熱い恋の魔法
ベルちゃんが取り憑いてから、何だか身体が火照って仕方がない。
天使を身体に宿したせいなのかしら。
どうしてもお肉が食べたくて人生初となる「1人焼き肉」もしてしまった。
毎日でもお肉が食べたい。
今日も仕事前に立ち寄るコンビニで焼き肉弁当を買ってしまった。
私が担当しているのは7階にある外科・整形外科の入院病棟だ。
入院患者の「下のお世話」もお仕事だけど、この頃は妙にドキドキする。
ほとんどの患者さんがおじさん、おじいさんなんだけど「男」を意識しちゃう。
尿道カテーテルを入れるとき、手が震えた。顔が赤くなるのが自分でも判る。
毅然とした態度で接しないと新米看護師と舐められちゃうし、恥ずかしがってしていたら患者さんも不安になっちゃう。いけない、いけない。
(今日も彼氏に会えなかったねぇ~)
ベルは私の背中に憑いている。
「あの子に会えるのは週に1、2回あれば良い方なのよ。」
(会えるの、楽しみねぇ~)
ベルは「食事に行ってくる」と言って夜中に出かける。1、2時間で戻ってくるけど、1日1食だけでいいのかしら。っていうか、天使って何を食べているの?
私はその間にお風呂に入る。ついつい強めのシャワーでイケないことをしちゃうようになった。急に性欲が強くなったみたい。
「どうしちゃったんだろう・・・」
恋をしているせいなのかしら?
今日は準夜勤なので、夕方に出勤する。
出勤前に夕食のお弁当を買おうと、いつものコンビニに立ち寄った。
いた。気になっている男の子が立ち読みしている。
(やっと会えたねぇ~)
ベルちゃんが耳元で囁く。
(まずは近寄って後ろから抱きついて、耳に吐息を吹きかけるのよぉ!)
「え!? そんな・・・まだ名前だって知らないのに・・・」
(大丈夫! 名前を知らなくっても性交できるわ!)
「はぁ?」
(恋愛成就の秘訣は押しの一手。大人の女の色気でイチコロよぉ!)
ベルちゃんは本当に『愛の天使』なのかしら。性交したら恋愛成就なの!?
「こんばんは、初めまして。私は斉藤愛子と言います」
(あ!)
ベルちゃんが私の身体を乗っ取った! 勝手に動かないで!!
「以前からあなたが気になっていました。よかったら、私としましょう!」
「はぁ?」
(それじゃまるで痴女じゃない!)
「ぶちゅっ。れろれろれろ・・・。ちゅぱぁ~」
(あ! いきなり店内でキスしたぁ! 舌を入れないでェ! 吸わないでェ~!)
泣きたかった。いきなりこんなアプローチでは恋人同士になんてなれない。変な女と思われちゃう。しかも本名を名乗っているし・・・。酷い!
「ふふふ。お姉さんともっと良いことしない?」
「あ、あ、あ、あの僕、帰りますっ!」
慌ててコンビニを飛び出し、バイクで逃げるように走り去った。
(ベルっ! 何てことをしてくれたの!!)
「あら? あの年頃の男なんてヤルことばかり考えているのよぉ~。このくらい積極的に行動すれば、良い関係になれるわよぉ~」
(いいから、私の身体から出て行きなさいっ!!)
ベルが身体から抜けたのを感じ、すぐさまコンビニから出て走った。あのコンビニにはもう行けない。店員がぽかんとした顔で私を見ていたもん。SNSで拡散されちゃう!
「もう、お嫁に行けない・・・しくしく」
(大丈夫、大丈夫。ベルちゃんに任せておきなさい!)
「もう私のことは放っておいて! ベルちゃん、帰って!」
(だめよぉ~。あなたの望みを叶えるまで帰れないわぁ~)
この天使は何なの!? 人を不幸にする天使なの!?
私は泣きながら仕事に向かった。
2015/12/15 誤字訂正