静かな生活
二階層は草原だ。
これも見慣れた景色なのだが、やはり初見では不思議な物だろう。
天井が取り払われたかのように高い空
遥か先まで続く草原
そして何より、風が吹いているのだ。
「念のために言っておくが、次の階層への階段は見つけても絶対に下りてはいけないぞ」
下手にドラゴンのことを言うと、見たいと言われる可能性もあるので話題には出さない。
「あの! この葉っぱって持って帰ってもいいですか?」
葉っぱ?
ウォフラ草:熱を加えると甘みが増しす栄養価の高い植物
そういえば鑑定かけたことなかったっけ。
完全にダンジョンのオブジェクトだと思い込んでいたが、よく考えればヒラトリの樹だってもとは同じだ。
この二人を連れてきたことで、改めて自分の注意力のなさに気付いた。
「ああ、熱を通すと甘くなるらしいぞ。 栄養価も高いようだし、好きなだけ持って行っていいよ」
といっても、一度に持てる量はたかが知れている。
一先ず大量の草は俺のウエストポーチへとしまい込み、探索を続けさせた。
といっても、この階層では改めて見るようなものなど無いのだが・・・。
「井出さん、もう大丈夫ですよ!」
と、声をかけてきたのは葉山さん。
「ん?もういいのか?」
「はい! 原田さんも待っていますので・・・」
それもそうか。
「よし、戻るかー」
当然、戻る時は階段を上ることになるので二人は随分と辛そうだった。
そして、階段を上りきる前に一度止まり
二人に伝えておかなければいけないことを伝えた。
「なあ俺さ、最低難易度のダンジョンでの騒動の記事を見たんだ」
ビクッと体が固まる二人に言葉を続けた。
「あれってさ、あいつらだよね?」
この言葉に、隠すつもりもないようで
「はい、うちの部長が暴れた事件です。 井出さんの庭で行われた自己中心的な行動と、事前に最低限のことを調べて来なかったのが災いしました。 そして、出入り禁止を受けたのです」
葉山さんがここまで答えると、花川さんが話を続けた。
「出入り禁止を受けた部長は、政府に抑えられていないダンジョンを探したの。 そして見つけた候補は二つ。 決壊したテーマパーク、愚者のダンジョンと・・・井出さん、探索者Sのダンジョン」
そうなれば当然、少しでも安全な方へ行こうと
大体の住所を割り出し、道を尋ねながら進んできたという。
「ふーん、やっぱりインターネットで調べるのか?」
「はい、ネット検索で似たような場所はいくつか見つかりました。 ですが、決定的だったのは虹水晶のお披露目の時ですね。 そこから主催者様が新しく旅館を建てた事を聞けばすぐわかりますよ?」
まじかよ・・・。
「ってことはだ、もしかして今後もここを訪問してくる人が・・・」
「はい、当然でてくるかと思います」
少しは予想していたことだが、静かな生活もあまり長くは続かないか。
「あまり深く考えなくても大丈夫ですよ? 私たちのようなマナーの悪い人なんて一握りですから」