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電波女と魔法少女

急に過去編。五か月前、入学直後です。


Five months before.


「うちの学校にすごい占いが当たる先輩がいるんです!!」


「はい?」


高校の入学式の次の日。

クラスでの勢力がまだ定まっていないころ。

県下でかなりの進学校であるこの私立の学園に私と同じ中学から来た人間はいなかった。


故に、最初(スタート)時からの友達を持たない私がやるべきことは当然友達探しで。

特徴の無い少女集団、いわゆる(私が言えた話ではないけど)モブキャラーズと他愛のない話をしている時だった。


今でもあれは思い出すなぁ……。


とある一人の、ある意味かなり目立つ子に私は話しかけられたのは。





「…………はい?」


一回確認。ナニヲキュウニイイダスンダネキミハ?



「すっっっっごく当たるそうなのですよ!」


「は、はぁ……?」



あまりに突然のことで、当然私はその子のハイテンションについていけなかった。


でも、この場面で「だからなんなの?」って返しでもしたら、クラスでの立ち位置が確立していない今、マイナスにしかならないことぐらいは頭の隅で分かって。


そんな打算に嫌な気分になりつつ、出来るだけにこやかに応対する私。


しかしそれも、次にその子の口から出た言葉で一気に崩れる。




「ボクと一緒に行きませんか!?」




(……お、おおぅ……)




真っ先に頭に浮かんだのは何故に私?、という事。

大してどころか、ほとんどしゃべって無いぞこの子とは。席が近いわけでもないし。


理由がわからないっていうのは案外何に関しても怖いものだ。



そんなやり取りを見てか、モブキャラーズ(仮)はススーッと姿を消していた。

いやいやちょっと待て助けろ。

……それも口には出せない。


(嗚呼、こういうめんどくさそうなことを察知して逃げるスキルは私好みなのに)


はぁ、仕方がない。

内心の嘆息で諦めと決心がついたかもしれなかった。

半ば自棄(ヤケ)になりつつ向き合う。


「あ、あのー、確か藤堂さん、でしたっけ?」


「あ、はいです!名前覚えてくれたんですね委員長さん!」



いや、名字しかわからんけど、とは言わなかった。


それと。

さり気に呼ばれた“委員長”はもちろん私の役職で。


まさか自分で立候補したわけではない。

入学試験の結果か何かで、担任に指名されてしまっただけなのだ。

半年の辛抱だから、という若い女性担任の言葉はおそらく嘘になるだろうという事は、中学時代の経験で知っていた。


まぁ、それはいいのだけれど。


……もしかしてそれでこの子?



「えーっと、私なんかでいいの?」


なんで私なの?って意味を込めながら聞いてみる。


「はいです。なんだか波長の合いそうな気がしたので」



「……は、波長?」


ん、んん?まさか本当にこの子は電波系(めんどう)なタイプ?

なんだか怪しい気配がしたので、ひとまず私は藤堂さん(電波の疑い)を掴んでクラスの談笑の輪から離れた。

それもまた他人(ひと)の目を避けての行動だから、さらに自己嫌悪。


パタパタとまだ真新しい上履きで廊下に出た。

一応、入学したてのウキウキ気分でさっきまではその廊下を歩いていたけど今は真逆。


もし、ここで失敗していたら取り返し(リカバリー)が効かない。一年を失ってしまう。

そんな岐路に立たされた気分になって、もうのんきな気分では無くなっていた。

どちらかというと『怒り』が心を占てめていた気がする。あの時を振り返ると。


この子の意味の分からない言葉に私は邪魔をされたんだ!大事な高校デビューの出だしを、って。


後ろには彼女、もとい藤堂ナントカさん。


無言で落ち込む私をあとをひょこひょこついてきていた。


「えーと、怒ってます?」


「……はい?」


さすがにそれは分かるのか、そう思って振りかえると、いない。

あ、いた。


私の視線はだいぶ下で固定された。


はぁ。


わかってはいても目測を見誤ってしまう。それくらい彼女は……“小さい”。



「まあ、多少」


苛立ちが抑えられなくて、それにもうクラスの中じゃないからいっか、なんて考えが働いたのか、私の口は正直な気持ちを吐いた。


「そうですか。やっぱり」


それに対する答えは私の予想を反していて。

やっぱり?やっぱりってなんだ?



