トランプの国
遠い昔のお話です。
トランプの国という綺麗で美しい小さな国がありました。
しかしこのトランプの国は4つの街で対立していました。
ハートの街。ダイヤの街。スペードの街。クローバーの街です。
そんな4つの街とは違い平和で平凡なジョーカーの街がありました。
そんな対立の絶えない国に目をつけたクイーンの魔女がトランプの国を乗っ取ろうと嘘の情報を4つの街に流しました。
それは一番早くジョーカーの街を占拠した所がこの国の王子と結婚出来ると言ったのです。
すると躍起になった町娘達がジョーカーの街を潰す決意を表したのです。
「この国で一番美しい私こそが王子様と結婚するのがふさわしいに決まってますわ」
ハートの街ではハート姫が余裕綽々に鏡を前にドレスを選んでいました。
一方ダイヤの街は一番栄えた豪華な令嬢ダイヤ姫がたくさんのお金を用意していました。
「金で買えぬモノはないのよ。たとえ街でもね。さぁ、集めるだけお金を集めなさい」
高飛車な笑い声を上げ左うちわ状態で勝った気でいました。
一方クローバーの街は綿密な計画が立てられていました。
「いいですかみなさん。街一番を取るには他の街達の動向を注意しなくてはなりません。気を引き締めて取りかかりなさい」
メガネを軽く押し上げ指揮をとるのはまだ若くて美しいクローバーの参謀でした。
一方スペードの街では静かに動き始めていた。
「いいか、野郎ども。一番を取るには何事も先手必勝だ。行くぞ」
自ら戦時に立ち、威風堂々と街の民を取り仕切るのは気高く気品あるふれるスペードの軍曹だった。
そんな騒動になってるとは思いもしないジョーカーの街は平穏そのものでした。
「ん~。今日もいい天気」
のんびりと洗濯物を干していたのはジョーカーの街に住むただ一人の女性でした。
するとそこに突然スペードの民が武装を構え乗り込んできたのです。
「貴様がジョーカーの街にすむ民か!」
「えっ?はい。そうですけど」
のんきに返答をする女性にスペードの軍曹が立ち向かった。
「一つお尋ねしたい。この街にいるのは貴女だけなのでしょうか?」
「あっ、はい。そうですが?」
不思議そうに首をかしげて応える女性の姿にスペードの軍曹は武装をおろした。
「軍曹!突然どうされたのですか?」
「貴様等、恥を知れ。この街に住むのはこんないたいけな女性一人だけだと言うのに我々はどうだ?」
スペードの軍曹にそう諭され我に返る民達。
「騒がせたな。私たちはこれで失礼する」
「あっ、はい。何もおかまいできませんで。またいらっしてください」
純粋な女性の笑顔にスペードの軍曹は心が洗われる思いだった。
自分たちはなんて醜い感情で争っていたのだろうと自分を恥じるのだった。
数日後。綿密な計画を企てたクローバーの参謀はジョーカーの街に忍び込んでいた。
「いいですか。誰がいるかわかりません。十分に用心して下さい」
森の中に隠れているとそこにジョーカーの娘が姿を現したのです。
「うーん。今日はこれぐらいかな?」
かごいっぱいにキノコや果物が摘まれていた。
「参謀。あの娘をしとめればいいんでしょうか?」
「ま、待ちなさい。早まっては駄目です。今から私が彼女と交渉して来ます。ここで待ってなさい」
そういうと森の中から飛び出していった。
「きゃっ!」
突然出てきた参謀の姿に驚いたジョーカーの娘は尻餅をついてしまった。
「あっ。ご、ごめんなさい」
慌てて辺りに散らばったキノコと果物を拾うクローバーの参謀。
「ありがとう。お優しいんですね」
「や、優しいなんて。当然のことをしたまでです」
照れを隠すように軽く咳払いをしてメガネをあげた。
「当然のことですか?素晴らしいですね」
褒められる事に慣れていないのかますます顔を赤くした。
「素晴らしい!この私が素晴らしいなんて・・・・」
今の今までこの街を乗っ取ろうとしていた自分を褒め称えられた参謀は戦意を喪失させた。
「そうだ。折角ですから一緒にご飯でもどうですか?」
「け、結構です。今日のところは帰りますので機会がありましたらその時に」
自分でも何を言っているのか訳がわからなくなりならがらクローバーの参謀は立ち去っていった。
それから一週間後。豪華な衣装と宝石に身を包んだダイヤの姫がジョーカーの街に馬車で訪れました。
「ごめんあそばせ」
「はい。どなたですか?」
小さな家から出てきたのはダイヤ姫の想像どおり貧祖な格好をした娘の姿でした。
「貴女がこの街の者か」
「はい。そうですけど?」
