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文化祭二日目も文化祭片付け日も俺はばっくれたので、
文化祭休みも含めて、八連休だ。
特にやることがないからどうしようかと悩んでいたんだが、
妹の架那が七泊八日の旅行に行きたい、と言って親に交渉した。
交渉というよりは報告だ。
母親も父親も、俺が一緒に行くならいいと言う。学校さぼっていいのか。緩い家庭だな。
まぁそんなこんなで、京都に来ている。
「結鷹こっちきてー!」
架那が俺を呼ぶ。
今は清水寺に来ている。大通りを外れた階段を架那が進む。
だいぶはしゃいでるご様子で。
俺も階段をのぼった。
「見てみて!ここを目をつむってこっちからあっちまで歩いたら、恋愛成就だって!」
太い紐の巻かれた石が二つある。大きさ的には岩といったほうがいいか。
くだらないなぁ、と思ってしまうが男子なら大体思うだろう。
「あの人たち可愛いね!」
豚が3匹、目をつむって前に手を伸ばしながらブーブー鳴いている。
失敬。
「そうだな」
出家したい、って思うひとの気持ちってこんな感じだと思う。
それか、話を合わせなきゃいけない女子の集団の一人の気持ちだろうか。
「やってみてもいいかな?」
石の手前にひとが並んでるみたいだ。
「いいんじゃないか?俺はゴールのほうで待ってるな」
「うんうん」
俺は奥の岩のとこへいく。人が多くて辛いな。
女の人とすれ違うと、必ずチラチラと見てくる。
これがイケメンを見る目だと知ったが、やっぱりなんとも言えない気持ちだ。
俺の中ではまだ俺はブサイクなんだ。
架那の番みたいだ。
ぎゃーぎゃー言いながらこっちに来る。このまま行くと、どっかに突っ込んじゃうな。
ちょっと声かけてやるか、と思ったら、
「もうちょっと右やよ!」
と隣の女の子が言う。
びっくりしたんでそっちを見ると、俺の視線に気づいたのか、
「もしかして彼氏さんですか?」
と声をかけてきた。
目がクリッとしていておっとりとした顔の女の子だ。
俺と同い年くらいだな。
「兄ですよ、さっきはどうも」
「そうでしたか。いえいえ、私もさっき誰かに声を掛けてもらって辿り着けたんです」
「そうなんですか。ってことは一人で来てるんですか?」
「一人で埼玉から来たんです。生まれはこっちで、久々に京都に来たんです」
「俺たちも埼玉から来たんですよ。生まれも埼玉ですけど」
「やったー!」
架那が無事岩に着いたみたいだ。
「これで彼氏ができるな」
こんなんで恋愛が成就するなら、
誰もリア充を恨んで爆発しろなんて言うことないだろうね。
「よかったよー。意外と難しいんだね」
「途中危なかったからな。その時、この人が声かけてくれたんだぞ」
俺はおっとりちゃんに礼を言うようにうながす。
「あ、あの時のですね!ありがとうございます!」
架那は礼を言う。うんうん、いい子だ。
「いえいえ、いいんですよー」
架那が俺をちょんちょんとつついて、耳打ちしてくる。
「タイプ?」
「な、何言ってんだ、まったく」
三文字がグサリと突き刺さる。なんて妹なんだ。
「お姉さん、ひとりなら私たちと一緒に観光しない?」
「ちょっ」
何言い出してるんだこいつ。
「いいじゃんいいじゃん」
「迷惑だからやめんか」
「私でよければ一緒に行きたいです。京都のことなら詳しいですよ」
おっとりちゃんはおっとりと微笑む。柔らかい雰囲気だ。
いいんだな。こんな騒がしい妹と俺と京都なんて、ロクなことないぞきっと。
「そうなんですか〜!よかったです、私も兄も全然詳しくなかったんですよ」
「俺もおっとりちゃんがいてくれたらありがたいな」
「おっとりちゃん?そういえば名前言ってなかったですね、私、深瀬碧っていいます。さっきお兄さんの方には言いましたが、埼玉に住んでるのでまたあっちで会えるかもしれないですね」
「おお!埼玉フレンドですね!私は月村架那、兄は結鷹です。今は七泊八日ののんびり京都旅行なんですー」
「七泊八日も?私は三泊四日で祖母の家にきたんですよ」
「今は三日目で、もうやることもなくなってきましたねー」
そう、もう三日も京都を満喫したんだ。俺と架那の知識じゃやることないわ。
「それなら私が案内しますね」
「わーい!」
俺らはおっとりちゃん改め、碧と一緒に京都観光をすることになった。