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3/10

あの日みた花の名を私も知らない

そういえば『あの花』、見よう見ようと思いつつも一度も見ないで放送が終わってしまった…。DVD、借りよう。


ぼー……。


「――で、あるからにして。この五柳先生というのは」


先輩の衝撃的な予言(しぼうせんこく)から数時間。

私は魂が抜けたような状態になっていた。



……走馬灯を見ていたような感じもするけど気のせいかな?


なんか5ヶ月前を幻視していたような。

酷い詐欺にあった記憶だったような。


……あの後から本当に私は雑用にこき使われまくった。

いや、確かに先輩のノートは凄かったけど。そのプラス分を完璧に消し去るくらい、それくらい先輩の要望はサディスティックだった。


「面白い話だが作者本人なんだ」


はぁ、と息を吐く。そして朝の会話を思い出す。

明日は出会いがあって。

その1ヶ月後には死ぬらしい。


どんな短命のヒロインだよ!?

ってツッコミたくなるけど、よくよく考えると占いに動揺させられている自分が馬鹿らしくなって来て。


ああでも、“あの”先輩のいうことだから……うわあああん!


「だからこの作者は自分で自伝を書いて――日向!」


「は、はいっ!?」


「そんなに俺の授業はつまらないか?」


「いえ、そういう訳ではないんですけど……。昨日遅かったもので」


「勉学に影響しないように自己管理するのも大切なんだがな。気を付けろよ?」


「……すいません」


古文の先生(たしか名前は菊地)に注意されて、素直に謝った。



だけど私はそのあとも話し半分。上の空な態度で授業時間は過ぎていった――




「珍しいですね。いいんちょさんが注意されるなんて!」


「うん……。ちょっと朝に色々あってね」


授業の合間。

10分ほどの空き時間に藤堂ちゃんと私は、私の席の側で立ち話を始めていた。

本当は次の授業の準備の時間だけど、固い事を言ってても仕方ないからこんな感じで毎時喋りあっている。

周りのクラスメート達も同じような感じだ。



「そうなんですか?何か思い悩むことでも?」


「いや、悩むっていうか……。うん、いろいろね」


ぼやかして言う。


「いろいろ…ですか。えと、何か話したくなったときにはすぐに言ってくださいですよ?」


「うん、わかってる。ありがと心配してくれて」


ポン、と彼女の頭に手を置いてなでた。

藤堂ちゃん(現在の呼び方)はすぐに振り払うけど、しばらくやっていると大人しくなって。


はぁ。これが本当に癒される時間なんだよね。


ふわふわー…みたいな。

プードルを可愛がってる気分。


それを言ったら藤堂ちゃんに絶対怒られるだろうけど。



そうして1分位たった頃。


「あ、そうです!いいちょさんは先生から何か詳細を聞いてます?」


「……え、なにそれ?」


「いいんちょさんが聞いてないんですか?じゃあやっぱりデマの可能性も捨てきれないですね」


むー、と悩みだす藤堂ちゃん。


「……いやだから、何があるの?」


私はそれが気になって仕方がないのだけど。


「本当に聞いてないんですか?結構噂になってますけど」


「うん、それはいいんだけどね!だから一体何があるの?」


だから引っ張んないでよ!!スゴく気になってるのは分かるでしょ?



と、思う。

……口には出さずに思う事が本当に多いこと。

脳内が忙しいなんて、普通に考えたらただの恥ずかしい人だから顔には絶対出さないように心がけている。


それでも読心する(せんぱい)が1人いるけど。

あれは心臓が止まりそうになるから真剣に止めてほしい。



……また思考が脇道にそれた。


ふいっ、と遠くに行きかけていた焦点を藤堂ちゃんに戻すと、ちょうど彼女は口を開きかけた瞬間だった。


笑顔のその口から紡がれた音は、




「転校生が来るんですよ!」



「え?」


私を硬直させた。






「…………え?」




拝啓。

お父さん、お母さん。

私はこの学校で一体何度『え?』って聞き返せば心休まる日が来るのでしょうか?


A.ああそれは……まぁ、とにかく頑張りなさい。そうすれば自然と道がだな……。


お父さん!ヤコは悩んでいるんですよ。そんな適当な返事でどうするんですか。ちゃんと答えてあげなきゃ!


お、おお…。そうだな。娘の一大事ならキチンと答えてやるべきだよな。俺が間違ってたよ。すまないヤコ。


そうですよ。そのうちいいことあるかもしれないから気にしてたらダメなのよー!

