−01
そんなこんなで一週間が経過した。
「君、可愛いね!俺のこと好き?」
嫌い。
「愛してるよ、君は?」
嫌い。
「俺の右手がーー」
嫌い。
「「どや!」」
「なんで俺だけ途中で止めーー」
「どいつもこいつも進歩がない!女がそんな簡単に口説けると思ってるのか!」
「これでもそこらへんの完璧ブスはホイホイとついてくるんだよね」
「そうそう、まつげを1秒間見つめてあげるとついてくるよ」
「俺の巧みーー」
そうか、そうだよな。
超絶顔面不揃いのイケメンが、超絶完璧ブスを気にする、ってところが大事なんだよな。
「よし、わかった。じゃあもうこの任務は没にしよう」
「そんな!ボス!」
「俺たちを見捨てないでください!」
「喋らーー」
「代わりに新たな任務をお前らに授ける。微妙にブスな彼女を作って毎日一緒に過ごすんだ」
「彼女かあ、俺はあやぽん一筋って決めていたのに……」
「俺もなげっちから乗り換えるのは心苦しい……」
「喋らせろやこのくそ結鷹!!ってあれ……」
とりあえず一人を三人がかりでひねりつぶして、二人の真摯な姿勢を洗脳した。
「そうだな!あやぽんもきっと喜んでくれるさ!」
「なげっちだってきっとそうだ!」
「うむうむ、大変素晴らしいぞ二人とも。それじゃあ任務を始めよう」
俺たちは新しい任務を始めた。
ゴミのようなオタクだった彼らに、
少し可愛い少しブスな彼女が出来ていくのを、
微笑ましく見守る俺素敵。
とりあえず俺も何かしなければな。
そうだ、アレもやらなきゃいけないんだった。
俺はペラペラの紙を持って薄暗い廊下を歩き、学校の隅にある教室のドアをノックする。
「どうぞ」
中から声が聞こえる。
「失礼しまーす」
俺は教室の中に入る。
教室は大きい机がドンと置かれていて、それを囲むように椅子が置かれてる。
「どちらさまですか?」
一人しかいない生徒が振り向いて大人っぽい声で喋る。聞き覚えのある声だ。
「あれ?……大人ちゃんだ」
「結鷹くんでしたか。今日は何の用で?」
「オタク心理研究部に入部希望です」
この教室を使ってる部活は、
オタク心理研究部というトンデモ部活なんだ。
どうやら大人ちゃんはこの部活の部員らしい。
「まぁ!座って座って!」
上機嫌な大人ちゃんが俺の椅子を用意する。
「ありがとうございます」
俺は礼を言って、その席に座る。
「どうしてあなたがこの部活に?」
「俺にはオタクの友達が三人いるんですけど、まだ半人前なもので、友達としてどうにかしてあげたいと思って、この部活に入部しようと思いました」
「素敵な話ね。私たちが普段何をテーマに活動してるか知ってる?」
「矛盾を生む反発心とオタクの存在ですね」
「そうなの。私たちは豚のような人を可愛い、綺麗、と思う。だけど何故か憧れないし、なりたくないの。そしてオタクには私たちのような人を美人だ、と言う人がいるの。これはどういう心理でそうなっているのか、それが私たちの活動テーマよ」
本当に素晴らしい部活だと思うね。
この部活を知った時にはあまりの喜びに舞い上がってしまったよ。
「それでなんですが、これ入部届です」
俺は事前に書いておいた入部届を大人ちゃんに差し出す。
「よろしくね、結鷹くん。後の処理は私がやっておくわ。早速今日の部活を始めましょう♪二人とも、出てきていいわよ」
大人ちゃんがそう言うと、
掃除用具入れから女の子が出てくる。
「もう、男子が来るなんて聞いてないよ」
「そうだそうだー!」
「私だって知らなかったわ」
「こんにちはー」
俺は挨拶する。
二人がギョッとした顔をする。
「カッコイイ……」
「そだそだ……」
小声だけどバッチリ聞こえてます。
ありがとうございます、と心の中で言っておく。
二人がそれぞれ席に座る。
「とりあえず自己紹介しましょうか」
「そうですね、俺は一年D組の月村結鷹です。結鷹とお呼びください」
「私はオタク心理研究部部長の二年D組の大和怜よ。ちなみにこの部活は先輩後輩関係なく下の名前で呼び捨て、敬語禁止が原則だからよろしくね」
大人ちゃんは怜さんと言うらしい。
「了解です……じゃないや、わかった」
「私は二年A組の青山凛、他にも手芸部に所属してるの」
ふわふわ系のいかにも女子力高そうな女の子だ。
髪を縦ロールだか横ロールだか巻いてるのがふわふわ感を増量してる。
手芸部がよく似合ってるね。俺のマフラーとか作ってくれないかな。
「私は二年C組の赤石悠香っていうんだ!私も兼部してて、この部活とあの部活だよ!」
元気ハツラツな幼女といったところか。
ロリコンに好かれそうな感じだ。
この部活ってのは分かるがあの部活ってなんだよ。
「あの部活っていうのは陸上部の事だよ。悠香は走るのが速いの」
ナイス補足説明だよ、凛。
「この部活って三人しかいないの?」
「あと一人いるわ。今日の部活は自主参加だから来てないの」
「へえー、早く会ってみたいね。それで今日は何をするの?」
「初の男子生徒が来てくれた事だし、男子の心理について聞いてみたいと思うの」
「その事なんだけど、俺は怜は美人だと思うし、凛と悠香は可愛いと思うよ」
早速カミングアウトしてみた。
「「えぇぇー?!」」
凛と悠香が驚きの声をあげる。
怜はあんまり驚いてないみたいだ。
「やっぱりそうだったのね、アミーから話は聞いてたの。結鷹は私を美人って言ってくれるんだって」
「実際そう見えるんだよね」
「ど、どこらへんが可愛い?の?」
凛が泣きそうな顔して聞いてくる。
「柔らかい顔立ちとか、笑うと目尻が下がってえくぼが出来るところとか、髪型とか……全部可愛いね」
俺が思いつく限り言ってみると、
凛が泣き出してしまった。
「私は私は!?」
悠香が切迫した表情で聞いてくる。
「その幼い顔立ちとか、綺麗な目とか、幼女っぽいところとか……悠香も全部可愛いね」
また思いつく限り言ってみると、
凛に抱きついて泣きわめき始めた。
悲しきかな。
女の子二人を泣かしてしまったよ。
泣きやんだ二人が、
今日は部活をやっていける気がしないと言うんで、
今日の部活は終わりだ。