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Re:HeartBreaking Romance...  作者: スイーツ男子
everything with you
6/10

祓魔師と書いてエクソシストと読む

*


「アルカード・T・フューレンハイツと申します。ロンドンのハイスクールに通っていましたが、都合があって日本に来ました。仲良くしていただければ嬉しいです」


教壇の上のそいつがそんな口上を捲し立てて、ニコリと微笑んで数秒。

クラスは静寂に包まれる。


そして次の瞬間、地鳴りのような歓声(全て女子)が教室中に響いた。


「きゃあああ!カッコイイ!」「いや可愛い系も入ってるって!」「なにあの美少年ホントに人間?」「このクラスで良かった!」「正確なプロフィールの開示を求めるです!次の一面はこれで決まりですよーっ!!」



…………。


私は、というと。

目の前で繰り広げられる騒ぎを呆然と眺めていた。


そして私は思う。

コイツは『転校生』じゃなくて『留学生』って呼ぶんじゃないかって。


髪の色、顔の彫り、何処からどう見ても、もろ外人だし。


確かに美形なのは分かるけど。

ロシア系、というか東欧風な青年…か少年か。判断に困る顔。それにキラっ☆、とした粉が常時舞ってそうなオーラすらある。

……私があだ名をつけるなら絶対『王子』ってつけるねアレは。


チラッともう一度教壇を見ると、ニコニコニコニコ。初音先生に色々と説明を受けている間にもそんな風に笑っている。


「…わからないことがあったら、このクラスの委員長である日向さんに聞いてね。なんでも答えてくれると思うから」


「はい、わかりました」


どうやら私の説明もされたようで、こっちに注目してきたから、一応当たり障りなく会釈をしておく。


すると、“二コリ”

またあの王子(キラー)スマイルが。


キャー、とまるで某事務所のアイドルに向けられるような黄色い声があがる。


――かくいう私も笑顔を向けられた瞬間は不覚にもドキリとしたけれどね。

それは秘密ということで。


歓声、いや嬌声か。を、聞きながら冷静に観察すると、あ、やっぱり男子からの目線はやっぱり冷たい。

……早速打ち解けるのに障害を見た気がする。


喧噪を全く気にせず説明を続ける初音先生は、どうやらあらかた伝えることは伝えたようだ。

「じゃあアルカードくんはあの席に座ってね」との声が聞こえた。


顔をあげると、彼は私の隣の席に向かってきて、そして……通りすぎた。


そのまま彼は、私の2つ後ろの、最終列の空いていたところに座った。


(……まぁ、そこまで都合のいいことは起きないよね普通)


第一、私の隣の席にはちゃんと人がいるし。

苦笑いをしかけて視線を外すと、その“隣の彼”と目が合った。




そのままジッと見つめられるし。


「鈴鹿くん、私の顔になにかついてるの?」


「ん、ああ。お前でも“転校生”に興味持ったりするんだなって意外に思ったんだよ」


「なにそれ。私がミーハーだってこと?」


「別にそういうことじゃねえよ。ただ、男に興味無さそうな感じだと思ってただけだ」


「……」


私はそんな風に見られてたのか。ちょっとショック。


を、受けた気にもなったけど、よくよく考えればそう思われても仕方ないのかも知れない。


なんたって私は端からみたら(自分で言うのもアレだけど)『ガリ勉黒メガネ委員長』だしなぁ……。実際に成績もいいけど。


初音先生は連絡事項が特に無いことを説明すると、いつもの通りフワフワ、幸せそうな様子で教室を出ていった。

その瞬間、(たが)が外れたようにクラスがまた一斉にざわつき出す。


私は授業の準備をしようとする鈴鹿くんに向かってこう言った。


「私だって女の子なんですけど」


軽く笑って冗談めかした、傷ついたフリ。

同じノリの軽口が帰ってくると思った言葉だった。


けれど、


「……知ってるよ」


答えは予想とは違って普通だった。鈴鹿くん真顔だし。

いぶかしんで彼を見ると、ふいっとそっぽ向いてこっちを見ない。



(ただの軽口なのに、なんで急に本気になってるの?)


