなくても同じことだ。
亡くなった時と同じ状態で蘇生されたのであれば体力も無く、ただ死を待つだけの状態となる。
そこで使用するのは不老珠だ。
体のコンディションを最盛期の頃に戻すことが出来るが寿命は変わらない。
そう、この寿命が変わらないというのが問題となる。
俺は、老衰は寿命と変わらないと思っている。
であれば、亡くなる前に使用する方がいいだろう。
不老珠と蘇生珠、これで残る問題は寿命の事だ。
こればっかりは運との勝負だ。
現在の在庫では蘇生珠が12個しかない。
不老珠に関しては3つしかないのだ。
だから一度だけ試してみようと思う。
合成樹による蘇生珠と不老珠の合成だ。
それだけでは不安なので、魔石(白)を追加で投入する。
これで寿命に関係する何かが出来ると思う。
確実なことは言えないので、院長にもしっかりと説明をしてから引き受けた。
期限はそう長くない。
もって3日との事だ。
家でやることなど合成するだけなので、10分もかからない。
中和剤の荷卸を待っている間で十分な時間だ。
院長が帰る際に付いて行く旨を伝え、庭へと向かった。
そして、蘇生珠・不老珠・魔石(白)を投入口へと放り入れ
出来上がったのはこれだ。
長命珠:寿命の上限を30年引き上げる
出来過ぎなくらいに完璧だ。
これで亡くなるまでに間に合えば、蘇生球の使用はしなくてもいいだろう。
「院長先生、何とかなりそうですよ。荷卸は最後まで見届けたいところですが、今から向かえるようであれば直ぐにでも発ちましょう」