秘密
ギャーギャーとうるさい記者達は、慣れてきたのか遠慮もなくレイズとプラムにカメラを向けていた。
そんな記者たちの中から一つだけ、聞き覚えのある声が発せられた。
「さとし君? あ、やっぱりさとし君だ!」
誰だっけ・・・。
声は確かに聞き覚えがあるのだが、顔がぼやけて思い出せない。
解決できない事が気になってモヤモヤしてきたので
その記者に近づいて聞いてみた。
「誰だっけ?」
ずっと沈黙を貫いていた俺が喋ったことで、記者達が余計に騒ぎ出した。
コイツ等本当になんなんだろうな。
俺にマイクを向けているのはわかる。
カメラを向けているのもわかる。
納得はできないが、コイツ等の行動の理由は単純なのでわからないわけではない。
だというのにだ、コイツ等は記者の集団で有り
同業者というライバル同士なのだ。
だから当然、お互いに配慮なんてものはない。
結果として、俺に向けられたマイクにも記者の声が容赦なく入ってしまうというわけだ。
俺が質問で返した記者も、忘れられていたことに傷ついたのか知らないが
落ち込んだ表情で溜息を吐いていた。
「答えないなら俺は帰るぞ、答えるなら手短にな」
この言葉に、今度は周囲の記者達が俺に声をかけた女性を攻め始めた。
「あ・・・。 あの! えっと・・・」
うん、この反応・・・・イライラする。
堂々と私有地に踏み入っているくせに、共に入ってきた仲間が敵視してきて困惑しているのだろう。
集団でなければ強者でいられない、虎の威を借るなんとやら
俺はただ声をかけられたから問いかけただけなのに・・・。
なぜ怖がられなければならないのだろうか。
「で? 誰なの? 知り合いならさっさと答えてくれないかな?」
イライラしているが、やはり気になる部分は譲れない。
答えられないのなら家に籠って助けを呼ぼう。
そう考えているとき、小さな声だが確かに聞いた。
岡島 緑
俺が中学生の頃に転校してきたのだが、一か月かそこらでまた転校してしまった友人だ。
一か月という短い期間ではあったが
当時、あまり人と話さない俺が珍しく気の合った子だった。
「岡島緑って・・・。 本当にみーちゃんなのか? それなら・・・うん」
成長してわかりづらくなってはいるが、確かに面影はある。
少し悩んだが、一度だけ家に招いてみることにした。
言っていることが本当ならば、質問をすればすぐにわかることだ。
「ちょっと来てもらっていい? 少し話がしたい」
嬉しそうに頷いてこちらへ駆け寄ってきたので、レイズとプラムの頭を撫でて一言かけた。
「レイズ、プラム。 もう少しだけ頑張ってくれ」
嬉しそうな返事を背中で聞き、岡島さんを案内した。
縁側に座り、湯呑に熱いお茶を淹れて渡した。
「それじゃ、質問に答えてもらっていいかな? 」
「はい! 答えられる範囲で・・・ですが」
共通の秘密を聞くだけなので、答えられなければ追い返すだけだ。