002
佐山 伊月は模範的な生徒だ。
学校では無遅刻無欠席。授業態度も良好。部活にも参加しており、ブラスバンド部の部長も勤めている。
特になんの問題のない生徒だが、今は陵葉高校と同じ市内にある、警察署の小さな部屋の中に居る。
部屋には、中央に机が一つ。その両脇にはイスが一脚ずつ。唯一の扉の近くに小さな机とイスがあるだけ。その部屋の中で伊月は扉の方を向き、一人取り残されていた。
先程まで話しをしていた上沼という若い刑事は三分ほど前に部屋を出て行ったきり、まだ戻ってこない。
伊月はこの八日間、何度か警察で事情聴取を受けていた。始めのうちは聞かれたことには何でも答えていたし、一日でも早く瀬野 友香が見つかることを祈っていたが、事情聴取を何回も受けていると疲労もたまり、始めは感じなかった緊張感を感じるようになってきていた。
警察署で、しかもこんな小さな個室で、刑事に囲まれていると、緊張してきて、だんだんと胃が締め付けられる気がしてくる。
こんな空間で、『お前が犯人だろ!』と怒鳴られた日には、犯人じゃなくても認めてしまうかもしれない、とさえ思えてくる。
ろくなことを考えていない自分に心の中で戒めると、大きく頭を振る。こんな事情聴取を繰り返す事で、友香は見つかるのか不安でしかなかった。
机に両肘を付いて頭を抱えていると、ドアがノックされ扉が開き若い刑事か部屋に入ってくる。先ほど出て行った上沼刑事だった。
「待たせてごめんね、佐山君」
「いえ」
伊月は慌てて体勢を立て直す。
「一応、今日はもう遅いからコレで終わりね」
「はぁ」
上沼は刑事らしからぬ男だ。小柄で話し方も軽いし、若いからか見た目の貫禄もない。
最初に取り調べを受けた岡という初老の刑事は穏やかに語りかけてくるが、まさしくベテランのいう風体だった。
岡とのやり取りは最初だけで、その後はこの上沼としか話していない。
他にも何人もの刑事が刑事課にはいたが関わりが無い。
「外まで送るよ」
そう言う上沼の後を伊月は黙って後を着いて行く。往来する刑事の間をすり抜け、刑事課を出ると外はもうすっかり夕方になっていた。
「上沼さん!」
突然、女の声と共に伊月の後ろから伸びてきた手が前にいる上沼の肩を掴む。
「うぁっ。ビックリした」
振り向いた上沼は目を見開いて、声を掛けてきた張本人を見つめる。
身長は伊月より少し高いぐらいで、髪は後ろで一つに縛り、長い前髪は横に流しピンで止めている、薄いブルーのシャツの上に革ジャンを着ており、黒のパンツをはいている女性だった。
伊月は最初、警察の人間かと思ったが、それにしては自分に年が近いようにも思えた。
「さっきから声掛けてたんですよ。聞こえませんでいたか?」
「あぁ、うん。ごめん。考え事してた。それで、なんで満那ちゃんがここに居るの?」
「これ、草野さんに届けに来たんです」
慌てている上沼にそう言って満那が出したのは男物の黒い革の財布だった。
「刑事課行く前に上沼さん見かけたから。これ無くて困るの草野さんじゃなくて上沼さんでしょ?」
苦笑しながら首を傾げると上沼が大きな口を開ける。
「あ~!あの人また忘れてきたの?」
「それじゃあこれ、草野さんに渡しておいてください」
叫ぶ上沼に財布を渡すと満那は二人のやり取りをぼんやり見ていた伊月の方を見る。
「こんにちは」
伊月の目を真っすぐに見てそう言うと、伊月と上沼が驚いた表情を見せる。
「満那ちゃん、佐山君と知り合いなの!?」
「いいえ。単に学校が一緒なだけですよ」
「えっ!?」
今度は伊月が驚いて声を上げた。
まさか同じ学校に通っているとは思ってもいなかった。
雰囲気的には大学生だと思ったからだ。
「でも、話すのは始めてかな。クラスも違うし」
そう言うと満那は上沼に財布の件を念押しし、さっさと警察署を後にする。
「あっ、じゃあ僕も帰ります」
そう言って、上沼にお辞儀をすると満那の歩いていった方へ駆け出す。
門を出て、左に曲がるともう満那は大分先まで歩いていってしまっていた。
「待って」
伊月が叫ぶが、満那は気付きもせずに早いスピードで歩いていってしまう。
