ながい永久と儚いおしまい
なんということもない、只のとりとめのない少年少女の会話
夕暮れ時に染まる教室で僕は独り本読むのが好きだ。黄昏っていうかそれくらいの時間に人がいないような場所で本を読んでいるとまるで自分だけの固有的世界が生まれる気がするからだ。
でも絶対下校のチャイムが鳴るとその世界は儚く簡単に終わりを告げる幻想みたいなものだった。
だけど、次の日も放課後を告げるチャイムが鳴れば皆は帰っていき、僕だけの世界が簡単にできる。そして、絶対下校を告げるチャイムが鳴れば世界は終わる。それの繰り返しをして僕の人生は回っていく。
たまに、見回りの先生が来るが、机の上に勉強道具と筆記用具を置いてノートを開き、教科書を開き、シャープペンシルをノートの上に置いておけば、先生に見つかっても言い訳はできるのだ。
傍から見れば、放課後の教室に一人の残って勉強している普通の学生だ。何らおかしくはない。注意するとこがあるとすれば、小学生がそんなことするのはまだ早いという人がいるかもしれないが、いまどきの子供としては将来をよく考えている方だと僕は自負している。
だが、あまり先生は僕に話しかけたり、声をかけたりすることはないから、余計な心配かもしれないが、そんなことを考えながら僕はいつものように夕暮れ時の教室で同級生の屍の山の上に腰を下ろし、本を読んでいる。
え、言ってることとやってることが違う?それは大きな誤解だ。これはひと月に一回起こるイベントみたいなものだ。それがたまたまこの時期と重なっただけだ。僕は悪くない。悪いのは今屍と化している彼らが悪い。
イベントというのは、どうやら僕はなまじ顔が他の人より整っているらしい。隣の席のやつが言うにはいわく、透かしたようなそれでいてクールなところが好きらしい、あと、強いとことか。
それに嫉妬したのかは知らずや、数人の男子生徒が入学したての頃、放課後いつものように本を読んでいる僕をいじめようとしたらしいんだが、本を盗られてからのことを僕はあんまり覚えていない。気が付いたときには、僕は彼らの屍の上で本の続きをよんでいたということだ。
それからがあった後、彼らはひと月に一回仲間をつれて僕と喧嘩をするのだ。それは、半年たった今も変わらずだ。正直僕は彼らに畏敬の念を送りたいところだ。僕ならば一回負ければもう戦わないと思う。三十六系逃げるにしかず。格言だ。
閑話休題
そして僕はいつも通り死屍累々(ししるいるい)とかした彼らの上で本を読む。いつまでもいつまでも、チャイムが鳴るまで。
ガラッ!
そんなドアを開ける音で僕の世界は終わりを告げた。いきなり静寂に満たされた場所に音を立てるバカはどこだと思い。音のなる方に目を向けた。
「げっ!」
思わず、口に出してしまった。それもドアを開けた相手というのが僕の苦手というか相手をあんまりしたくない人種だったからだ。そのバカはぽかんと口を開けた状態でこちらを見ていたと思えば、いきなり声を出して
「あーーーー、何してるんだよ!!!」
とか言ってきやがった。だからこいつと会うのは嫌だったんだ。平然とした顔でこちらを見てくる。
僕はため息をついて、読書を中断する羽目になってしまった。何はともあれ、説明から始めなければならない。
「・・・・・・ってことなんだよ。分かったか?」
「はぁ、なるほどねぇ、そんなことがあったんだ」
素直にこういうときは本の中の世界が羨ましい。
『かくかくしかじか』っていったら話が通じたりするから
あいつはどこか感心しているが、僕として早く立ち去ってほしい。そうでなければ本の続きが読めない。
「でも、そんなことをしてるからは知らないけど、君あまり良くないあだ名つけられてるんだよ。知ってた?」
「なんだと?」
あだ名?そんなものは全く知らない。なんせ僕はあまり人とのかかわりを持たないからだ。この学校でしゃべるやつといえば、目の前のこいつしかいない。・・・今僕のことをぼっちとか呼んだやつがいるようなやつがいる気がしたが気のせいか?