その意味を聞こうとしたら、丁度先生が教室に入ってきた。


私は授業の準備なんて全く済んでなかったから慌てて鞄を漁る。


そんなこんなで授業も始まって、結局その意味は聞けずじまいだった。


なぜなら。


今日というその日が、そんなことを忘れるくらいの大騒ぎだったからだ。



「何で日本に来たの?」

「父の事業の関係で」

「日本語上手だね!」

「ありがとうございます」

「イギリスから来たってことは英語もペラペラなんでしょ!」

「僕は純粋なイギリス人というわけではないんですが、日常会話程度だったら英語も話せますよ」

「好きな食べ物は?」

「日本食も好きですよ。生魚も食べられますし」

「詳細な個人情報はこの紙に書き込んで貰えますか!?」


…………。


昼休み。

朝と変わらない光景が広がっていた。


授業の合間にも人だかりは出来ていたけど、今はそれまでとは比べ物にならないくらいの盛況ぶりだ。

昼の休憩は長いからどうやら他のクラスからも人が来ているらしい。


流石の日本人の野次馬根性。

好奇と奇異の視線にあれだけ晒されて、彼は何を思っているのだろう?それは何となく興味はあるけど、それ以上何かを思うことは無かった。



……それより気になるのは、私の“友達”のことだろうか。


“野次馬”をさらに二段階くらいクラスチェンジさせた“パパラッチ”の急先鋒である藤堂ちゃんは今も取材の真っ最中だ。


いつもお昼は藤堂ちゃんと食べているのだけど、彼女は今“仕事中”だから私はポツンと一人寂しい状態である。


隣の席の鈴鹿くんはいつも部活の友達と食べているからいないし。

他の友達っていったらみんな女の子だから、あの集団の中だ。

他のクラスにも友達がいない訳じゃないけど、わざわざお昼を抱えて動くのも面倒だし。




……強がってはいない、と思う。

たぶん。おそらく。


黙々と箸は進んだ。


「ご馳走さまでした」


学校に来るときに買っておいた菓子パンを食べ終わり一息をつく。


チラリと後ろを見ると人垣はまだあって、黄色い声も続いている。



よっぽどの人気らしい。


一応、朝に初音先生には頼まれたけど、私の出る幕は無い気がした。


大変そうなのは男子との打ち解けだけど、それが一番私は役に立たないし。


それに彼の“女子人気”狙いで男子のグループに加われる可能性だってあるもんなぁ。



――何が『出逢い』だよバカヤロー。程度はどうあれ期待しちゃったじゃんか。


そんな恨み節を言える相手は先輩しかいないけど、先輩を目の前にしたらそんなこと口が裂けても言えないのが辛いところだ。


……まぁ、もともと占いなんて信じる方が馬鹿だったんだ。そんなわかりきったことを最近は何度も思い出して落ち込んでいるのだから、これほど馬鹿馬鹿しいことは無いだろう。


パンと一緒に買ったジュースの紙パックをクシャクシャとたたむ。そしてそれを捨てるために立ち上がった。


(一番近いゴミ箱は教室の後ろ、黒板から見て真逆の方向の出入り口の脇にある、けれど)


いかんせん人が多い。


(遠かろうが前に捨てにいくのが一番の近道か)


私はパタパタと歩いてその集団の前を横切ろうとした。


その時。


サッ、と目の端に映る人垣が割れた、かと思うと目の前には、



「ゴミ、捨てましょうか?」


“彼”がいた。


「ほ、ぅぇ?」


……人間、全く予想外のことが起こると想像もしない声が出る。


この時がまさにそれで。


私の目は驚きで見開かれたまま、硬直してしまった。


………。



「あの、このクラスの委員長さんでしたよね?」


呼ばれてハッとした。

い、意識飛ばしてる場合じゃない!


目の前には王子(私が勝手に命名)が不思議そうな顔をして立っているっていうのに!


「あ……いや、突然だったのでちょっとびっくりしたというか」


「あ、そうですよね。話しかけるには唐突でしたね」


………。


謎の間、


「あっ……」「その」


があって。


………。


また変な間、サイレントタイム。

向こうはニコーっとしたままこっちを見つめている。


――なんだコレ。


初デートでなにしゃべっていいかわからないカップルみたいな雰囲気なんだけど。


……ん?カップル?


な、なに考えてんだ私!?自意識過剰過ぎだろそんなの!

が、一旦意識するとカーっと顔に血が昇るのは避けられないことで。


「じゃ、じゃあお願いするねゴミ!」


「はい、喜んで」


かさっ、と手渡し。

そして彼はサッサッとゴミを捨てにいった。いやいってくれた、か。


しかも平然と、顔色ひとつ変えることなく。


変なこと考えた私が本当に馬鹿だった。あれは完全にただの“親切”だったのに。


「きゃあっ!アルカード君って優しいだね」「英国紳士ってやつ?」「イイ、さらにイイ!」


それか人気取り?

