Epilogue of Prologue
この章は非常に短いです。が、ようやく役者がそろいます。
思わせぶりな展開ですが、こういうのってあんまり長く続くとだんだんイラつくタチなのでそんなに続きませんからご安心を。
††
「……ふう」
木漏れ日が落ち、光指す場所が点在する並木道。
ボクは一歩一歩を踏みしめながらも、道の途中で小さな一息をついた。
風がボクの横をすり抜けていくともう最盛期は過ぎた青葉が萎びた様子で揺れている。
『ボクみたいだ』、と思った。
萎びて、そして風に遊ばれてついには枯れて枝から落ちる。
随分体力は落ちていた。歩く度にそれを思う。日光に対する耐性も弱りつつあった。
それが“代償”であることは分かっていたけど。
いざそうなってくると、身体的というより心情的に辛い。
“心”が折れたら終わりだ。
何もかも、ボクの手に入れていたもの、欲しいもの、大切なもの、守りたいもの、その全てが溢れてしまう。
それは嫌だ。
……だからまだ枝から落ちる訳には行かなかった。
もう一度息を吐いて歩き始める。
運命を変えるために足りない要素を探して。
運命を変えることを阻害する原因を壊しに。
そして――――
チリン!
自転車の音でハッと我に帰った。
すぐ後ろに人が近づいてくる感覚がする。ほんの少しだけ顔を上げ、車道側を見た。
その時、ボクの目に飛び込んでくる視覚情報。
スローモーションのように風景は流れていく。
なびく髪。そして顔が視界に入った。
その瞬間に息が詰まる。
一瞬の逢瀬。
視線も合わない刹那。
それは“戻ってきた”ということを、より鮮烈にボクに思い出させる。
彼女は――振り返らず進んでいった。
その後ろ姿を見送って。
“カチリ”
ボクが気づかないうちに揺らいだ気持ちが一つに固まったのを感じた。
そうだ。守るんだ。
その為にボクは馬鹿高い代償を払って戻ってきたのだから。
ニヒルに笑おう。無理にでも。
そしてこう言うんだ。
“ボクを誰だと思ってる?”
**
暗幕には限りがある。
学園全体で申請を募って、平等に分配される暗幕だけでは教室全体は到底囲えない。
そこで必要なのが段ボール。
どういう風に壁をたてて仕切るのか検討をつけて、段ボールがどれだけ必要になるか考えたのが先週。
必要だと見積もっただけの段ボールが集まったのがつい先日。
切る作業が始まったのが一昨日。
さらに、黒く塗ったり、細かい仕掛けを作る作業が残っている。
あと1ヶ月。
完成させられるかは五分五分くらいな気がする。
――それに転校生、か。
また溜め息が出そうになって堪えた。
まさかいきなり今日来るとは。
出来ることなら文化祭の後に来てくれると少しは頭が回るんだけど…。
……いや、これも私の勝手な論理か。
思い直す。
もしかしたら文化祭があったほうが皆と早く打ち解けられるかも。
その彼の性格にもよるだろうけれど。
一度形成されたにコミュニティに新しい人間が入り込むということは非常に困難を伴う。
そしてそれは必ず『ストレス』というものを産み出す。
『文化祭』っていうきっかけで少しでもそれが軽くなるなら――
「吉とでるのか、凶とでるのか」
それは判らないけど。
取り敢えずその“彼”がどんな人なのか、勝手な想像を膨らませ始めた私だった。
――今の彼女はまだ知らない。
彼女の綻びと、その出逢いによって変わるミライを。
何度でも繰り返す彼の執念と苦しみと、その愛を。
今はまだ、知らない――
Epilogue of Prologue...
ようやく次回は転校生登場です。名前は……考えてありますよ。たぶん。