というか僕は、見てくれはいいらしいからもてるらしいし、さらには結構話しかけられるが無視をしている。僕はあまり低能なやつとは会話をしたくない。じゃあ目の前のこいつはどうなんだって話になると思うが残念ながら、こいつは見た目に反して頭がものすごくいい。それゆえに会話には相槌や返答はする。
だが、こいつはなれなれしすぎて、生理的に合わないタイプだ。じゃあしゃべらなきゃいいっじゃないかと思うが、それではだめなのだ。なぜならそれは、自分の裏切りとなるからだ。
自分の裏切りというのは、僕は信念を持って周りにこういう態度で過ごしてきた。つまり自分で決めたということだ。いくら生理的に合わない相手でも会話をしなければ、それは自分への裏切り行為だと考えているのだ、僕は。
そんな僕がただ一人、入学式のクラスでの主席番号順で縦に並んだときに隣だったやつが自分に合わなくても僕は決して自分を曲げたりしないのだ。流石、僕。格がちげぇ。多分、僕を襲撃してきたやつらも僕の偉大さに恐れをなしたから徒党を組んだに過ぎないな。周りに影響を与える僕すげぇ。
※ただの嫉妬に狂った攻撃です。
「おーい、おーい、聞こえているかい。自惚れモードに入ったのかい?ねーぇってば」
「うるさいな、いまいいとこなんだ。邪魔するな」
「なんだよ、いきなり妄想はじめちゃてさ」
「妄想じゃない、事実だ!」
「ああー、うんうんはいはい事実事実。もうめんどくさいから、あだ名だけ言うね」
「早く言え」
「『暇潰し(ジェノサイド)』だって」
「『暇潰し(ジェノサイド)』?」
「なんだよ、そんな厨二病拗らせたやつがつけそうなネーミング、だいたい、ジェノサイドって皆殺しとか虐殺とかそういう意味だったはずなんだが?」
「私に言われても知らないよ。ルビを振ったってやつなんじゃないの?まぁ、ジェノサイドってのはあながち批判できないけどさ」
「?なんでだよ」
「君さては、自分が潰した人が今どうなっているのか知らないでしょ」
「基本的に、学校ではお前以外話していないんだから、仕方がないだろう」
そう僕があいつとしゃべる理由の一つに情報を得るというのがある。というのも、連絡網が回ってこず、学校に行かなくてもいい日に学校に行ってしまったことがあるからだ。それ以来、あいつから得られる情報は大事にしている。というわけだ。まったく腹立たしい。あの時は腹いせに何をしてやろうかと考えたほどだ。
まぁ、過ぎたことを愚痴っても仕方がないのだが、こればかりは人間の性だ。仕方ない。そんなこんなで僕はこいつと表面上くらいは仲良くしているとわけだ。
「それって威張ることでもないと思うんだけど・・・、まぁいっか。君がぼっちなのはその性格を直さない限り物色されるわけないんだし」
「どういう意味だ」
「そのまんまの意味だよ、暇潰し(ジェノサイド)」
「嫌味で言っているか、お前は」
「べつにいやみでもなんでもないんだけどねぇ」
「なんで平仮名口調なんだよ」
「おっと、こいつは失礼しました」
相も変わらずふざけてやがる。
チッ!