「あなたは私の邪魔がしたかっただけなんですか?」


これは完全に怒っていた。と、思う。けっこうな大声も出ていたかもしれない。廊下を歩く何人かが振りかえってた気もするし。

よく覚えていないから曖昧だけど。


だって。





「はい」


って、言われたから。



「…………」



チガウって答えを聞きたかった。


……なんかもう怖いわ。目の前にいるこのちびっこが怖かった。

私の今まで関わって来た人は、私の理解の及ばないことをすることなんてなかった。というかそんなことする人には近づかなかったし。


でも今。


高校デビュー二日目のこの日。


恐れていたソイツが自分からやって来た。



(ど、どうする私……?)


仮面ライダーの中の人(それか香椎由宇の旦那)の昔のCMみたいなことを脳内で繰り広げながら、私は廊下で棒立ちになっていた。もう遠い宇宙にでも行けそうな感覚。はあ、ときが見えるかも、なんてアホなことを考えだしていた。



そんな時。そんな時だった。


私の(とき)が動き出したのは。




「だって委員長さん、スゴく無理をしているような顔をされてたので」








空白ぼうぜんじしつ









「……は?」


ああ、いけない。思考が止まってしまった。



「違いました?」


「いや、はあ。え、ええ?」


こんらん。

まさに私はそんな状態だった。


「おせっかいだとは思ったんですけど。何となく声をかけちゃいました。すいません」


「…………」


ちょっと言葉が見つからない。今、言うべき言葉。返す言葉。反論。返事。

なにか言い返さなければ、と頭は回っても、頭を占めるのはただ一つ。


(つまらなそうな顔、か)


まさか“バレてる”とは思って無かった。そりゃそうだ。友達を探すなんて、そんな自分が他人に合わせる行動が楽しいなんて思う人種(マゾ)じゃないし。ストレスで胃がキリキリしそうだったのもまた事実。



(……ははっ)


ヘンな子、なのは間違いない。

でも。



「いきましょうか」


「……え?」


それは彼女が初めて見せた戸惑いの顔だった。


「その占いの良く当たる先輩のところ。場所は知ってるんでしょ?」


「あ……。はいです!!」


彼女はそして笑顔を見せる。元気で活発そうな彼女に似合う、明るくて輝くような笑顔。

つられて私も笑顔になった。

メガネで真面目で暗い、って第一印象(へんけん)を持たれることの多い私は、笑うっていっても軽く微笑む程度だったけど。

思えば、入学してからちゃんと笑ったのは、その時が初めてだった――――



そんな良い思い出話はすぐ魔女先輩に塗りつぶされるんだけど。




「うわー、すごい人だかり……」


話して数十分の人(下の名前はミハルというらしい。漢字はまだ不明)と仲良く行動という、学校社会ならではのありえない過程を経て。辿り着いたところには何故だか黒山の人だかりが。

