−03
「落ち着いたか?」
「……はい」
美人ちゃんは、
公園に連れてくる途中で我に返ったようで、また顔を真っ赤にする。
今回は確実に羞恥心だろう。
「それでなんて言ったんだ?というか何人なんだ?」
ベンチに座った俺の隣にちょこんと座る。
「フランス生まれで8歳になった時にこっちに来たの。それでさっき言ったことは……」
美人ちゃんはうつむいて喋らない。
フランス人なんだな。
そういえばフランス人形みたいだわ。
あれ?フランス人形ってなんだっけ。
まぁいっか。
「言いたくないことなのか?俺が癪にさわるようなこと言ってたなら謝るよ」
俺がそう言うと、
「あのさ、私のこといじめてるわけじゃないの?」
と、不安そうな顔で言う。
「いじめる?俺そんな酷いこと言ったか?俺が言ったことと言えば、『君には分からないよ』くらいじゃないかな」
「違うわ。私のことを……だって言ったの」
「なんだって?」
「私のことを美人だって言ったの!!」
顔を真っ赤にして叫ぶ。
「え?そう言われるの嫌だった?でもそうか。俺みたいなきもいやつにそんな事言われたら嫌なんだな。ごめんな」
自分で言ってて辛いけど、そうなら申し訳ないってのは本当に思ってる。
「何言ってるの?私はブスだし、君はカッコいいじゃん」
「は?」
何を言ってるんだろうか。
本当に今日はわけのわからない日だ。
もう何も考えたくないし、何も考えない事にしよう。
ありのままを受け入れるんだ!
「そっか、じゃあ俺と付き合ってくれないかな」
「え!?」
「いや、いいかなーって思って……」
「……よ」
「なんか言った?」
「いいよ!」
「え?何が?」
「付き合ってもいいよ」
「ひょぇぇぇええー?!?!」
自分でもびっくりするほど変な悲鳴が出た。
「何よ。君から言ってきたんじゃない」
「その付き合ってもいいって言うのは、文化祭の買い出しに付き合ってもいい、とか空手の練習に付き合ってもいい、とかの付き合ってもいいじゃなくて、ハート形のストローで同じ飲み物飲んたり、砂浜で追いかけっこしたりしてもいい、って意味の付き合ってもいい、だよね?」
「ちょっと違うけど大体合ってるよ」
ちょっと違う?
ちょっとってなんだろうか。
いや、俺は考えるのはやめたんだった。
「そっか。じゃあまずは自己紹介しよっか」
「そうしよ!」
「俺は一年D組の月村結鷹、結鷹は完結の結に、鳥の鷹って書くんだ」
「私は二年D組のアメリア・シャルトー。友達からはアミーって呼ばれる事が多いかな。結鷹はなにかあだ名とかあるの?」
ひとつ上の学年なんだな。
でも今は俺の彼女だしタメ口でいいよな。
「ハゲタカとかアホウドリとか呼ばれてたな」
ひっどい呼ばれ方だけど、なんでだかそんなに気にならなかったな。
「そんな酷い事言う人がいるの!?私はブスとかよく言われてたけど……」
「だからなんでアミーがブスなんだ。こんな綺麗なのに」
「だから結鷹は変よ。私はブスなの。生まれてからずっとそう言われ続けてきたんだから」
「あのさ……俺今すごいことに気付いたんだけど、もしかして太ってて肌が汚い人って美人?」
「そうそう。脂肪が沢山ついててよく汗かくような女の子が可愛くて素敵だわ」
「まじか」
いや、まじか。
まじなのか。
それならさっきの豚子ちゃんマジックも成立するんだな。
いや、マジック自体は俺が粉砕したが。
何が起きてるんでしょうか。
「もしかして俺がカッコいいってのも本当?」
「もちろん本当だよ!太ってたり痩せてたり、あとはこれは男女ともに言えるんだけど、顔が整ってない人の方がいいんだ。だから私みたいなのはブスなんだよね。って何当たり前なこと言ってるんだろうね」
俺はもう納得したことにしよう。
なんでだかは知らないが、
美的感覚が逆転しとる。
「じゃあ、豚は可愛い?」
「うーん、きも可愛い?」
「じゃあ、昆虫は?」
「可愛くないよ!?」
「じゃあ、最近イチオシの芸能人は?」
「アン◯ールズは両方とも大好き!」
「一番男子でかっこいい職業は?」
「やっぱ相撲かなー」
まじか、アミーさんまじパナいっす。
これ多分、人間限定の逆転ですな。
「そっかそっか!」
「うんうん!」
「そういえばなんであんなとこにいたの?」
「文化祭の手伝いしてたんだけど、買い出しに来てて……あああ!!私もう戻るね!」
アミーは全力疾走で学校へと戻っていった。足速いなぁ。
どうやら買い出しの途中で俺と付き合ってしまったらしいね。
俺も学校もどろうかな。
なんとなく状況分かったし、このままじゃ家に帰れないからな。