一体さん
今回は珍しくコメディーを書きました。原作は一休さんですが、残念ながら一休さんはこの話には登場しません。どうやら一体さんに殺されてしまったようですね。
むかしむかし、あるところに、一体さんというわけのわからない名前の子供がおりました。一体さんは(何故か)利口で、とんちによって有名になりました。しかし、実は「とんち」よりも「音痴」で有名という実に面妖な性質を持っていたので、世間の評判は悪かったといわれています。
六歳になると、えらい(悪い)人になるために、お母さんに連行されて、安國寺という施設にやってきてしまいました。
一体さんは、一分で四人の悪ガキたちと仲良くなるという奇妙な技を使用し、あっという間にどす黒い心を作りました。
ある日、一体さんは、
「蝋燭の火を消せ」
と、和尚様に言われて、仏壇に灯る火に、ブウォウォーと息を吹きかけて消しました(仏壇を)。
すると、後ろから見ていた和尚様が、泣きながら言いました。
「仏壇は吹き消してはならぬ!」
「どうしてでございますか?」
「この仏壇高かったんだよコノヤロー!」
翌朝、みんながお経をよみ始めると、一体さんだけ後ろ向きに座して、お経をよんでいました。
「これ!一体!仏様に背を向けるとは、ヴァチアタリなヤツじゃ!!!」
「へい。和尚様に仏壇を壊してはいけないと教えられましたので,後ろを向いております」
「うるさい!このバカモノ!」
ある晩、和尚様の部屋からたいへんたいへんすごく美味しそうなにほひがしてきました。
悪ガキが覗いてみると、和尚様が水飴をなめています。
「和尚様、あっしたちにも甘い水飴、なめさせてくだせえ」
「とんでもない!これは水飴ではない。大人が飲むと秘薬じゃが、子供が飲むと死んでしまう猛毒じゃ。グヘへへへ」
翌朝、和尚様は博打をしに出かけました。悪ガキたちが和尚様に言いつけられて掃除をしていると、
ガチャ、ガチャン
和尚様が大事にしている皿が、飾り棚ごと落ちて、木っ端微塵になってしまいました。
「な~に~、やっちまったなぁ!」
皿を割ってしまった悪ガキたちは、半狂乱状態になって、部屋のものをことごとく破壊し尽くしました。
「泣くのはおよしよ。それより、甘くて美味しい水飴をなめなさい」
「一体さんは他人事だと思ってのんきなことを言っている。ウエーン」
「うるせえ!オメーラは黙って俺に任せりゃあいいんだよ!」
といって、一体さんは、悪ガキたちに水飴を分けてあげました。
「うわあい!おいしグフッ」
悪ガキたちは一体さんの陰謀によって、毒殺されてしまいました。
しばらくして、和尚様が帰ってきました。すると、一体さんが、木っ端微塵になった部屋の前でラララーと歌っています。
「一体、どうして歌っているのじゃ?」
「へい、和尚様の大事な部屋を破壊した悪ガキたちが、死んでお詫びしようと毒を飲んで死にました。ざまーみろ。ラララー」
「一体の音痴にやられた。もうダメじゃ」
和尚様は瀕死状態になってしまいました。
一体さんのとんちと音痴の噂を聞いた、大大大富豪のチクサイさんが、和尚様と一体さんを招待しました。
チクサイさんの屋敷の前には、川が流れていて、橋が架かっていました。二人が渡ろうとすると、立て札に、『この橋渡るべからず』と書いてあります。和尚様は立ち尽くしましたが、一体さんは、さっと渡ってしまいました。仕方なく、和尚様も渡りました。しかし、一体さんが橋を渡り終えると、橋が崩れ、和尚様は川に落ちてしまいました。
「ギャー!」
和尚様は泳げなかったので、溺れて死んでしまいました。
一体さんは屋敷に辿り着きました。出迎えたチクサイさんが、
「一体さん、橋を渡ってはいけないという立て札を読まなかったのですか?」
「へい、読みましたぜ。だから、三次元を抜け出して、四次元空間を渡ってきたんです」
「な、なんと!」
チクサイさんは、驚きのあまり、腰を抜かしてしまい、その弾みで川に落ち、溺れて死んでしまいました。
一体さんのとんちの(悪い)評判は、都にいる将軍の耳にも届きました。
将軍は、一体さんを御殿に招き、屏風に描かれた虎の絵を見せて言いました。
「一体や、この屏風の虎は、夜になると抜け出して暴れまわるので、困っておるのDA☆だから、今のうちにお前に縛って欲しいのJA☆」
それを聞いて、一体さんはケタケタと笑い出しました。
「なにがおかしいのJA!全く、末恐ろしいヤツJA☆皆のもの、こいつを投獄するんDA!」
一体さんは獄に入れられてしまい、殺人の容疑で棒打ち百回の刑に処せられ、なんと十回であっけなく死んでしまいました。残念。
おしまい。