思わず舌打ちをしてしまったがまぁ問題ない。苛ついているのは事実だ。
だからといって、こいつの言っていることにいちいち反応していても意味がないのも同じなのだが、そこら辺は僕がまだ未熟というところだ。
「しかし、僕はともかくお前も大概暇なやつだよな」
「そうかな?私は毎日を楽しんでるよ」
「どうにも、そうは見えないんだが」
「あはは、皆と触れ合いをしたり、この町のあちらこちらを徘徊してたら、時間なんてあっという間に過ぎてしまうよ。最近の悩みはどうして一日は24時間しかないのか?ってのがあるくらいにはね」
「そいつは冗長だな」
「ああ、その通りだね」
「・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・」
「・・・・いい加減何かしゃべってほしいんだけど」
「・・・いや、今に流れ的にこれで会話が終了して、お前が帰り、僕は読書を再開する流れだと思ったんだが」
「いや、そんな流れは初耳だよ!」
「どうしたんだよ、いきなり大声出して」
「いやいや、今のは君が悪いと思うよ」
「なんでだよ」
「それはあまりにもあんまりじゃないか、もっと話そうよ」
「というか、僕としては君に聞きたいことがあるんだが」
「なに、会話の話題提供なら大歓迎だよ」
「なんで、お前は僕に構うんだ?、お前なら友達だってたくさんいるだろう、それなのに僕に絡んでくる?」
「ああ、なんだい。そんなことかい。それはね、まだこの学校で君のメアドだけ知らないからだよ」
「・・・・・・実にくだらなくて簡単な理由だな、メアドが欲しいなら僕に言えばいいだろう。頼まれればお前が騒がしくしないってので普通に教えるよ、なんなら今この瞬間に教えようか?」
「いやいや、君は全然分かっていないよ、まったく!これぽっちも!一粒の欠片並にも分かっちゃいない。メアドというのは私から仲良くなって友情はぐくんでから教えてもらうべきなんだよ。それに騒がしくするなってのも無理だね。私は友達と楽しくしたい」
「あっそ、じゃあ交渉決裂だ。僕のメアドは諦めるのをお勧めするよ」
「いやいや、そうはいかないんだよね、これが」
「しつこいな、僕はいい加減に本の続きを読みたいんだよ」
「あ、じゃあじゃあ、君はどんな本を読むの?ほらジャンルとかあるじゃん」
「別に気にしたことはない、強いて言うなら乱読派だ。本にジャンルは問わない」
「むー、じゃあ、いま読んでいるその本は?」
「これは『比較的世界哲学見下し人間論』だ」
「え、君それ読んでいるんだね」
「何を驚いているんだ、それに意外と僕はこの本が好きだし、この著者の他の作品も気に入っている」
「えーと」
「一応、説明しとくか、この著者の名前は」
「いや、いいよ。嫌というぐらいに知ってる。栄井 吉征だよね」
「なんだ、知っていたのか」
「だって、私の父さんだし」
「へぇ、そうなのか、」
父さん、父さんねぇ。父さんって父親か。うらやましいな、親がいるなんて、僕は施設暮らしだしなぁ。それにしても父親ねぇ。あの栄井 吉征が親ねぇ。ってことはあいつはそいつの娘ってことになるのか。意外な接点を見つけてしまったなぁ。ははは・・・・・・・って父!!!あの栄井 吉征の娘だと!おいおい、奇を衒うのは大概にしてほしいんだが、冗談じゃなさそうだし、なんてこった。あれが娘だと。信じられない。カレーライスを福神漬けなしで食べるくらいには信じられない。
そんな僕の奇異な目が分かったのかあいつは、呆れたように
「そんな阿保みたいな顔をしないでよ、君らしくもない。別に私があの男の娘でも問題がないでしょ」
「いや、まぁそうなんだが」
「だったら、それでいいじゃん」
「なぁ、お前は自分の父親が好きじゃないのか?」
「なに、いきなり。しかも、そんな話題を振るとか。確かに私は話題を提供してくれとは言ったけどまさかこういう形で話題を振られるとは思ってなかったよ」