満那とは面識は無いが、なんとなく追いかけてしまっていた。話しがしてみたいと思ったからだ。
「待って、……マナさん!」
「……私?」
立ち止まり、振り返った満那は驚いて伊月の方を向く。
「そう。聞きたい事があって……、いい?」
「う~ん。君、そろそろ学校に来る?」
「うん。そのつもりだけど?」
「じゃあ、学校で君が私を見付けられたら話を聞いてあげるよ」
そう言って、左手を軽く上げて満那は行ってしまった。
伊月はその場に突っ立ったまま、しばらく満那の後姿を見つめていた。
『マナ』という名前に聞き覚えがあった気がしていたが、いつだったが、どこで聞いた名だが思い出せなかった。
彼女は同じクラスではないと言っていたが、今まで校内では見たこともない顔だと思った。高身長であれだけ顔の整った生徒なら男子の間でも噂にはなっているだろうがそんな話は聞いた事がない。
とりあえず、明日は登校してみようと決めた伊月だった。
翌日、伊月は朝早くに登校をした。
一度教室に向かい、誰も登校してきていないのを見てカバンを自分の机の横に掛けるとそのまま教室を出る。
なるべくならクラスメイトには出会いたくないと思っていた。
友香のことを色々と聞いてくるはずだ。実際、事件の後に登校してみると、他のクラスからも人が集まり、しつこく事件について話しかけられて迷惑だった。なので、事情聴取が無い日も最近は休んでいた。
始業時間まで人目につかないところで昨日の【マナ】を探そうと思い、校門の見える図書室へと向かった。
朝から図書室に居る人間なんていないだろうと思い扉を開けると、すでに一人の女子生徒が机について読書をしていた。
人が居るとは思わず一瞬驚いたが、別に何も悪いことをしていないのだから怯える必要もないのだ、と心の中で言い聞かせ中に入る。
すると、先客の女子生徒が顔を上げ、伊月の方を見る。
彼女は長い前髪をそのままにし、肩より長い髪を下の方で二つに縛っている。
「早いね」
彼女の方から声を掛けられ、伊月はその場に立ち尽くして驚いた。
見知らぬ人間にいきなり声を掛けられ固まっている伊月を見て、彼女は掛けていたメガネをはずし胸ポケットに引っ掛ける。
「いい勘してるね。それとも偶然?」
先程より低い声に聞き覚えがあった。
「あっ。もしかして、昨日の?」
伊月は目の前にいる人物が、昨日警察署で出会った満那であることに気付いた。
「なんか、昨日と雰囲気が違うね」
「わざとそうしているからね」
満那はそう答えて、二つに分けて縛っていた髪をパタパタの振ったあと下ろしていた前髪を少し掻き分け、伊月に近くのイスに座るように手で示す。
伊月は素直に満那の正面の席に着くと、小さく息を吐く。
「もしかして、寝れてない?」
「なんで……」
何故分かったのか聞く前に満那の言葉が続く。
「瀬野の行方が分からないのは、お前のせいじゃないよ。あまり自分を追い詰めるなよ」
「……どうして……」
自分の心情が分かったのか尋ねる前に満那は本を閉じ、左手で頬杖をついて満那が答える。
「顔色悪いよ」
伊月を見つめて言う満那に、伊月は言葉を失う。
「……実は、一人でいると嫌でも友香のことを考えちゃうんだ。俺が迎えに行っていればとか、あの日、あの場所で待ち合わせなければって」
「あの日、あの時間にあの場所で会うことを決めたのは瀬野の方だろ。お前には何の非もない」
「なんで、……きみが、その事を?」
今、満那が言ったことは、警察にしか言っていないことで、伊月と警察の人間以外が知っているはずがない。
だが、満那は本をパラパラと捲ってそれに答えなかった。
伊月は満那が答える気がないことが分かり、話題を変えた。
「まだ警察は何の手かがりも掴んでないのかな。事情聴取だって毎回同じことを聞いてくるし。結局、俺には何も出来ないんだって、思い知らされた……」
「それが、警察の仕事だよ。捜査はしてる。ただ失踪事件じゃ目撃情報が無ければなかなか捜査は進まない。仕方がない」
「仕方がないですむ問題なのか⁈」