私なんかも元カレと別れて落ち込んでいた時に出会ったパッとしない男と勢いで結婚しちゃったんだし。

だから何事もなるようにしかならないと思った方が楽なのよん♪


え?お母さん?元カ…え?初耳というか、え、ええ?


頑張ってね♪



「先輩は知ってたんですか?転校生が来るってことを」


放課後。

開催まで1ヶ月を切った学園祭に向けて準備が立て込む合間をぬって部室(ここ)に来た私は、全く普段と変わった様子のない先輩と向かい合っていた。


今回は不意討ちじゃなくて自分から先輩に話しに来たから狼狽える事なく相対している。


……この時間に変わらずここに居るってことは、やっぱり先輩は学園祭のクラスの出し物とかに全く興味が無いのだろう。


先輩が手伝ってる姿なんて想像つかないし。

うちの部も何かはしたほうが良いのだろうけど。


まぁ、どうせ先輩が来年卒業したら休部か廃部になるのは決まってるわけだから無理にやる必要もないのか、と思い直す。



おおっと、また思考がそれた。


「それは無論だ。だから言っただろう?『出会いはある』って」


「……そういうことですか」


やっぱりインチキ?って思うような種明かしだった。

心の何処かで期待していた私が馬鹿だったと気づいて少し顔が赤くなる。


「それで。君はそんな事を聞きに来たのかい?今は一番忙しいんじゃないのか?」


また見透かされる。



……はぁ。

このセリフだけ聞くと心配してくれてるみたいに思えるけど、昨日だって急に呼び出されてお茶を淹れさせられたりしてるからね。

騙されちゃ駄目だから。



「そうです。……だけど気になったので」






「ふうん……。そうか」


ニヤニヤと先輩は笑った。


嗚呼、この全部分かってるみたいな顔をどうにかしたい。



「はぁ……。わかりましたもういいです。私もクラスの準備があるので戻りますね」


「待ちたまえよ」


出ていこうとする私の背に先輩の声がかかった。


「はい?」


と、振り返る。


「紅茶、飲みたいな」


カランと空のカップを掲げる先輩がそこには居て。

「……はぁ」、という私の嘆息は一体今年で何度目になるのだろう。



ザク、ザク、ザクザク。


段ボールを切る音が教室に響いている。


真夏ほどは強くないけど西日が窓から激しく射し込む閉鎖空間の中で、作業をしているのは4人ほどだった。


この段ボールは後日、黒く塗られて教室の壁に敷き詰められることになる。

所謂(いわゆる)お化け屋敷というモノになる予定というわけだ。




……この出し物に決まったのがまず先週という恐ろしい事実は考えないことが大事だけど。

学園祭まであと一か月を切りかけている今現在。



はぁ。なんか滅入りそうだからメンバー紹介でもしてみようかな。


まず委員長の私。趣味・特技は特にない。両親もいない。


副委員長の笹瀬(ささせ)くん=帰宅部さん。姉に苛められるのが好きな人。


会計の(はら)さん=吹奏楽部。肺活量がヤバい。あと大学生と付き合ってるらしい。


書記の……代理、鈴鹿(すずか)くん=サッカー部(部停止中)。代理を引き受けた理由は教えてくれないから諦めた。部停止は女子マネージャーがタバコを部室で吸ってたのがバレたからだとか。いろいろ不憫な二枚目さん。



そんなメンバーが無言で段ボールを切り刻んでいる。


最初はキャピキャピやってた気もするけど、数日に渡って同じメンバーで単純作業(段ボール収集から今の作業などetc...)をやっているとこうも会話が無くなるものなのか。


はぁ。これなら部室にもっと居ればよかった、なんて後悔はいまさらに。


「……ちょー。いいんちょー。おーい?おい!」


「へっ?」


「手、止まってるぞ?」


鈴鹿くんの冷静な声。


「………あ」


私の手の上のハサミは段ボールを挟んでいなかった。というかすでに切断したはずの段ボールも酷い断面だった。


「疲れてるんだったら早めに帰った方がいいんじゃないのか?」


「あー…。そうしたほうがいいかもね」


そろそろ帰らせて貰えると本当に嬉しい。

木曜日って疲れも溜まっててしかもまだ金曜日があるっていう絶望感に苛まれる最悪の日だと思うのだけど、どうだろう?