「で、不躾な話なんだが実際、どうなんだ」
「どうもこうも、私は普通に栄井 吉征のことが嫌いだよ。これで満足かい?」
「ああ、満足だな」
「・・・・・・」
「・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・いや、何か言ってほしいんだが、どうして君はすぐ簡単に話が終わったらだんまりを決め込んじゃうんだよ。会話がしにくいよ」
「別にいいだろ、お前がこれ以上聞かれたくなさそうだったから黙って読書の続きをしたいのに、お前が出ていかないからお前が出ていくまでご丁寧に待っているだけだろが」
「もっと話そうよ」
「嫌だ。僕は読書がしたい。そもそもこのやり取りも一度やっただろう。マンネリ化するぞ」
「早すぎじゃない、そんな簡単にマンネリ化なんかしないでしょ」
「人間は新しいもの好きだろ、トレンドなんかすぐに変わる。それこそ日進月歩みたいなスピードでな」
「あながち否定できない事実が混じっているところが難点だね」
「まぁな、というかお前も僕と変わらず大概だよな」
「何が?」
「雰囲気というか形というか信条というか」
「私は少なくとも君には絶対似てないと思うと自信を持って言えるけどね」
「どうしてだよ?」
「なんせ、同級生の死屍累々とした屍の上で堂々と話をしている君とは同じじゃないと思う」
「・・・・あ」
そう言えば、僕はまだこいつらの上に座ったまんまだった。こいつは僕としたことがうっかりしすぎていた。そりゃそんな奴と同類には思われたくはない。少なくとも僕だったらそうだ。だが
「それを抜きにしても僕と同じレベルの会話を僕と同じ小学校4年生でできるやつがいるとは思わなかったんだよ。それはお前の嫌ってる人の影響か?」
「さっきは、深くは聞かない。って言ったくせにもう質問して覆してんじゃん君は。まぁ、君の考えている通りで間違っていないよ。私がこんなに偏った知識ばかり知っているのは父のせいだよ」
「へぇー」
「軽いね、返答」
「重々しく、・・・そうだね・・・、とか呟いた方がよかったか?」
「いいや、それは気持ち悪いから遠慮させてもらいたいね」
「人の親切を気持ち悪いっていうなよ、最低だぞ」
「話は変わるが、君も大概小学校4年生の考え方じゃないよね」
「話変えてきた上に侮辱するなよ、お前。まぁ、確かに他の人と比べたら僕という人間は異端だろうな。だけど人のことは言えないと思うぜ。僕と同じく話についていけるお前も十分異端だ」
「私の場合は父親があれだからね、あれのそばにいれば誰だって例外なくこんな風になってしまうさ」
「身内の自虐ネタかよ」
「いいや、真実だ。本当のことだよ。だから君もあれの本を好むのだろうさ。だけど私はあれが嫌いだったんだよ。あれと一緒にいるとあれが本当に自分と同じ人間か疑いたくなってしまう」
「人間かどうか、だと?」
「ああ、あれはいろんな意味で正しすぎる不正や間違いなどを起こしたことが一度もないらしい。嘘もつかない、虚栄は張らない、真実しか言わない、正しさを追求して、人の弱さなんて生まれてこの方一度も経験などしたことのないような人だったよ。
だから私はあれが怖かった。同じ人間として、家族として24時間365日あれと一緒にいて私はよく狂わなかったと思うよ。心が折れるのさ。あれは完全に完成している人間だ。完全に完成している人間ってのはあれみたいなやつのことを指すと私は思っているよ。不完全さ。つまりはぶれる人間らしさ、ためらいや躊躇などは一切しないから。だからあれは人間で否、人類で一番正しくて完全に完成している人間だ」
「正しすぎるから、逆に人間らしさをこれっぽちもない人間だったってことか?」
「簡単に示してしまえるなら、そう説明してもいいかもしれないが、それじゃいいとこテストでは80点しかもらえない解答だね」
「なんだよ、それじゃあお前の言う100点はどんな答えなんだよ?」