もしかして私たちみたいな興味半分みたいな一年生がたくさんいるのかと思えば、学年章から察するとそうでも無かったり。

ワイワイガヤガヤ、という喧噪けんそうの向こう側にその『先輩』とやらはいるらしかった。


…………。


「帰ろっか」


もう面倒くさくなってきた私はポツリと提案。


「ええ?まだその先輩さんを見てないですよ!?」


「いや、だってどう考えても会えなさそうじゃない」


よく見ると集まってる人たちの中には鬼気迫る人達もいるし。

なんか軽く宗教?みたいで怖い、っていうのが私の率直な感想。


「俺って将来どうなってるんだ!?」「私の運命の人はあの人なのか教えて!」「明日のテストに何が出るんだー!!」「地球の未来はいったいどうなるんだ?」


などなど。


それは周りにいたある一定数の私たちと同じようなミーハーな人たちをドン引きさせるには十分だったようで、なんだか人垣が崩れていってるように見えた。


その隙間から、ボサボサの黒い髪がのぞいた時、その声は響いた。



「ワタシは好きな時に好きなヤツしか占わない。だからいくら頼もうが無駄だ帰ってくれ」


後で聞くとこの時はそういう主義だったらしい。

でも流石に部活として活動する建前上、実績を残す必要があって一日一人っていう今のスタイルになったとか。

でも思うに嫌なら無理に“部活”って形に拘泥する必要は無いはずなんだけど。

それも聞いたけど答えてくれなかった。曰く、「ヒ・ミ・ツ☆」(星はあったか不明)らしい。

私もそれ以上深く追求することは止めといた。


うん、今は出会いを思い出そう。


ボサボサの髪。


私はそれにまず目がいっていた。いや、確かに『占い』とかが似合いそうだなって。

と、人垣がまた動いて。


そして顔が見えた。



「あ、美人だ」


私の予想では、鷲鼻(わしばな)の物凄い人を想像し始めていたから純粋に驚いてしまった。

なんだ、全然まともそうな人じゃないか。

なんて思ったのも束の間。


「魔女を怒らせるとただじゃ済まなくなるぞ。ワタシの機嫌が底に落ちる前にさっさと散れ愚民(クズ)共」


前言(?)撤回。いや、え、ちょっと大丈夫ですかそんなこと言って?

その一言で集まってた人たちの空気が変わった。さっきまでは落胆の色が強かったけど、今度は―――


「なんだアイツ?」「感じワリーな」「調子に乗ってんのか?」「やっぱ当たるなんて嘘なんじゃない?」「自信がなくなったとか?」「なんだデマかよ」


ざわざわ、ざわざわ。

そんな風に敵意を含んだ声がところどころから聞こえだした。


かくいう私も確かにこの瞬間は感じ悪いなと思った。

いや、逆にこの場であんなこと言えるのは凄いと思うけど。


でもこっちに悪意はないのに、あの先輩にとっては迷惑だったにしても、あそこまで露骨に罵倒されるとそれはムッとするのが人情で。


なんだかな、って。

私は何となくその敵意の中心(せんぱい)を見た。



そしてハッとする。




人垣の隙間から見える先輩の顔がどこか、どこか寂しげで。




私は、その憂いを帯びた顔に見惚れていた。





「いいんちょさん?」


「……へ?」


と、急に話しかけられて一気に現実に戻った。


「あ、ああ……。どうしたの藤堂さん」


「帰りますか?なんだかダメそうですので」


確かに場は白けきっていた。一年生らしき人たちの集団もどこかに消えていたし、残っていたのはさっき宗教的な感じで迫っていた人たちぐらいなものだった。


「その方がよさそうかもね」


はぁ。なんとなく気持ちが下がったなあ。

占いを見れなくてなんだか『残念だな』って思ってる自分が不思議だった。



うーん、えーと。最後にチラッとだけ見ておこうかな。


そんな風に思ったんだと思う。なんか名残惜しいとかそんな。ほんの出来心というヤツ。


“そして目があった。”


(…………う、うわわわ!!!!!)


――――あの『先輩』と。


まったくの予想外。というかなんであの先輩も(こっち)を見てたの?硬直する私。

そしてじっと見つめ続けてくる先輩。

謎のマンツーマン。

でも何故かそらせなくて。いや、失礼っていうのもあるけど。

その黒い目が私を射抜いて離さない。

あ、あれ!?そしてなんかこっちに近付いて来てるんですけど!?

それにヌッ、という効果音が似合いそうな移動の速さだし!



「え、ええ……?」


すでに目の前にまで近付いて来た先輩は、さらにじっと私を見つめる。

射抜くような視線に気圧されて後ずさり。

それに合わせて先輩も接近してくる。


後ずさり。

接近。

後ずさり。

接近。


ついに壁際にまで追い詰められた!!