判断はつかない。けれども、


(やっぱり近くで見るとさらに美形だなアレは)


人体の神秘的なモノを見た気がする。






「人体の神秘、か……」


あながち間違いではなかった。

あれから三日ほど時は経ち。


彼、“アルカード”くんはまさに神秘、じゃなくて超人?

それくらい彼はとんでもないスペックを発揮なされたのでした。


体育。

ぶっちぎりでした。ダンクって初めて見たし。


そして数学。

全く海外との差を感じさせない完璧な適応力。

聞いた話によるともう日本の高校レベルの勉強は終わっているのだとか。


英語は言わずもがな。


国語には流石に苦戦していた。やはりまだ文章には慣れないのだとか。

それでもバリバリ喋れてるから問題はないだろってつっこみたかった。


音楽。

ピアノ、ギター、バイオリンなんでもござれ。授業そっちのけで演奏会が始まる始末だし。先生も止めるどころかしきりに音楽部に勧誘していた。



「……完璧超人め」


ここ数日の出来事を思い出して、何となくそう呟いていた。


「へぇ、君も人を羨んだりするのかい」


カシャン、とティーカップを置きながら先輩がそんなことを言った。


「いや、羨むというかそんな次元じゃないっていうか、才能の差を見せつけられている気分になったというか」


「それを“羨み”というんじゃないないのかい?」


「……はい、そうです」



バッサリだった。

……何となく小さくなる私。

そんな私を見て先輩は軽く微笑んで。


「ふふ。そこで“憧れ”にならないところがキミの君たる所以(ゆえん)なのかな」


「はい?」


「恋愛には向かないってことさ」


「む……」


「少しくらい弱さを見せるくらいがちょうどいいんだよ。キミには、ね」


「弱いところばっかりですけど私だって」


「それが見えなかったら駄目なのさ。ヒトは見えるものしか信じられないからね」


「……」


そうなの、かな。

思うところはある。


「あ。今のちょっと“魔女”っぽかった気がするなぁ。くふふっ」


「いろいろと台無しですよ」


「そういう抜けたところがチャーミングってやつだろう?」


笑いながら私を見る先輩。

どこまで本気なのかわからなくて掴みきれないのが“先輩の先輩たる所以”なんでしょうね、と言い返した。


あくまで脳内で。



「チャーミングって。最近はめっきり聞かない言葉ですよそれ」


軽く茶化して私もカップの中身を飲み干した。


「へぇ、そうか。じゃあそのついでに聞くけどそのペンダントを何処で手にいれた?」


いつの間にかずいっと先輩が近づいてきていた。

その手が、私の首よりしたの“とある部分”に突っ込まれ…って。


「う、ひゃあああ!?」


「お、結構あるじゃないか。Cか、もしくは」

「ば、バカじゃないですか!何なんですかいきなり!」


ガードしつつ後ずさる。何処をガードしているかは秘密で。だからCとか忘れようみんな。頼むから。


「だからペンダントさ。それについて聞きたかっただけだから」


「はい?これですか?これもまた例に漏れず叔父から送られてきたものですけど」


「……ふむ、そうか。ならいい」


そう言って先輩はぐいっと紅茶を飲み干した。カシャン、とカラになったカップがソーサーに置かれる。


「今回はそういうことなんだろうな」


「はい?」


よくわからない呟きがあったから聞き返した。が、しかし。


「ほら、そろそろ行かないと。こんなところで油売ってる暇は無いんだろう?」


「っっっ!先輩が部室(ここ)に呼んだくせにいけしゃあしゃあとよくもそんなことが……!」


「ふふふ。優雅なティーブレイクになったよ。いつもありがとう」


わかってて言うんだよねこの人。そういう態度をそこまで不遜にとられると逆に馬鹿らしくなるというか、憤りを通り越してしまうというか。


……もろにストレスを溜め込む感覚ってきっとこういうことなんだろうと思う。


そんなこんな色々思うことはあったけど、それ以上余計なことは言わずさっさと部室を出た。

それは先輩の言う通り、忙しいのは確かだったから。


あのまま部室に残ってもすることもない。


元から占いに殺到する人をさばくことと、紅茶を入れること以外にやることはないし。


…それでもあしげく通うのはやはり何と言っても先輩に勉強を教えて貰えるからで。