「分からないからって答えをすぐに人に聞くのは間違っていると思うよ」
「いいだろ、分かんないもんは分からないんだ。人の気持ちが分からないように、世界の真理が分からないように僕はお前の質問が分からないのさ、だから聞くんだ。正解を、答えを」
「規模が違うよ、それは。話が大きくなりすぎている」
「いいや、同じだね。話が大きかろうが小さかろうが、分からないという結果はどれもこれも等しく平等に同じだよ。分からないってのはそういうことなんだ」
「まるであの人みたいなことを言うね、君は。そのセリフもしかしてあの人の言い回しかい?」
「そんなわけないだろ、正真正銘僕の言葉だ。というかそんなくだらない戯言を交わしても意味がない、お互いの意見が合っていない以上堂々巡り・・・時間の無駄だ。僕が知りたいのはお前の質問の答えだよ」
「・・・はぁ、まぁ堂々巡りなるのは同意するよ。仕方がないから答えを教えるとしようか。答えは簡単、君はあの人のことを【正しすぎる】といっただろ?そこが間違っているんだよ。【正しすぎる】んじゃなくて圧倒的なまでにあれは【正しい】それだけの違いだよ」
「たったそれだけで20点の減点とはケチだな」
「ケチ?違うよ。君は試験問題で一番間違えちゃいけない話の本筋をはき違えていたから私は正当な評価をしたつもりだよ」
「本筋だと」
「ああ、【正しすぎる】と【正しい】じゃ天と地ほどのさが存在するよ。それっぽいものとホンモノは違うんだ。ただそれだけの違いで、意味が変わる」
「なるほど、そういうことか」
「理解できて何よりだよ」
「そいつは冗長。で、だ。話はこれで終わりでいいのか?」
「いや、どんだけ終わらせたいんだよ、君」
「さっきから何度も言ってるだろ。早く終わらせて本の続きを読みたいんだ。もう黄昏刻が終わってしま・・・・う・・だろ」
「如何したんだい?」
正直びっくりした。言いたくないが僕は先ほどの数秒こいつに見惚れていた。彼女の緋色の髪はひどく窓の外の風景と合っていて、いや、合いすぎていてありきたりな言葉になってしまうが本気で見惚れた。そういう神々しさや儚さが今の彼女にあったのだ。
が、思っただけでこいつには言わない。言ったら調子に乗る。調子に乗られたらあいつが更にうざくなるから絶対に言いたくない、どうせ、こいつのことだ、僕がこんな事いったら『いきなりどうしたんだい?そんなことを言って、まさか私に見惚れるとはな、悪い気分じゃないな』なんてにやけた顔で言ってくる考えただけで腹が立ってきた。ムカつくな。
「ウザッ」
「いきなり罵倒!?、おいおいちょっと待ってくれよ。私は君にどうしたんだい?って聞いただけだろ。なんでその質問の答えがウザイなんだよ。流石の私もびっくりだよ!」
「興奮してんじゃねぇよ、発情期か」
「女子に向かっていう言葉じゃないだろ、それ!!それに発情なんかしてない、興奮しているのは君が変なこと言ってくるからだろ!」
「!マークつけすぎだろ、少しは落ち着けよ。キャラ崩壊しかけてるぞ」
「させてるのはどこのどいつだーーー!!!!」
「五月蠅いな、先生が来ちゃうだろ、そんなんだからお前は陰で『あいつってさー、私よりボクって言った方がキャラが濃くなりそうじゃない?』なんて言われてるんだよ」
「初めて知ったよ!そんな情報、って、マジでそんなこと言われてるのかい、私?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「文字数にして二十字分も黙らなくてもいいんじゃないかと私は思うだが、え?ホントにそんな風に言われてるのかい?私は」
「・・・・・・・・・・世の中には知らなくてもいいことがあると思うんだ僕は」
「そのセリフでもう分かったよ、畜生!」
「女の子が畜生なんて言うんじゃねぇよ、はしたない」
「その女の子に向かって発情期か?なんて言ったやつが言うセリフじゃないと思うんだが!」