「じゃあ、お言葉に甘えさせてもらおうかな」


軽く笑って、みんなを見た。

三人の顔は明らかに疲労の色を見せていたけど、その場で異を唱えてくる人はいなかった。ていうかそんな奴いたら学校社会じゃやっていけないけど。

作業スペースを作るために教室前方にずらした机の上に乗っている通学カバンをつかんで廊下に出た。

行きがけに、


「あ、今日と明日までに下準備が終わらなかったら土曜日も学校に来てね」


という言葉を残して。


えー!?っていう声は耳をふさいでやり過ごして廊下を早足で進んだ。




――ふふ。

一週間ぶりくらいに早く帰れた。


朝に干しておいた洗濯物を明るいうちに取り込んで、たたんでクローゼットにしまう。

掃除機は……週末でいいか。

あと夕飯だけど。


パスタというものは楽だ。

最近は電子レンジでも茹でられるし。混ぜるだけでおいしくいただけるのも得点が高い。


――お母さんが見たら怒りそうだなって、なんとなく思って。





それでも涙はでないけど。そんな自分がたまらなく、嫌い。





ピンポーン。

はた、と箸が止まる。

七時を回ったこの時間にここを訪ねて来る人間に検討がつかなくて一瞬固まってしまったが、宅配便でーすという男性の声でようやく腰が上がった。


「あ、スイマセーン。ちょっと待ってください」


声を張ってから、印鑑を持って玄関へ。扉を開けると、荷物を持った宅配員が一人立っていた。


……。


事務的なやり取りの後、宅配のトラックが過ぎ去ったのちに私の手の上に載っていたのは小さな小包。

ひっくり返して差出人の欄を探す。


――あった。


“キミをいつも愛しているダンディな男より”


……。

アホによるアホな文字のアホな羅列。

そんなものを送りつけてくるアホに覚えがあった。というか叔父だった。


入学手続きのとき、書類の親権者の職業欄に『トレジャーハンター』って書いて送ってきて私が呼び出しを喰らったことは鮮明に記憶に残っている。(これがキッカケで担任との距離が縮まり委員長に指名されるという悲劇の一因にもなった)


『大学教授』って書けばなんら問題ないのに。

和製インディ・ジョーンズを気取るあのお馬鹿な39歳は今も海外で好きな事を続けている……らしい。


全部人づて(と電話越し)に聞いたことだし。

実際に会ったのもしばらく前の出来事。

(おかあさん)のお葬式にも結局来れなかったあの人に。


……四十九日には間に合ったんだっけ。そんな人だった。


その人が唐突に何かを送ってきた。ある種の事件だ。


今までにも段ボール箱が何個も送られてきた事があった。でもその時はちゃんと電話が入ったのだけれど。


『僕の発掘品と市場で仕入れたものを送るから受けとっておいてね~。あ、値段は適当につけて店に出してね。売り上げはお小遣いとしてあげるから頑張って売るんだよ~?お、もうこんな時間か。じゃあねアディオース!』


…………。


思い出すだけで頭痛がした。

極力、思考を軽量化して叔父のことは頭の隅から追い出しておこう。

そう、今はこの小包だ。



カッターで丁寧にグルグル巻きになったガムテープを切る。すると、中から出てきたのは。


「……紙ばっか」


梱包材をバサバサと取り出す。床に紙ごみが降り積もってるけど気にしない。それより中身が気になって。するといろいろやっているうちに中から何かが垂れ下がって出てきた。それにはメモらしき物体も張り付けてある。



それは――


「ネックレス?」


私の手からぶら下がった金属のチェーンは、カラカラと音を立てて揺れた。


「それに……なんだろうこのメモ」


そのチェーンの先。小さな石のような飾りがついている部分に貼ってあるメモ。


剥がしてみる。


『それは売り物じゃないから売らないように。災禍からキミを守り、幸運を約束するペンダントを16才になったキミに捧ぐ』


…………。


読んだ私の感想。


「あ、ネックレスじゃなくてペンダントか」


軽く認識を改めて、しげしげとそのプレゼントとやらを観察してみた。


確かに贈り物としては綺麗なペンダント。そこそこ重たいし、このチェーンってもしかして銀?

