小学生
ウサギが沢山居るのはとても癒される。
小学生のときに、家を追い出されたことがあった。
いや、小学生のときに限ったことではないのだが…。
俺の実家は狂った両親と、優秀故にその両親に溺愛されてしまった可哀想な妹
そして、出来の悪い俺の四人家族だった。
外面は良かったのだが、人の目が無いところではそれはもう酷い物だった。
食事を抜かれたことも一度や二度ではない。
酷いときにはパン屋さんの閉店間際にお願いして、食パンのみみの部分を恵んでもらうぐらいには酷かった。
そうして家から追い出された時に最初に向かう場所は、小学校の飼育小屋だった。
そこで飼われていたのはウサギだったのだ。
その飼育小屋で買われていたウサギ達は、もう一つの俺の家族だった。
妹との仲は悪くないが、俺が妹と仲良くしていると両親の機嫌が悪くなるので
二人で相談した結果、両親の目が無いときにだけ一緒に遊んだりしていたものだ。
あの両親のことだ。
今の俺に金があることを知ったら、掌を変えて妹を蔑ろにするはずだ。
幸いにも、妹も十分に自立できるくらいの収入がある事は確認している。
まあ、何が言いたいかと言うと単純なことだ。
襲ってこないウサギは可愛い。
そして、襲ってこないウサギの大群は物凄く可愛いのだ。
襲ってこないどころか、俺の周りに集まってきて鼻をヒクヒクさせている。
少し冷静になってきたところで、鑑定してみた。
ヒールラビット : 負傷・損傷した動物や物を好んで回復・修繕する
癒しは見た目だけじゃなかったようだ。
ドロップアイテムも気になるが、以前ダンジョン内に住み着いていたウサギと違い
野生的で獰猛な容姿ではなく、見た目もとっても可愛い。
そんなウサギ様に危害を加えるなんて、俺には出来ない。
しかし、このモフモフをどうした物か。
危害を加えたくないのだが、しゃがんでいた俺の背中にも既に何匹か乗っている状況だ。
こうしている間にも、沢山のウサギ様が集ってくる。
ああ、なんか暖かくなってきた…。
ん…。
「やべっ! 寝ちまってたか!」
ウサギ様達は俺から離れてはいるものの、相変わらず無邪気に草を食んでいる。
いま何時だろう。
時計をみれば、既に零時を越えていた。
ランダムボックスを開けないまま一日が過ぎてしまったのだ。
俺は天井を見上げて顔を手で覆った。
ここはダンジョンなのだ。
真に恐ろしいのは恐怖ではなく癒しだったのだ。
ちょっとしたハプニングはあったが、気を取り直して五階層へ向かう。
また同じ過ちを犯さない為にも、先に開けておくのだ。
水中を歩き、小部屋に辿り着く。
よし、開けるか!
宝箱を開けて中身を確認するが、大体は同じ物だった。
そんな中でも新しい物が一種類あった。
素材石 : 空の魔石
鑑定の結果はこれだけだった。
だが、これだけわかれば使い方もなんとなくわかる。
合成樹で他の魔石と掛け合わせてみるのだ。
三種類まで素材を入れることができるのだから、魔石と魔石のつなぎとして素材石を使えばいいと考えたのだ。
新しい素材が手に入り、気分は最高だ。
いい年したおっさんが、誰も見ていないことを良いことにスキップしながら家に帰る。
しかし、先程まで最高のモフモフに包まれて眠っていたため
眠りにつくまでには結構な時間がかかった。