「っていうか小学生なのに発情期って分かったんだな、凄いな」
「いや、それほどでもって、普通の小学生でも知ってるだろうが!」
「なんでノリツッコミ一人でやってるんだ?大丈夫か?精神科行くか?」
「普通心配された!っていうか最後にいたっては心配じゃなくて罵倒に代わってるし、実は心配する気ないだろ君!」
「まぁ、冗談は据え置き」
「据え置きしちゃうのかい!?」
「まぁ、冗談は別売り」
「どこに売ってるんだよ!」
「まぁ、冗談は置き引き」
「盗んじゃうのかよ!」
「まぁ、冗談はさて・・・」
「ああ、やっとまともに言う気に」
「・・置かず」
「置かないのかよ!!!」
「まぁ、冗談は話して置き」
「ほんとだね!」
「何時帰るのお前?僕は本の続き読みたいんだけど」
「振り出しに戻ったーーー!!!」
「いや、僕の要求はそれしか言ってないじゃないか、バカか?」
「首かしげながらバカにされた・・・」
栄井のやつはショックを受けて呆然としている。
いや、だって最初からそれしか言ってないじゃん?そんなことを思っていると・・・
「・・・・・・・に・・・」
「あん?」
何を言ってるのか聞き取れなかった。もっとはっきりと言ってほしい。そんなことを思っていると、また栄井が何か言ってる。
「・・・・・くせに・・・」
「何が言いたいんだよ?はっきり言わないと全然伝わらねぇよ」
「DQNネームのくせに!!!」
「っぁぁぁ!!」
あ、ありえねぇ、あの野郎!!!、人が一番気にしていることを言ってきやがった。何のためにこっちが最初から自分語り入れているのに名前を言わなかったのが分かってねぇのか!いや、まぁ、分かっているから言ってきたんだと思うだけど。それでも、それでもそれはいっちゃダメだろが、クソッタレ!!
「ふふふ、そうだよ。散々私をいじってくれたけど今度は私が君をいじる番だよ」
「うるせぇ、黙れ!」
「嫌だね、人夢 忍舞君」
あああああああああああああああ!!!!!!い、言いやがった。ありえねぇ、栄井のやつありえねぇ、それが人のやることかよ。信じらんねぇ・・・。だったらこっちだってまた仕返ししてやる。
「うるせぇ、お前だって下の名前は永久っていうDQNネームじゃねぇか」
「うぐっ、だ、だが私のは可愛げがあるし、別にDQNネームの塊でしかない忍舞君に言われたくはないね」
「グハッ!!」
カウンターもらってしまった。くそ、いじるつもりが逆にいじられるとか屈辱極まりないだろが、僕。
僕が黙り込んでいるのを、機会とばかりに永久のやつがいじってくる。
「くそっ、うぜぇ・・・」
思わず声に出てしまう。すると聞こえたのか、あいつは反撃というばかりに傷をえぐってくる。
「そう言えばさ、君の名前ってさ決め台詞みたいだよね?」
「どうゆうことだよ・・・」
「だって、忍舞だろ忍舞。ばらすとさ、忍んで舞るだろ。『忍て舞る』って感じゃないか。昔の武士が言いそうなセリフだね」
「何を言わせたいんだよ、僕に。お前は」
「『忍て舞る』っていわせたい」
「ぜってぇぇぇえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇいわねぇぇぇぇぇぇぇーーーよ!!!」
「そんなに絶叫するな、近くにいるんだ。耳が痛い」
「お前がふざけたこと言うせいだろが!」
「ちょっとした冗談トークだよ」
「ちょっとした銃弾トークのように切れ味が鋭いんだが」
「それは、君が如何にも厨二っぽい名前をしてるのが悪い」
「好きでこんな名前になったんじゃねぇよ!!」
「だいだいさぁー、人夢の時点でもうだめだよね。組み合わせたら儚いになるとかさ。どこの厨二?今時の主人公でももっとまっし名前をしているね」
「名字が選べるかよ・・・」
「しかもさー、下の名前が忍舞じゃん?再び組み合わせると『儚い忍舞』だよ。言い換えると『儚いお仕舞』ってなるじゃんDQNネーム以外の何物でもないじゃん」
「ホントに余計なお世話だよ、畜生!!!」