さすがの私も周りを見渡して助けを求めたけど、あんぐりといった感じで口が開いたまま傍観している人多数過ぎてどうにもならない。


いやいや、ちょっと待ってホントに助けろ(今日二回目)。



「キミ、手を出して」


「は?」


「占いをしよう。手を出したらそのまま動かすんじゃないよ」


「は、はぁ……」


訳の分からないまま取り敢えず指示に従う。

ほとんど反射的に出した手は先輩に強引に掴まれて、水の入ったお盆?みたいなものの上に誘導させられた。


その瞬間に周囲がどよめく。


聞こえたどよめき凡例。


「な、水盆を使うのか!?」「久々に見たぞ!?」「本気だ……」「何であんなパッと出の小娘に!?キィー、悔しい!」


………怖い。特に最後のが。

何か世界の悪意が私に向かってるような、そんな気分になったのを覚えてる。

ハラハラした私の気も知らないで先輩はマイペースに観察を続けていて、そしてふむふむとか言い出す始末だった。


「あの、なんで私を?」


率直な疑問をぶつけてみた。


「理由は必要かい?たかが占いだ。キミにとっては赤の“他人”のコトバでしかないだろう?」


「それは……。確かにそうですけど」


そうだ。そうなんだけど。


何だか答えをはぐらかされた気もした。


こんな風に漫画みたいに急に選ばれて。シンデレラは美しかったから王子様を射止めたけれど。

私には、何もないから。


そんな気持ちから『理由』が知りたかった。


私が『特別』な理由、って言うと大袈裟だけど。

急にステージに上がらされた役者は誰だって同じ問いを発すると思う。


……でも、これ以上食い下がる気も起きなくて黙ってしまった。


「ふうむ。理由がないとは言ってないさ。納得出来ないなら聞くかい?」


そんな気持ちを見透かされたのか、ドキリとすることを先輩は言った。


当然私は、


「はい」


って答えた。

すると先輩はクルッと振り返って、


「そうか。なら邪魔な外野には消えて貰おうか」


なんて言うし。

うわーって思いながら見てると、今度は意外にあっさりと、


「ああもうダメだね」「今日は終わりだな」「明日は私の番よ」「いやあたしだから!」


スゴスゴと去っていく信者(?)達。


そんな中、ひょこひょこと流れに逆らう一人の少女(ちびっこ)がいた。

あ、今なんか少しときめいた。やっぱりあの子は母性本能に訴えるものがある。


「あのっ、そのいいんちょさん!」


「は、はい!?」


急なテンションに驚きつつ返事。何を言ってくるんだろう?

私が身構えると、


「お願いがあるんです」


「う、うん?」


「占いが当たったら教えてください。ボクは別な部の見学に行って来るので!」


「え?」


その時の私の顔は相当間抜けだったと思う。


「では楽しんで来てください!さよならです!!」


「え、ええーーーーーー?」


「それではっ!」


……そして誰もいなくなった。

アガサ・クリスティ的には全滅フラグ。U.N.Owenは誰なんだろう?彼女かもしれない。そんな脳内クローズドサークル。


「あ、はは……」


まぁ、そんな事はどうだっていいんだけど。

あっという間に見えなくなった彼女の後ろ姿を見送って、なんだか私は力が抜けてしまっていた。

あとに残ったのは脱力感とムカつきだけ。要するに。


「あの(アマ)逃げやがった……!!」


って、怒り。








「理由、だったかな。それともそれはもうどうでもいいかい?」


「え?あ、ああ、いえ……」


話しかけられて、またもやハッと現実に引き戻された。


「ん、まぁそれは占いの内容と被るから説明は一緒でいいかな?」


「あ、はい」


そう返事をして、促されるままに椅子に深く腰を下ろした。

さっきまでの怒りは置いておくとして。


おお、ついに始まるのか。その噂の『占い』が。

何だかんだ言ってもワクワクはしてた。


どんな事を言われるのか。未来の事を言われるのか。過去の事を言われるのか。本当に当たっているのか。一体、どうなることやら。


--――そんな軽い予想は大幅に裏切られることになる。


わしゃわしゃと髪をかき揚げた先輩は、


「さて」


と、前置いた。そして唐突に呟く。



日向(ヒナタ) 夜子(ヤコ)





「…………え?」


一瞬何を言われたのか解らなかった。

それが生まれたときから背負ってきた“自分の名前”だっていうのに。

でもそれは仕方ない事じゃないかって思う。名乗ってないのに名前を言い当てられたら動揺するのが普通だよね?


でも。

先輩はそれで終わらなかった。


「8月5日生まれの17歳の獅子座。血液型はBH-(ビーエイチマイナス)。祖父母はすでに亡く、両親も飛行機事故で2人とも他界。現在は考古学者の叔父に引き取られて、叔父の営む古美術商店に住み始めた……。キミの外側はこんなものかい?」


「え。あ、え?そ、そうですけど……」


早口で捲し立てられて唖然。そして全て的中していてさらに呆然。


唖然呆然。

それくらい理解不能。

喉が干上がる。



どうして。

私の名前を知ってたの?


なんで。

私に両親がいないことを知ってるの?


いったいなぜ。

一人で暮らしていることを知ってるの?