突然大声を上げる伊月に、驚きもせずに満那は小さくため息をつく。
「あぁ。だから、あいつらに頼るのはやめておけ。……まぁ、中には例外もいるけど」
「どういうこと?」
「頼る相手を間違えるなってことだよ。お前さ、瀬野を助けるためだったら何でもできる?」
「何でも?」
「そう。例えば……」
そう言いかけ、満那は入り口の扉に目をやる。
伊月もつられて扉を見ると、それは開き遙が入ってくる。
満那は小さく舌打ちをすると、素早くメガネを掛け直しすぐに本とカバンを持って席を立つ。滑らかで且つ一瞬の出来事だった。
「おう、佐山。おはよー」
「おはよう」
遙に返事をすると、満那はすでに机から離れていた。
「あっ。時沢さん、おはよう」
遙の後ろから現れたかなめが声を掛けるが、満那は黙って会釈をしその場を離れる。
「もしかして、邪魔しちゃった?」
遙が近くまで寄ってきて、伊月に尋ねる。
すでに満那は三人から離れてしまったので、伊月は首を横に振った。
「それよりどうしたの?」
この二人が朝から図書館に来る理由がわからず尋ねる。
「あ~、今こんな話をするのは佐山には辛いことだとは思うんだけど……。ウチら瀬野さんの事件調べようと思ってんよ。だから、佐山にも協力してもらいたいんやけど……」
「調べるって、一体……」
突然の話に伊月は戸惑う。
「いやね、最初に調べ始めたんはウチらじゃないんやけど。その子のね、手伝いをしとるんよ。ウチら」
「それで、調査のために是非、佐山くんに話を聞かせてもらいたいと思ってるの。ただ、事件の後、警察でたくさん話してると思うから、今すぐにとは言わないけど……」
遙に続きかなめがそう言う
伊月は先程、満那に言われた言葉を思い出す。
「それは、遊び半分?」
「違う!あたしは、真剣に瀬野さんのことが心配なの。たかが高校生に事件解決なんて無理だろうけど、自分たちが調べたことで何か瀬野さんが見つかるヒントが掴めれば、何かの役に立てばって思ってるよ!」
かなめは両手を握りしめて力強く答える。
満那は先程何か伊月に提案しようとしていたが、三人から離れてしまったので確認のしようがない。
それよりも今、二人が話した内容の方が気になった。
伊月が二人になにか言いかけると入り口のドアが再び開き、今度はグレーのスーツを着た男が入ってきた。
伊月はその男性に見覚えがあった。
昨日も事情聴取の部屋から出た時に見かけた。陵葉警察署で見かけた刑事だった。それを思い出すと、急に心拍数が上がる。
彼は入り口で一度立ち止まり、伊月たちの方を見る。
それから暫く周囲を見渡し、三人に近づいてくる。
「おはようございます。ここには三人だけ?」
男がそう言うと、離れた所で物音がし、男がそちらへ向かう。
「本はもっと丁寧に扱わないと」
落とした本を慌てて拾う満那の前で立ち止まると男は内ポケットから警察手帳を取り出し、開いて満那に見せる。
「陵葉署の草野と言います。時沢 満那さんですね?」
そう言ってちらりと三人の方を見る。
満那も草野も刑事がいきなり出現し、三人が緊張しているのが分かった。
「そうです。なにかご用ですか?」
「瀬野 友香さんとの関係について少しお聞きしたい事があります」
草野の言葉に後ろの三人が動揺が走る。
「ここでは何ですし、外でお話しましょうか」
「ここでいいですよ。座りましょうか」
満那は近くのテーブルに本を置き、草野を誘導してイスに座る。
「それでは、お話願えますか?」
「聞きたい事があるなら、なんでもどうぞ」
草野は三人を気にしてから、気を取り直し満那に視線を合わせる。
「あなたは一年生の時、瀬野さんにいじめられていましたね?」
「いいえ」
間髪入れずに答える満那に、草野は困惑する。
「でも、傍から見ればいじめと言えなくもないでしょう。担任もそう認識していたと思います。内容としては、物を隠す、無視をする、といったものでした。ただ、私は気にもしていませんでしたから、彼女達もつまらなかったでしょうね。……あぁ。一度だけ、他校の生徒を引き連れてきたことがありましたけど、返り討ちにしました。それからは大人しくなりましたよ」