永久のやつキャラ崩壊も関係なしに僕をいじることに専念してやがる。なんて無駄なことを。僕がそんなことを思っていると永久のやつは
「・・・うん、ちょっとはスッキリした」
といい笑顔で僕に向かって言ってきた。
「そりゃあ、よかったな」
当然僕はこのように返すしかないわけである。
「ははは、これで少しはいじられる辛さが分かっただろ?」
のんきに言ってきやがった。
「嫌というほどに分かったよ、嫌というほどにな!」
負け犬くさいセリフだがとことんいじられてしまった僕にはお似合いなセリフであるのもまた事実なのだから誤魔化せないというわけである。
「まぁ、これであいこってことでいいだろう?」
と聞いてきた。
その言葉を否定できるわけもなく
「ああ、分かったよ」
そう答えるしかないのであった。
閑話休題
「にしても結構話し込んだね」
と永久が言ってくる。
それもその筈、何故なら今、外は黄昏刻っていう時間は当の昔に過ぎたように真っ暗になってしまっているのだ。本格的にそろそろ帰らなければいけない時間なんてものはすぎてしまっているから帰る準備をしなければならない。
さしあたってはこの死屍累々の山をどうにかしなければならないのだがまぁ、校門出たとこで起こすのもメンドクサイ。取り合えず、今僕が座っているやつをたたき起こして全員起こさせて僕は普通に帰ろう。そう思い、今まで椅子にしていた名もない【実際には名前を知らない】同級生を往復ビンタと右ストレートで復活させた。
そう言えば、この時は永久のやつが「うわぁ・・・」っていってなぜか僕から距離を置いていた。復活した同級生に残りのメンバーを起こすのを任せ僕は今、真っ暗な学校の廊下を歩いている最中だった。
「夜の学校ってのは中々どうして粋なものがあるな」
「・・・」
「にしても、暗いな。電気がついてないから足場が暗くて見にくくて歩きにくい」
「・・・・・」
「・・・・・・・あっ」
「(ビクッッっッッッッ!!!!)」
「なんだよ、なんでそんなに過剰な反応をしたんだよ?」
「・・・・・・・」
「・・・だんまりか・・・まぁ、いいや。すまん永久、トイレ行きたくなったから先帰っといてくれ」
「(カチーーーーーン)」
「・・おい?聞いてんのか?っていうかなんでさっきから一回もしゃべらねぇんだ。このままだと僕が一人で話している気味が悪い人になるだろうが」
「・・・は」
「あん?」
「・・君はそれでも男の子かい?察してくれよ。普通に夜の学校を君と二人で帰っていても怖いのに、それをトイレに行くから先に帰っててだと!ふざけるなよ!!男の子なら女の子一人ぐらい送り届けてくれよ!」
「知るかよ・・・、わっーたよ、一緒に帰ってやるよ、ただしお前ん家どこだよ?あんまり遠いと一回トイレはいかしてもらうぞ」
「ここから歩いて十分くらいのところ」
「それなら持つか」
「ほれ、手を出せ」
「なんで?」
「怖いんだろ?手を握っといてやる。はぐれるのを防止するのにもなるしな」
「・・・・中途半端に男らしいな君は」
「んだよ、僕の気遣いぐらいさっさと受け取れ」
「ん、分かった」
握られた手は永久の手と思えないくらい暖かかった。そういや、こいつも普段何気に難しい言葉遣いをするから女の子としてあまり扱ってなかった気がするな。まぁ、いいか。
そんなこんなで見回りの先生に見つかることなく校門までこれたわけだが・・・
「校門はやっぱ閉まってるよな・・・」
そう、校門が閉まっているせいで学校の敷地内から出るのが大変面倒になってしまったというわけだ。
「さて、まぁよじ登るか、めんどいけど」
ってなわけで僕が校門をよじ登ろうとしたとき永久が
「待ってくれ」
と言ってきた。
「なんだよ」
「それ私も登るのか?」
「?、何を当たり前のこと言ってる、僕が登りきってからまた、僕が校門の上まで登るからお前は校門の上まで登ればいい、あとは僕が引き上げてやる」
「うぐっ」