先輩の教えかたは下手な教師より分かりやすいから、部室に行ってはノートと教科書を広げるのは日課になっていた。


しかしまぁ、最近はそんな暇も無いのが現状だけど。


…全体の作業の進み具合としては20%ぐらいだろうか。


なまじ教室を改造する出し物だけに授業の関係上、飾りつけは本番(がくえんさい)直前にやるしかない。


だから準備を今のうちにどれだけ出来るかにかかっている。


の、だけれど。



「委員長ごめん!部活あるから!」

「別にまだ大丈夫なんじゃない?あたしちょっと用事あるからさー」


エトセトラetc...


どいつもこいつも勝手な理由でいなくなりやがるし。

その流れに乗って大半の人間が帰ってしまった。


私だって手伝ってほしいけど無理強いは出来ない。


だって藤堂ちゃんにしても「学祭特別号です!」とか言って忙しそうにしてるし、それぞれが忙しいのは分かっているから。


そして結局残るのはいつものメンバーだった。


あ、期待の転校生くんは結局誘われるままに音楽部に入ったらしい。

今日も女子部員に囲まれて運ばれていった。

なんだか申し訳なさそうな目線がこっちに向いていた気もしたけどそれは流石に私の自意識過剰だろう。


ちょっと残念に思ってる自分を振り払って、教室の扉を開いた。

が。

中を見回すと何故か一人しかいない。


「あれ?」


教室間違えた?


あからさまに挙動不審になっていると、その残ってた一人――鈴鹿くんがこっちを見た。


「委員長」


「え?あ、うん。なに?」


この前の朝以来あんまり喋れて無かったから少し返事が固くなった。

が、次の言葉でそんなことは忘れた。


「他の連中帰ったぞ」


「うん。……って、はぁ?」


な、なんで!?


「それはお前が遅いからだろ。何も指示されないで出ていかれたから今日は作業がないと思って皆帰った」


血の気がサーっと引くのが自分でも分かる。


「そ、そんな…。だってまだ段ボールしか用意出来てないんだよ!?それだってようやく着色が終わっただけなのに…。仕掛けとかお化けとかどうするか全然決まってないのに!」


頭がぐるぐるする。

こんなこと鈴鹿くんに怒鳴っても意味ないのに。何が何だか分からなくなっていた。



「だったら。もっと人の手を増やせばいいんじゃないか?」


鋭い声。


「それは…」


「みんな手伝わないのはお前が平気そうに見えるからだ。切羽詰っているように見えないからだ。

まだ大丈夫だと思われてんだよ。だから素直に作業を手伝うように言えばいいだろ?」


正論だ。人の手をが足りないなら借りればいい。実にシンプルなこと。


「全くもってその通りだよ」


そう答えるしかない。


「なら…」


「でも私は言えないよ。皆忙しそうだけど、無理に言えばきつく言えばそりゃ手伝ってくれると思うよ私も。だけど…」


「『だけど』なんだよ。……前に出るのが恥ずかしいとかなら俺が代わりに言ってやってもいいぞ?だから…」


的を射た意見、そして優しい言葉。

嗚呼、と理解する。彼は本当に、眩しいくらいに『強い人』なのだ。


「違う。そんなことじゃない」


……私とは『違う』ヒトなのだ。


「じゃあ何だよ。他に何か理由があるのか?」


そう食い下がる鈴鹿くん。


彼は正しい。

正論に反対する(おかしなヒト)をちゃんと理解しようと努力している。


「…………」


嗚呼、もうダメだ。


「ごめん。私帰る」


持ったままだった荷物を握りしめてそのまま教室に背を向ける。


「おい、日向!」


鈴鹿くんの声が後ろから聞こえた。だけど振り返らない。


……振りかえ、れない。




**


校舎のある一室、窓際にて。


「ようやく面白い展開が始まったみたいだねぇ」


その言葉に返事を返すヒトはいない。

正確には数分前まではいた、が。


その少女はついさっき校舎から飛び出していった。


今度はいったいどんな結末になるのやら。

こればかりは『視えない』からもどかしい。

……いや、“面白い”というべきか。


私に出来ることは限られている。そのうえで、この結末を変えられるというのなら。


「愛の力ってやつだよねぇ」


期待してるよ。






「私の可愛い後輩を救ってやってくれ」





魔女の願いは闇の中に。


切なげに震えて、消えた。

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