幸せ
起きたらお昼前だったので、昨晩に収穫した野菜を持って古谷さんのレストランへと向かっている。
古谷さんは、これらをどの様に調理してくれるのだろうか。
少し楽しみだ。
そういえば、古谷さんの所にばかり卸しているが
石川さんの所でも欲しいのだろうか。
後で百鬼さんに聞いてみよう。
レストランに辿り着き、いつもの様に裏口をノックする。
暫く待つと、古谷さんが出てきた。
「井出さん! こんにちは、今日はどうしたんですか?」
「実は新しい収穫物が採れたので持って来たんですよ。 古谷さんこういうのって使えますか?」
クリイモ・オオアカネ・香ニンニクを取り出して古谷さんに聞いてみた。
「ええ、見たことが無いものですが…。 恐らく使い方は同じでしょう」
「それならよかった。 これらは一応生でも食べられるみたいなので試してみてください」
そう言って、裏口に置いてあるコンテナへと野菜を入れていく。
「ありがとうございます! 直ぐにお店で出すことはちょっと難しいですけど…。 でも検査が終わり次第メニューに載せて見せます!」
「はい、頑張ってください! 話は変わりますが、古谷さんのお誕生日はいつですか?」
「私の誕生日ですか? それでしたら七日後ですね…。 この年になると誕生日とか気にしなくなってしまうもので…、すっかり忘れていましたよ」
苦笑いする古谷さんに、俺も微妙な笑顔で返す。
「実は古谷さんに誕生日プレゼントをあげようと思っているのですが、肝心の誕生日を知らなかったもので…」
「あはは、ありがとうございます。 お気持ちだけで十分嬉しいですよ」
「楽しみにしていてください! 古谷さんが絶対に喜ぶプレゼントを用意していますので!」
俺の言葉を聞き、古谷さんは少し考えてから
「すっかり忘れていましたが、石川さんにも用意した方がいいですね。 彼女の誕生日は私の五日前なので…」
「近いですね…。 でも大丈夫です! 石川さんの分も容易はしてありますので!」
「それなら安心ですね! 私も準備しておきましょう!」
サプライズにはならなかったけど、喜んでもらえそうで良かった。
古谷さんに挨拶をしてから、石川さんの旅館へと向かう。
途中でレイズとすれ違ったので、少し頭をなでてあげた。
旅館に着いたので、勝手口にまわり百鬼さんを呼ぶ。
休憩中だったのか、すぐに出てきた。
「こんにちは、少しお時間大丈夫ですか?」
「ええ、大丈夫ですよ。 百合さんを呼びますので少し待っていてもらっていいですか?」
「はい、お願いします」
百合さんは石川さんの名前だが、呼んでいるのは百鬼さんだけだ。
他の従業員からは女将と呼ばれている。
石川さん達が来る前に、古谷さんに借りたコンテナを取り出して野菜を詰めていく。
ベンチに腰掛けて、百鬼さんが淹れてくれたお茶を飲む。
このホッとした時間に幸せを感じるのは、それだけ年をとったからだろうか。