その問いかけが頭を支配して。



「どうして、そんな事を知ってるんですか?」


乾いた喉が発せたのは必要最低限の疑問文だった。


「見えたからさ。そういう風に水面がさざめいた」


先輩の指が水盆の縁をなぞる。細くて白くて美しい、そんな指が妖しく動く。


まさに『魔女』。


そう、私にも見えたけど。見えたんだけど。




「こんな……、ことで?」


その回答を頭から信じるには私は合理的過ぎて。

その答えは理解出来ない、って意味に取られても仕方のない答え方をした。


(……下調べをされた?それが一番納得の行く答えだけど……)


理由、すなわちトリックを必死に考える私。それでも奇術(マジック)の種は全くわからない。

と、不意に先輩が肩を落とすような仕草をした。


「理解してもらう必要はないさ。(はな)からそんなこと期待しちゃいないからね」


私の心を見透かした様に突き放す言葉を言われて、私はさらに動揺した。

……しかしその動揺も、すぐに別の気持ちで上書きされる。




先輩が“また”あの顔をしていたから。


あの寂しげな顔を――――――



心が揺れ動く。言葉が頭より先に口をついた。


「……理由を」


「うん?」


「貴女が、あの中から私を選んだ理由をまだ聞いていません。だから教えてください。私が他の人と違う所を」


真っ直ぐに先輩の目を射ぬいていた、と思う。私の視線は。

思い返すと馬鹿みたいだけど、この時ばかりは真剣だった。




「……ふふっ。そうだったな」




あ、笑った。

一瞬だったけど確かにフワリと……!

なんて思ったのもつかの間の事。


「率直に言えば魔女の勘さ」


またすぐに真顔に戻る先輩。その落差も凄いんだけど。


「…………は?」



ていうか魔女って……。

その『設定』との戦いはここから始まったのだった――。


なんて言うのは冗談。



「勘だよ。『君にはワタシの助けが必要になる』っていう勘」


自信満々、という顔を返された。


「助け?それって私にピンチが訪れるってことですか?」


「おや?ワタシの占いを信用してない風だったのに。急に気になるのかい?」


「それは……」


う……。確かに調子の良い態度だったか。


自分の中でちょっと反省。


「ふふっ。キミは本当に顔によく出るなぁ」


「あ、す、スイマセン…」


そう、なのだろうか。そんな風に言われたことは無かったけど。


「いいさ、キミはそれで。…あ、それとね」


と、先輩はポンと何かを取りだした。


「なんですかこれ?」


渡されたのは不思議な物だった。というのも、四角い穴の空いた厚紙の封筒の中に紙が一枚入っている。

それと一緒にペンも差し出されたからどうやらその四角の穴の所に名前でも書け、という意味なのかな?私は先輩の言葉を待った。


「一度占いをした土民(にんげん)忘れないように名前を書いて貰ってるのさ。キミも頼むよ」


「あ、はい……」


今のが『占い』だったのか。現実を言い当てられたのは凄かったけど、未来について具体的な事を言われなかったからモヤモヤする。


『助けが必要』ってなに?


なんだか釈然としない気持ちになったけど、促されるままに名前を書いて先輩に返した。


「ふむ、書いたね。ボールペンできちんと」


「あ、はい」


この時。


「キミがその手で自分の意思で書いたんだよね?」


「それは、そうですけど。でも先輩が書けっていったんじゃ…」


嫌な予感は全くしてなかった。


「はい。じゃあ入部おめでとう日向くん」


「………………は?」




そう。この時ですよ。


生まれて初めてガッツリと人に罠に()められたのは。



「入部?い、いやいや、ちょっと。ちょっと待ってください。ここは……」


「神秘現象研究部さ。知らないで来たのかい?」


「いや、え、ちょ、は、はぁ?」


「ふふ。キミが入って2人になるからキミはいきなり副部長か。最初から出世したなぁ」


なにぬかしてんだこいつは!?……とは言わない。


「ま、待ってください!まず私、入部するなんて一言も…」


「だって書いたじゃないか。ほら、入部届け。君の意思でね」


スルッと厚紙から紙を取り出す先輩。


「え、ええ?」


その紙にドドンと書かれているのは文字は――『入部届』


「コレはワタシが教師に渡しておくから心配するな」


「いや、ちょっと待って!」


「なんだ、何か不満か?他に入りたい部でもあったのか?」


「いや、そういう訳ではないんですけど……。そうじゃなくて!何で私何ですか!?他に入部したそうな人がたくさん…」


「キミには助けが必要だと言っただろう?」


「……だから?」


「ワタシが助けてやろう、ということだ」


「スイマセン帰ります」


いや、この手口。語り口。

完璧にアレでしょ。大学のサークルとかに偽装しているとか聞いたけど高校でもあるの?