「そうか。ではじいやこの者にアレを」
「かしこまりました」
ダイヤ姫に言われるまま馬車から高そうな宝石箱をとりだすと、娘の前に持ってきた。
「どうぞ、お気に召した物をお取り下さい」
色とりどりの宝石が敷き詰められた宝石箱だった。
「えっと・・・。い、いりません」
「何故だ!なんなら全て選んでもよいのだぞ?」
「いえ。結構です」
「わかった。宝石が好まぬならドレスでもよいぞ」
「あの、そうではなくて・・・・・・」
「ではいったい何が欲しいのじゃ!」
「何もいらないです。それよりも私とお友達になっていただけませんか?」
「な、なんと・・・・・」
この言葉にはダイヤ姫も予想していなかった事態だった。
お金でも服でもましてや宝石でもなく友達が欲しいと言う彼女が信じられなかったのだ。
「駄目でしょうか?」
「そこまで言うのならなってやらないこともないぞよ」
「本当?嬉しい」
結局ダイヤ姫もジョーカーの街を占拠することは出来ませんでした。
ただ一つ残されたハートの街のハート姫がようやく重い腰をあげジョーカーの街に訪れました。
そこでは3つの街をとりしきる女性達の姿があったのです。
「お主達何をしているのですか?」
「これはこれはハート姫。今日もずいぶんめかしこんでいますのね」
どことなくとげのある物言いをするのはダイヤ姫でした。
「アラ。貴女こそ洋服と宝石で着飾ってるだけではありませんか」
「なんですって!」
「まぁ、二人とも落ち着きたまえ。みっともない」
「みっともないとは無礼な。今すぐ取り消しなさいスペード妃」
かんにさわったハート姫がスペード軍曹に扇子を突きつけた。
「全く。騒がしい人たちです。少しは静かにできないのでしょうか」
静かに毒舌を呟いたクローバー参謀の小言をスペード軍曹は聞き逃さなかった。
「クローバー氏。それは聞き捨てならないな」
にらみ合う二人に気づかないままジョーカーの娘がお茶を持って現れた。
「すみません。お待たせしました」
お盆をもったまま見かけないハート姫の姿にジョーカーの娘は会釈をした。
「はじめまして」
「どうも」
「よければ一緒にどうですか?」
お茶を勧められたハート姫は冗談ではないと首を振った。
「この3人とお茶なんて出来るわけないじゃない」
「えっ?どうしてですか?」
「どうしてって。対立してる街の人間と何故一緒にお茶なんて出来るわけないでしょ!」
「・・・そうなんですか?」
娘がそう問いかけると3人はお互いに目をそらした。
「まぁ、確かに。この私がクローバーの参謀とお茶と言うのは考えられないな」
「それはこちらも同じだ」
「私だって貴女方みたいに野蛮な人とお茶なんてしたいと思いませんわ」
一瞬にして対立をあらわにする3人の姿にジョーカーの娘は酷く落ち込んだ。
「そうだったんですね。無理を言ったみたいですみません」
涙ぐむ娘の姿にスペードの軍曹はとまどった。
「無理なんてとんでもない。私は好きでいるのだ」
「わ、私だって友達なんですから当然ですわ」
「私もだ」
3人よってたかって彼女を慰める姿にハート姫は気分が悪くなった。
「私は帰らせていただくわ」
いったんハート姫は街に戻ると夜を待つのでした。
その夜。ハート姫は一人でジョーカーの街へ行きました。
夜な夜な眠るジョーカーの娘に近づくとナイフを取り出しました。
「これで私がこの国の王子と結婚できますわ」
息を殺し震える手でナイフを振り下ろそうとするとナイフが手からこぼれ落ちてしまった。
カランっと金属の高い音にジョーカーの娘が目を覚ましました。
「ん?何の音?」
咄嗟にハート姫はベッドの下に身を隠しました。
明かりを付けられハート姫は窮地に陥りました。
「・・・ハート姫さん?」
名前を呼ばれびくりと体をこわばらせるとおそるおそるハート姫は振り返った。
「どうされたんですか?こんな時間に」
「いえ、その。お、落とし物を捜しに・・・・・」
「落とし物ですか?」
「えぇ。大切な物を落としたのに気づいてここではないかと思いまして・・・」
苦しい良いわけだと自分自身がわかっていた。
しかしジョーカーの娘は疑うことなくほほえんだ。
「そうでしたか。では一緒に探しますよ」
どこまでも純粋なその心にハート姫は涙を浮かべました。
命まで取ろうとしていた自分が醜く感じてしかたがありませんでした。
「ごめんなさい。ごめんなさい」
ハート姫は何度も何度も謝りました。
そんなハート姫をジョーカーの娘は優しく慰めるのでした。