淡々と語る満那に、傍で話を聞いていた三人の方が緊張しているように感じ取れる。
「すると、いじめは直ぐになくなったのですね?」
「そうですね。何をしてきても私のリアクションがないので、彼女達も直ぐに飽きたみたいですよ」
「そうですか。……わかりました。また、何かありましたら伺います」
「はい。いつでもどうぞ」
満那が答えると、草野は席を立ちそのまま静かに図書室を出て行った。
草野が出て行くのを見送ってから一呼吸置いて、満那は静かに息を吐いた。
それをきっかけに、遙・かなめ・伊月の三人は緊張が解れた。
「まさか、きみが……」
「い、いややなぁ、佐山。そりゃないやろ……」
伊月が声を絞ってそう言うと遙はすかさずフォローを入れる。
それでも伊月の中で満那への疑いが膨れ上がる。満那は待ち合わせの事を知っていたからだ。
「佐山くん。昨日の出来事を良く思い出して」
自分に疑いの目が向けられていると感じた満那は仕方ないと言う感じでそう言う。
「昨日?」
突然、満那に聞かれ伊月は戸惑う。
「昨日の夕方。私は何をしにあの場所へ行ったのかを思い出してほしい」
満那の言葉に伊月は昨日の出来事を思い出そうとする。
満那と会ったのは警察署だ。その時の事を思い出す。
「時沢さん。さっきの話はホント?」
考え込む伊月の隣りで、かなめが聞いて来た。
「さっきの話とは?」
「不良をやっつけたって話」
「不良ではないですよ。やっつけたといっても、殴り合いのケンカをしたわけではないですし」
満那がそう言うと同時に伊月が昨日の事を思い出し、顔をあげて、満那を見つめた。
「思い出した。あの人は……」
「思い出したんなら、それ以上は黙っておいた方がいいよ」
満那はそう言い放つと、本をカバンにしまい、それをそのまま肩にかけ部屋を出て行った。
「なんやねん、いまの」
満那の態度が気に入らなかったのか遙が憤る。
「佐山君、昨日時沢さんに会ったの?」
「うん、まぁ。ちょっとね」
満那が黙っておけと言うのだから、草野刑事と知り合いだろうと言う事は言わない方が良いのだろうと判断した。
「それより、さっきの話なんだけど。友香の事件を調べてるんでしょ?」
「そう、そう、そう。協力してもらえる?」
「いいよ。だから、その調べてる奴に合わせてくれないかな」
その言葉にかなめと遙は笑顔で頷いた。
伊月が巧に会ったのは、昼休みだった。かなめと巧が遙たちの教室にやって来て四人で中庭へやって来た。かなめと遙は弁当を食べながら、巧はタブレットを開いて伊月の話を聞いた。
「いや~、どうもありがとうございます。かなりの情報が集まりました」
巧は缶コーヒーを一口啜ると笑顔で伊月に礼を言った。
「別に、何度も警察で話してることだし……」
「昨日も警察に行っていたんですか?」
「あぁ、話す内容はいつも同じなのに、何度も繰り返しきいてくるんだ」
ここぞとばかりに伊月から警察署での愚痴がこぼれる。
「そうそう、警察と言えば、休み時間に須藤さんに聞いたんですけど、今朝、刑事さんが来たんですって?」
とぼけた様子で言う巧に遙が食いついた。
「そぉーなん。びっくりしたわ。しかも、佐山にじゃなく時沢さんになんやもん」
巧もそれはかなめから聞いていた。
昨日、奏士が言っていたいじめの件の確認に来ていた様だと話を聞いている。
「時沢さん。あの後帰っちゃったのかな?授業出てないんだよね」
「時沢さんって昨日話に出た方でしたね。お話を聞いた感じだと警察に厄介になるようなタイプには思えませんけど。どちらかと言うと優等生。今日、登校して来たらどんな方か観察しようと思ったのに残念です」
「うん。実際この二年間ずっと学年一位だし。でも、昨日も言った通り時沢さんは基本的にいつも本読んでるから、何考えてるかわかんないし、話しかけづらい雰囲気があるんだよね」