ヤバいでしょ!

防衛本能が緊急ベルをガンガンならしている。

早く部屋から撤退しろ!家に帰ってお風呂に入って早く寝て今日のことは忘れよう……!


「まぁ、待て」


ガシッと掴まれた腕。動けない。全くもって。振り払う力と度胸は無い。それすなわち。


……振り返るしかないということ。




「まぁ、そのだな…」


「お金はありません!」


「いや、そうじゃなくてだな」


「食べても美味しくないです!」


「ワタシはそういうグリム的な魔女ではないさ」


「壺とか水とか水晶とか買わされるんですか私!?」


「さっきまであんなにクールな感じだったのに。慌てるとそうなるのかい?」


「え?……あ」


私はジタバタもがいていた手足の動きを止めた。


「と、取り乱してました?」


「ああ、かなり」


ぐ、ぐわああああ!かなり恥ずかしい感じか今の私は!?


顔に血が上るのが分かった。



「まぁ、そのなんだ。そんなに嫌か?」


「え?いや、だってどう考えても怪しいですし」


「ふうむ…。それならこれでどうだい?」


パサリ、目の前にまた一枚の紙が置かれる。


「これは?」


「部活動認定証。これで怪しい宗教じゃないのは分かるだろう?」


「あ……ホントだ。『神秘現象研究部を正式な部として認める――新東学園生徒会』」


「それにこれだ」


パタン、目の前に今度はノートらしきものが。


「あの、これは?」


「授業ノート」


「え?」


急に気色が変わった!?


「ワタシが一年の時にとったノートさ」


「え?あの……それが?」


「学年一位のノート、欲しくないかい?」


「…………マジですか」


「ああ、マジだ」


先輩はパタパタと棚らしきものからノートを取り出してきた。

数学、英語、物理、国語、地理、DEATH NO……。

あれ最後にチラッと変なのが?先輩は「あ、間違えた」とか軽く言って戻したけど何かヤバかった気がするんですけど!?


「さて。ほらどうだい、魅力的なセットだろう?」


「いや、あの……はぁ、まぁいいか。じゃあ一つだけ聞きたいんですけど」


「ふむ。なんだい言ってごらん」


「私はこの部に入って何をするんですか?」


と、聞くと。


「…………雑用」


何か変な間があって出てきた答えは。


「雑用!?」


ナメてらっしゃるのでしょうか。


「紅茶の用意に掃除。依頼者を捌くのも面倒だったからね。やってもらおうか」


ニコリと笑う先輩。いや笑って誤魔化してんじゃねえよ、なんて思っても口には出さないけど。


「いやいやいや。そんなの嫌に決まって…」


「ノート、欲しくないかい?」


「……むぐっ」


「部費も潤沢だぞ?2人で使い放題」


「むぐぐっ…」


惹かれるポイントをグサグサ突いてきた。この誘い、確かに魔女?


「勉強に詰まればワタシが直接教えてやってもいいぞ。これでも879年は生きてるからな」


「むぐぐぐっ…。って、ん?」


あれ、また何か心配なワードが聞こえた気が……。


「さあぁ。どうするんだい?」


「それは……」



――――正直、揺れる。


いや、断るべきなのは明白なんだけど。


チラリと先輩を見る。

私の水晶体から網膜に映るその姿はまるで非現実(ファンタジー)の住人のようで。



こういう場合、NOという青少年がいるだろうか。


目の前に機動戦士が落ちていれば乗るだろうし。

父親に地球を守れと言われれば母親(エヴァ)にも乗るだろうし。

魔法生物とか地球外高度知能体(インキュベーター)がいれば契約するだろう。


夢見がちと言われようとも、こんな機会が降って湧いたら…。


「答えを聞こうか」


こう答えるに決まってる。


……そう思ったんだよねこの時の私は。


今考えると――


「いいですよ。乗りましょうその話に」


「ふむ、いい返事だな」



本当にバカだ。








「……本当は、部登録期間って来週からだからこの入部届は実際には無効だって言ってもキミは怒らないかい?」


「え゛?」

過去編、プラス人物紹介的なところです。そういえば別作品でも初回に主人公の名前が出てこなかったなぁ…。名前の紹介が苦手な作者でした。

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