それにこの石。赤い…というより黒?言うなれば静脈血みたいな色。でも気味悪さは無くて。

何処か惹かれる美しさ、というヤツだった。


「センスは……いいのかな?」


あ、でも母さんの四十九日にあの“インディ的な”帽子に泥だらけの恰好のままで現れた上に、ダラっダラっに号泣したもんだから、お坊さんに凄い目で見られた事を思い出した。


悪い人ではないんだろうけど。


若干、頭がおかしいだけで、ね。


そんな風にほっこりと異国の空の下を思った。











……あ、そうだもう一つ言うことがあった。

叔父さん。私の誕生日は先月なんですけどね。細かいことは言わないでおきます。




*閑話α*


晴れた日の、午後だった。

それでも3月の風はまだ冷たい。着なれない黒いコートの裾をギュッと握って彼女は立ち竦んでいた。

――真新しい墓石の前で。


その容貌、仕草からして彼女の大切な人が失われたことは誰が見ても明らかであった。

話しかけ難い絶対的な雰囲気を放つ彼女。


そんな彼女に近づく影が一つ。



「夜子くん、だよね?」


「……はい」


涙でぐちゃぐちゃな男に名前を確かめられた彼女は、それに対して短く答えた。


「君が姉さんと義兄さんの葬儀とか、そういうことを全部やってくれたのかい?」


「…………」


首が小さく前後し、肯定の意を示した。


「有り難う。本当に」


男は、線香に火をつけて墓石にそなえた。そして美しい花束も。

合掌して、堪えきれずまた涙を流す男。それを彼女は無表情で眺めていた。


しばらく経って男が言う。


「交通事故、か。代われるものなら代わってやりたかった。娘を残して死ぬなんてどんなに無念だったか」


「…………」


「いや、こんな事を言っても意味が無いな。ごめんよ」


「…………」


男が自嘲しようと、彼女は微動だにせずにその場に在た。






そんな彼女に男は尋ねる。


「涙を、堪えているのかい?」


素朴な、男が単純に思った問い。そこで彼女は顔を男に向けた。

虚空をさ迷っていた彼女の瞳が、その時初めて男を捉える。


「そう、思いますか?」


「……うん。僕には君が無理をしているように見える」


「そう、ですか」


男はもどかしかった。肉親(じぶん)の前ですら気丈に振る舞う彼女が痛々しくて見ていられない。


そう思った。そう思えた。











……しかし、その考えは間違いであって。


「涙を堪えてるわけでは無いんです。涙が」


そこで彼女は一呼吸置いた。数秒。少し思案してからポツリと言った。


「出ないんです、涙が。それが(つら)くて、情けなくて、怖くて」


「………、」


男は虚を突かれて咄嗟に返す言葉が見つからなかった。

そんな男に、彼女は一瞥を与えて軽く『わらう』。



「おかしいですよね。両親が死んで悲しい筈なのに涙の一滴も出ないなんて。非情だと(なじ)ってくれても構いませんよ。あの2人が死んだって聞いたときに真っ先に思ったのは『これからどうやって生活したらいいんだろう?』って、そんなことが先に頭に浮かんで出てきたんですよ。『悲しい』っていうより生活の心配をする、いわば『怖い』って感情なんです。私が感じたのは」


さっきまでの無口も消え、取りつかれたように彼女は捲し立てる。



「やこ、く」


「そんなのって、気持ち悪いですよね。普通じゃないですよね。

……子供として失格なんですよ。親としての義務はしっかり果たしてくれて、愛情も注いでくれて。だから私にはこのお墓の前に立つ資格なんて――」








「夜子くん!」


瞬間、

ビクッと、

彼女の肩が大きく揺れた。







パチリ。


そんな音は実際するはずないんだけど、それくらいはっきりと目が開いた。


首を動かして、最近買ったデジタル時計を見ると6時ジャスト。秒まで一致という気持ち悪さだった。


「…………パン、焼かないと」


いつもと違ってすぐに起き上がれた今日。

朝食はダブルソ○ト……ではなくてイングリッシュマ○ィン(超熟)。

バターを塗ると非常に美味な一品となる。



「…………」


ガー、ガーと回るオーブンを見、そして顔を洗いに洗面所へ。

冷水を顔に浴びせてようやく頭が冴えてくる。



――朝は、出来るだけ早く学校に行って作業進めた方がいいかな。


私って夏休みの宿題は7月中に終わらせるタイプだし。それで8月は悠々と過ごすっていうのが私の信念だったり。


期限に追われるのはあまり好きじゃないから。





バターを塗りながら、そんな今日の予定を立てた。





「…………」


いつもより早く自転車で滑走する登下校の道。


大体、片道25分くらいかかる


ジャージ姿で走っている人の姿はたまに見かけたけど、制服を着て登校しているような生徒の姿は無かった。


(……逆に学校が開いてるかが心配かも)


いや、でも寄宿生も多いから大丈夫かな?自習とか部活をしてる生徒もいるだろうし。



そんな事を考えながら自転車を漕いでいると、ふと、私よりずっと前を行く制服の少年が目に止まった。


 

目の悪い私がこんなに距離が離れていても人に気づくなんてかなり珍しい事だ。


でもそれには理由があった。

それは、その並木道を歩く彼の髪が黒じゃなかったという簡単な理由。

並木の間から指す光にその人の黒よりも色の薄い、言うなら灰色の髪が輝いていた。


(……留学生、かな?)