この結果に魔女のクイーンは大誤算でした。
「なんてこと。折角のチャンスが・・・。あの娘達、ただではすまさん」
ついにクイーン自身がトランプの国に訪れると、魔法で街を氷りづけにしてしまいました。
特に気にくわなかったジョーカーの娘に容赦はしませんでした。
「貴様は私の下部になるがいい」
黒い楔を心臓に突き刺すとジョーカーの娘はあっけなく意識を失った。
その事態を聞きつけた国のジャック王子が魔女を倒すべく街へと降り立ちました。
そこはまさに氷りづけの別世界になっていました。
街並みも人々もみんな氷りの中に閉じこめられていたのです。
「これは酷い」
すぐさま魔女の討伐に向かったジャック王子は動く人の影をみつけました。
「大丈夫ですか?」
すぐさまその人影にかけよったジャック王子は美しい女性の姿に心奪われた。それが魔女だと知らずに・・・。
「はい。なんとか」
「それはよかった。他に誰か見かけましたか?」
「いいえ。誰も。みな氷りづけにされてしまっているみたいで」
「くそっ。これも全部あの魔女のせいか・・・・」
「魔女ですか?」
「えぇ。この国を乗っ取ろうと魔女が仕掛けてきたのです」
「それで・・・。あの私魔女の住み家に心あたりがあるのですが・・・」
「本当ですか!それはどこです?」
「あの一つだけ違う森だと思うのですが・・・」
魔女の指さした先はまさにジョーカーの街でした。
そこだけ氷りづけになっていないことにジャック王子も疑う余地はありませんでした。
「なるほど。確かに怪しいですね。行ってみます」
「どうか。必ず退治してください」
「お任せください」
にこやかに敬意を払うとジャック王子はジョーカーの街を目指した。
ジョーカーの街にはいるとそこには黒いドレスに身を包み、魔女のような格好をさせられたジョーカーの娘がいた。
「貴様が魔女だな!」
剣を勢いよく振りかざすと魔女に扮したジョーカーの娘に立ち向かった。
「私が?」
ぎこちない動作と様子にジャック王子は剣を構えたまま彼女に近づいた。
「私が魔女?私が・・・・魔女」
よく見るとその目には涙が浮かんでいた。どこか助けを求めるようなその眼差しにジャック王子は剣をおろした。
「君は魔女じゃないのか?」
「違う。私が魔女。違う。私が魔女・・・」
「どうも様子が変だな」
ジャック王子がそう油断していると突然ナイフを突き立てられた。
「私、私・・・。いやぁああああああああああああ」
震えた手から血のついたナイフが落ちた。
そしてそのまま娘は失神してしまった。
「おい、君。しっかり」
ナイフで刺されたジャック王子にたいした損傷はなかった。
おそらく魔女の魔力より娘の意志が勝り致命傷にはいたらなかったのだろう。
「・・・どうなっているんだ」
「チィ。どいつもこいつも役立たずが」
陰で様子を見ていた魔女のクイーンがとうとう正体を現した。
「君はさっきの!よくもだましたな」
「だまされるのが悪いのじゃ!貴様も氷りづけになるがいい」
「駄目!」
ジャック王子を庇うようにジョーカーの娘が覆い被さった。
「どこまでも邪魔をしよって!やはり貴様は死ぬがいい」
「やめろぉ!」
だが当然ジャック王子の制止を聞くはずもなく魔女は娘を氷りの刃で貫いた。
「ハハハ。私に楯突いた罰だ」
高笑いをする魔女の隙をつきジャック王子は剣を振り下ろした。
「しまっ・・・・・た」
「貴様は絶対に許さない」
「ぎゃぁあああああああああ」
魔女は無惨な声をあげ消え去った。
すると氷り付けにされた街が元通りに戻っていった。
しかし、魔女に貫かれたジョーカーの娘には氷の刃が残ったままだった。
「そんな。嘘だ。死ぬな」
何度も彼女を揺するが微動だにしなかった。
「礼もしてないのだぞ?名も知らぬままだというのに・・・・」
ジャック王子は嘆くように氷りのように冷たい彼女の体を抱きしめた。
そして静かにキスを落とした。
「んっ・・・・・」
わずかに唇を動かしまぶたを開ける彼女にジャック王子は硬直した。
「よかった。助かったのですね?」
その言葉にジャック王子は再び唇を重ねた。
「名はなんとおっしゃるのですか?」
「私はジョーカーと申します」
「ジョーカー。素敵な名だ。どうか私と結婚してください」
ジャック王子の突然の告白にジョーカーは顔を真っ赤に染めた。
「は、はい。私でよければよろこんで」
こうしてトランプの国では盛大な結婚式が催されみんなに祝福され、二人は幸せに暮らすのだった。