奏士が話したいじめの内容は、最初は無視をしたり、物を隠したりしていただけだった。ところが満那は動揺することもなく、平然と学校生活を送っていた。そのうちに段々と内容はエスカレートしていき、最終的に他校の不良男子数人を相手に大乱闘して、全員のしてしまったと言う噂が流れ、いじめは収拾した。
「ケンカの末、全員をのしたというのはただの噂ですか?」
巧が首を傾げかなめに尋ねるとかなめも首を傾げる。
「本人は『殴り合いのケンカをしたわけじゃない』って言ってたけど……」
「火の無いところに煙はたちませんからね」
「そうなんだよ。実際、運動神経いいしね」
「時沢さんで思い出したんやけど、今朝、正門のところで時沢さんがスーツ着た男と車で学校を出て行くのを見たってやつがいたで」
「今朝の刑事さんですかね?名前は何でしたっけ?」
「草野やで」
「佐山くんはその草野刑事さんと面識はありますか?」
「……警察署で見かけたことはあるけど、話したことはない」
「そういえば、刑事さんが帰った後、時沢さんと変な会話してたよね」
「あれは……」
突然の話題の変更に伊月は戸惑う。
「どんな会話ですか?」
かなめが振った話題に興味を持った巧が遙に尋ねる。
「え~と、刑事さんの話を聞いて、佐山が時沢さんを犯人やないかって思って……」
「時沢さんが『佐山君。昨日のことを思い出してほしい』とか言って」
「佐山が『あの人は……』みたいな?」
「『思い出したんなら、それ以上は黙っていた方がいいよ』で時沢さんは退場」
「えぇ~と。佐山君は昨日は一日警察にいたんですよね」
「……あぁ」
「時沢さんと草野刑事は知り合いなんですか?」
突然の核心を突いた質問に佐山は困惑した。
「……ノーコメント」
「知り合いなんですね」
巧が即座に断言すると伊月は顔を背ける。
「なんで断言できるの?!」
かなめが不思議だと尋ねると、巧は微笑みながら
「だって、知り合いだと知っていて、なおかつ口止めさているなら、嘘を付くかノーコメントとしか答えられませんよね?それに僕が二人は知り合いかと尋ねたらとても困った顔をしてました」
「正確に言うなら、たぶん知り合いだろうってことぐらいだ」
「詳しく教えて頂けませんか?」
「勘弁してくれ。それに本件からそれてないか?」
「わかってますよ。でも、考えてみてください。仮に時沢さんと草野刑事が割りと親密な仲なら、時沢さんがこの件に協力してくれたら、警察の情報も入ってくるかも知れませんよ?」
「おぉ、なるほどねぇ」
賞賛の声をあげる遙の横でかなめの表情が曇る。
「それは無理なんじゃないかな……。あの時沢さんだし……」
「おれも無理だと思うな」
多少の捜査情報は知っている様だったがあの態度では恐らく話さないだろうと伊月は考えた。
「まあ、僕も無理だと思います」
「なんやねん。それ!」
折角賞賛したのに全員に否定され遙は憤る。
「とりあえず、今日は繁華街に行ってみたいと思うんですけど……」
「おれ、今日は部活に顔出さないと。一応部長だし」
「ウチも部活。終わるの7時くらいやと思うけど?」
「じゃあ、別の日ですかね」
しょうがないと諦める巧にかなめは首を傾げる。
「何で?私は大丈夫だよ?」
「いや、でも……」
巧は口ごもり遙の方を見る。
「ウチは部活やで」
「ほら」
巧が遙を指差し言うがかなめは更に首を傾げる。
「なんで?遙がいなくても良いじゃん」
「ちょぉ、それ酷くない?佐山と話し出来たんは誰のお陰だと思ってん?」
「まあ、そうですね……」
「さらに酷くない?無視とかありえへんやけど」
「すみません、冗談です。ちなみに、西島さんとは連絡取れますか?」
「遙、よろしく〜」
「だから、なんでウチばっかり……」
「奏士くんは基本、遙の言うことはなんでも聞いてくれるから大丈夫だよ」
「そんなことないやろ。いっつも文句言われとるよ」
そう文句を言いながらもスマートフォンを取り出す。
「愛情の裏返しだね〜」
かなめが楽しそうにそう言う。
「西島さんは、好きな子に意地悪しちゃうタイプなんですね」
幼馴染三人組の関係性がわかり始めた巧が言うとかなめは満面の笑みで頷く。
「何だかんだ言って、結局付き合ってくれるのが奏士くんだよ」