追い付いてきてみて分かったけど日本人にしては彼の肌の色は白いし。

少し好奇心をそそわれたけれど変に意識しても失礼かなと思って、平静を装って追い抜いた。



(あんな人いたかな?……でも上級生かもしれないか)


私立であるこの学園では、帰国子女や留学生を受け入れるクラスもあったりして、国際色も豊かだったりする。

一度190cmくらいのドレッドヘアの人とか見てひどく驚いた覚えもあった。


なんて事を考えながら自転車を走らせていると、いつの間にか学園が見えてきていた。


「あれ?」


校門の前に人影が見える。

……誰かいる?近づいていくと。


「あらー、日向さん。こんな朝早くにどうしたのー?」


「あ…、初音(ハツネ)先生?」


そこにいたのは我がクラスの担任だった。


初音(ハツネ) (シズカ)先生――私を『委員長』という職に(いざな)った張本人。

講師生活二年、教師になって一年目の25歳独身女性。

ほわっとした見かけに(たが)わず、性格もわりかしおっとりとした人だ。


「私は早く目が覚めたので文化祭の準備を進めようと思ったので…、先生こそどうして?」


「わたし?わたしは学校の鍵を開けに来たのよ」


「あ、そうなんですか。大変ですね」


「そうなのよー。今までは教頭先生が開けてくださってたのに突然退職されちゃったから、新米のわたしに仕が押し付けられちゃったのー」


「あー…、成る程」


確か1ヶ月程前、だったか。中庭と校庭に大量の“ビラ”らしきものが()かれたのは。

そのビラには教頭を告発する文言が書かれていて、その日以来教頭が学校に姿を見せる事は無くなった。


あの事件も当日は結構騒がれたけど、今は先生に言われるまで忘れてたくらいだ。


……そんなものなのかな人の記憶って。ふとそんな風に思った。



「あ、」


“記憶”で思い出した。


「ん?どうしたのー?」


「転校生が来るって本当なんですか?」


「んー……?あ、ああ!そうなの。わたしのクラスに新しいお友達が増えるんですよー」


そんな風にのほほんとおっしゃった。


「そう、ですか」


……これで本当に確実になったわけか。確かに『出会い』なんだけどね。私が思ってたのは何かこう…もっと偶然に満ちた感じというか、トーストくわえて曲がり角みたいな。現実にはあり得ないけど、それくらいまだ夢見ても悪くないはず。


「ごめんねー。日向さんには早く言っておかなきゃと思ってたんだけど」


「あ、いやいいんです。そんな義務があるわけでもないんですから」


「えー?でも日向さんには転校生くんのお世話をして貰うつもりだから、やっぱり先に言っておかなきゃ駄目だったんだよ」


「…………そうきたか」


「ん?何か言ったー?」


「……いえ」


その可能性を失念してた。十分予想出来そうな展開だっていうのに。


「一つ聞いていいですか」


「うん。なに?」


「その転校生って男ですか、女ですか?」


「あ、男の子だよー」


「……そうですか」


男、か。

確かに先輩の予言通り(だけど事前に情報を得ることが可能だからノーカンにしようと思う)か。


でもよく考えるともっと不吉な予言があったからなぁ。


転校生は……まぁ、いいか。まさかそいつに命を取られる訳じゃないだろうし。

そう頭の中で区切りをつけて、先生に向き直る。


「先生」


「はい?」


「転校生の世話係は引き受けます。他に連絡事項はないですか?」


文化祭の会議の日取りとかそういう連絡もギリギリでされた事があったし、釘を刺す意味で聞いた。


「え?うーんと…、多分ないよ」


「そうですか。じゃあ私は作業するので行きますね」


「うん、頑張ってね。転校生くんのこともよろしく。



今日から」



「………………………は?」

過去編(というか回想?)が終わり本編へ。しかしまだ役者が揃っておりません。いじいじとやってしまうのは私の悪い癖なのでサクッと頑張っていきたいです!



『飛行機事故』と『交通事故』。意外と重要なファクターです。

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