午前零時の魔法
この春、小さい頃から憧れていた白衣の天使になった。
大学の実習で判ってはいたけど、気力も体力も限界まで使う厳しい仕事だ。
まだ1年目だけど患者さんからは新人もベテランもない「看護師」という、ひとくくりで見られ些細なミスも許されない。
毎日、少しずつ心が折れていくような気がする。
このまま看護師という職業を続けていく自信が持てない。
「私はこの先、どうなっちゃうんだろう・・・」
未来の自分を見てみたいと思った。
午前零時に合わせ鏡をすると自分の未来が映し出されるという都市伝説がある。
実際にしてみたらずっと顔と後頭部の繰り返し。その先は真っ暗になる。
「これは反射率が低いのがいけないの。反射率が高ければもっと先まで見えるはず。きっとこの先に私の未来があるのよ!」
私はボーナスと貯金で光学機器メーカーから反射率99.999%の鏡を2枚買った。1枚約15万円。直径5cmの小さな鏡だけど高かった。
「Technical magic my compact,super mirror.」
小さな鏡を合わせ、呪文を唱えて覗き込んだ。
明るい。遙か遠くまで見える。鏡はこうでなきゃ。
「Technical magic my compact,super mirror.」
もう1度呪文を唱えた。
(呪文が違うのかしら?)
「Technical magic my compact,super mirror!!」
ちょっと強めに唱えた。
(何も起こらないじゃない・・・)
振り返って後頭部を映していた鏡をみた。あれ? 何か変。
鏡の奥から何かが向かってきている!
2つの鏡がものすごく光った。驚いて椅子から転げ落ちた。
「天使降臨!」
鏡の中から何者かが現れた。
「初めまして。私は未通女の願いを叶えるために金星からやってきた愛の天使、キューティーベルちゃんです!」
部屋の天井付近に可愛らしい女の子が浮かんでいる。天使と名乗っているが、普通の女の子だ。
「あのぉ・・・天使って。頭に輪っかもないし、背中に白い羽もないし・・・」
「あぁ。そういうイメージがよかったのぉ?」
天使を名乗る女の子は「うーっ」と力み始めた。顔が赤くなる。耳まで赤くなっている。うんち、出ちゃうのかな?
ぽんっていう感じで頭に天使の輪が現れ、真っ白い羽が背中から生えてきた。
「こんなんでどうでしょう?」
「はぁ」
ベルと名乗る自称「愛の天使」は椅子に座ってもらい、私はベッドに腰掛けた。
「私を召喚したのはあなたね、何が望み? と、いっても私はインベーダーと戦う2次元人ではないし、世界で1番美しい人も知らないわよぉ?」
「私は未来の自分が知りたいの」
「あぁ、そういう願いも苦手。ちなみに変身もできないわぁ」
「じゃぁ、どんな願いなら叶えてくれるの?」
「そうね。私、『愛の天使』なので恋愛成就かなぁ?」
「そ、それなら・・・」
私には1人、気になる子がいる。
いつも仕事前に立ち寄るコンビニで、たまに見かける高校生くらいの男の子。
バイクに乗っていて、ちょっと生意気そうで、だけど彼と会えた日は幸せな気分になる。
「それ! その恋を私が叶えてあげるわぁ!」
「・・・。ありがとうございます、キューピットさん」
「ちょっとぉ! 私はキューピットじゃないわぁ! 『恋の矢』なんて撃たないの。私は未通女の願いを叶えるためは金星からやってきた愛の天使、キューティーベルちゃんよ! ベルちゃんって呼んでねぇ!!」
「はぁ。金星ですか・・・」
ベルちゃんは「普通の人間には私の姿が見えないの。だからいつもあなたのそばについて、その男の子との恋を成就させてあげるわぁ!」といって、背中に負ぶさった。
まるで背後霊だ。私は取り憑かれたのかもしれない。