なんだ、その奇怪な返事は・・・
「どうしたんだよ?なんか問題でもあったか」
「いや、その、真に言いにくいことなんだがな、実は・・・」
「・・・・・おい、まさか・・・・・」
「・・・・その、登れないんだ」
「まじか・・・」
「こんなことで嘘なんかつかないよ」
「おいおい、お前できないことが多くないか?」
「失敬な、体育で一番苦手なんだよ。何かを登ったりするのは、だから私は鉄棒も苦手なんだよ」
流石の永久もこれには悪いと思っているのか表情を曇らせている。
「今、一番いらないカミングアウトどうもありがとう」
思わず、溜め息をつく。仕方がない。あんまりしたくなかったし、疲れるんだけどやるしかないか
「永久今からお前に失礼なことするけど、許せよ」
僕がそう告げると、永久のやつはいきなり僕から距離を取った。
「な、何をするつもりだい、君」
警戒したような態度をとっていた。
こいつなんか、勘違いしてねぇかと思ったが指摘するのが時間の無駄なのでそのまま行く。
「おい、なんだ。無言でこっちに近づいてくるな、おい、バカ、やめろ」
わめいている永久を無視して彼女をこっちへ引き寄せる
「ひ、」
といって永久のやつは目を瞑った。この状況だけ見ると、まるで僕がこいつに危害を加えようとしてるみたいだなと思いつつ、彼女に近づき、腰を持って抱える。よし、これで行くか。
「へ」
永久のやつが腑抜けた声を出していたが知らん。あいつが勝手に勘違いをしてただけだ。
さぁ、校門をよじ登ろうとしたとき永久が
「いや、ちょっと待ってくれ」
「なんだよ、まだなんかあるのか」
「いや、君は何をしようとしてるんだい?」
「はぁ?見て分からないのか、お前を担いで校門をよじ登ろうとしてるんだよ」
「いや、そうなんだけど、なんていうか思っていた展開と違うっていうか」
「悪いが担ぐのは我慢をしてくれよ。僕はお前を背負ってやるほど元気じゃないんだよ」
「むぅ」
永久のやつが納得いかなそうな顔をしているが、無視して校門をよじ登った。
そのあとの話なんだが、校門をよじ登った後の永久の態度はなんか変で一切会話がなかった。おしゃべりなあいつにしては珍しいのだが僕としては静かでこっちの方が心地いい。
永久が先導しているので僕は彼女から一歩遅れて歩いている。
不意に永久のやつが立ち止った。ということは家についたということだ。
横の家を見てみる意外とでかい。どうやら父親のおかげなのか知らないが家は金持ちそうだ。そんなことを思っていると、永久のやつが居心地悪そうに口を開いた。
「その、何というか、今日は済まなかった」
いきなりの謝罪である。これには僕もびっくりだ。
「どうしたんだよ、お前らしくもない」
「なんか振り回した感じがしてな・・・」
・・・なんだ、そのしょぼくれた顔はらしくない。普段バカみたいに元気な顔しているからこんな落ち込んだ顔は似合わない気がしてならない。っていうかムカつく。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ほんとに、本当に仕方がないことだが、僕から折れてみることにする。
「ケータイ貸せ」
「へ」
「いいから」
僕のいきなりの行動にぽかんとしてやがる。仕方がないから勝手にとって勝手に登録した。
「ん」
「へ、ああ」
「帰る」
「え、ちょっと」
永久のやつがなんか言ってるが知らん。どこからか来る気恥ずかしさに耐えきれず逃げるように歩く。まぁ、なんてことはない、なんてこ「あーーーーーーーーーーーーー」・・・・とはない。
ちっ、もう気づきやがった。
後ろで永久が「ありがとー」っていってる気がするが知らん。
なんてことはない。そう、なんてことはない。強いて言うなら僕のケータイのメールアドレスが一つ増えただけである。
そんなこと言う僕を笑うように満月が夜空を照らすのであった。
連載物の続き書かなきゃなぁ、息抜き程度の短編でした。