馬鹿の相手
周囲はまだ暗いが、それでもぼんやりと視認できる程度には明るくなっていた。
そこに映し出されていたのは
ミュータントメロンを抱える女子学生
スターメロンをもぎ取っている男子学生
ヒラトリの実を齧っている女子学生
そして、キュウリを踏み荒らして合成樹にキュウリの葉を投げつけている男子学生。
残り二人はそれを止めようとしているようだが、もう手遅れだ。
「おい、お前達のやっていることは犯罪だぞ。 理解しているのか?」
もうこいつ等に慈悲をかけるつもりは一切ない。
「ご、ごめんなさい! すぐ止めさせますから!」
「ちょっと皆! いい加減にしてよ!」
必死に止めようとする女子学生二人の声を無視して、なおも好き勝手する学生諸君。
「プラム、レイズ」
二匹はすぐに姿を現し、学生へと威嚇をし始めた。
その姿を見て、止めようとしていた学生までも腰を抜かしてしまった。
「レイズ、交番まで頼む」
レイズの首輪に手紙を括り付け、届けてもらうように頼むと
極風石を使用して空へと駆けて行った。
気に入ったのね、というかまだ持ってたんだ。
「それで? 言い訳を聞いてやってもいいが、許されることはまずないと思え。 それは売り物であると同時に、うちの食料でもあるんだ」
幸い、この家の特殊性を交番のお巡りさんは知っているので状況の説明は容易だろう。
そう思っていると、止めようとしていた女子学生が喋り始めた。
「そ・・・その、私たちは波瀬川高校の迷宮探索部です。 ご迷惑をおかけして本当にすみませんでした!」
「いや、君とそっちの子は別にいいさ。 訪問する時間くらいは気を付けてほしいけどね」
ありがとうございますと、何度も礼を言われたが
謝罪しなければいけないのは他の四人であって彼女たちではない。
「で、そっちの四人はどうなのさ。 人が文字通り命を懸けて収得した物を窃盗とはね、いい度胸じゃないか」
プラムを恐れ、未だ起き上がれずにいる四人だが
その中の一人が口を開いた。
「なんだよ! いいじゃねーか、こんなに沢山あるんだから!」
それに続いて他の生徒も喋り始める。
「そうだそうだ! こんなに美味しい物を独り占めなんてずるいよ!」
「そうよ、それにこれは私が採取したものだから既に私のものなのよ?」
本当に頭が痛くなる。
仕事で馬鹿の相手をしたことは何度もあったが、これが今の高校生なのだろうか。
もぎ取られたスターメロンは一つだけ、まあこれくらいならいいだろう。
ヒラトリの実も落ちていたのを一つ持っていかれただけだ、プラムが怒っているがこれもまだいい。
問題はキュウリとミュータントメロンだ。
キュウリは踏み荒らされているため、再生することは不可能だろう。
そしてミュータントメロンだ。
横倒しにされ、植木鉢が割れて土がこぼれている。
地に放り出されたミュータントメロンの根は踏みつぶされているのだ。
現在進行形で・・・。