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闇に咲く花  作者: moguo
1/3

001

 陵葉市内にある繁華街。ここはメインストリートから少し奥に入れば途端に治安が悪くなる。

 そこではケンカ、カツアゲ、薬物の売買などは当たり前に行われている。

 そんな治安の悪い中を一人の背の高い女が歩いていた。

 女は茶色の革ジャンに紺色のTシャツ、黒いズボンを履き、髪を頭の高い位置で一つに纏め、肩程の長さがある。

 そんな女が治安の悪い地域を一人で歩いていれば、当然男たちに囲まれる。

 今も既に三人の男たちが目の前に立ちはだかっていたが女は怯える様子もなく男達を眺める。

「よお、姉ちゃん。こんな所で一人で彷徨いてたら危ないぜ」

「それとも俺たちみたいなのを探してたのかな?」

 そう言って男たちが下品に笑う。

「そうだな」

 見た目よりも幾分ハスキーな女の声に、男たちは笑うのをやめた。

「この写真の子、みかけた?」

 そう言って女が見せる写真を男たちはチラリと見てニヤリと笑う。あまり品のいい笑い方ではない。

「あぁ。知ってるよ。ウチの店の子だ」

「そうか」

 短く答えると女は写真をポケットへ仕舞う。

「ついて来てくれるんなら会わせてやるぜ」

「いや。居るのが分かればいい」

 男たちについて行くことを拒否すると、男の一人が舌打ちする。

「いいから黙ってついて来いよ!」

 そう言ってもう一人が女の腕を掴む。

「はーい、そこまで」

 そう男の声が聞こえてくると、女は男の手を払いのけると軽く両手を挙げ、『何もしていません』とアピールをする。

「是非ともオタクらのお店にいるっていうその女の子に会わせてもらいたいものだね?」

 現れた男はそう言うと三人に近づき懐から出した手帳を見せる。

「げっ、警察?!」

「今、ある女の子探してるんだけど、オタクらの店にいるなら助かるわぁ」

 のんびりとした口調とは裏腹に眼光鋭く男たちを睨みつける。

「いない!そんなガキ、ウチには居ない!」

 男の一人が慌ててそう叫ぶ。

「あれ?今、居るって言ってたよね?」

「そこの女連れてくための口実だ!」

「何処の女?」

 刑事がとぼけた様に言って振り返るとそこに女の姿はもうなかった。

「まあ、オタクらの店ってのも怪しいし、続きはそのお店で聞かせてもらおうか?」

 そう言っている間にもう一人スーツ姿の男が姿を現し、三人の男たちは一斉に逃げ出す。

「上沼!確保だ!」

 男は近くにいた男の襟首を掴みながら叫んだ。


 


『私は今、東京都にある私立陵葉高校の前にいます。こちらの陵葉高校二年生、瀬野友香さんが行方不明になってから、三日が経とうとしていますが未だ手掛かりはなく、捜査は難航している模様です。』

 テレビのニュースでは、校門の前に立った女性アナウンサーがマイクを片手に淡々と原稿を読み上げている。

 そのアナウンサーの後ろには人影は無く、閉じられた校門と大きな校舎が映っていた。

 ここは、若者向けの月刊誌『ポップアップ』の編集部の休憩室。そこに置かれたテレビの前で一人の小柄な少年がソファに座り、紙コップに入ったコーヒーを飲みながら、のんびりと流れるニュースを眺めていた。

 少年は紙コップに口を付けながら、流れるニュースに興味を持った。

 陵葉高校は近所にある私立高校。そんな近所で失踪事件とはなかなか興味深い。なんとか調査できないものかとさえ思っていた。その時、

「巧~、編集長が呼んでたぞ」

 通りかかった男がソファでくつろぐ少年、仲瀬 巧を見つけるとそう声をかけてきた。

「またですか~?今、一仕事終わったばっかりなのに~」

 間延びした少し高い声でそう答えると、紙コップをテーブルに置き、大きく伸びをする。

 そんな巧の様子を見て、男はため息をつく。

 男の髭はまばらに伸びかけ、目の下には隈ができ、服もくたびれていた。明らかに何日も徹夜で原稿の作成を行なっていたのだろう。

「そう言うなって。お前はまだ若いからいいよ。俺なんかちょっと徹夜しただけでもうこの有様よ」

「……おつかれさまです」

「おぅ。じゃ、急いで行けよ。あの人、結構探し回ってるみたいだったから」

 それを聞くと巧は紙コップをテーブルに置いたまま、急いで編集長室へ向かった。


 


 私立陵葉高校は都内でも割と有名な私立高校である。学食が安くて美味い、部活動の数が多い、制服が可愛い、数多くの大学への進学率が高いと都内の中でも一、二を争う人気校でもある。

 校内では午前中最後の授業を終え、生徒の半数近くが学食へと移動を始める。

「ハールーカー。今日のお昼はどこにするの?」

 隣りの教室からやってきた肩にかかるほどのボブカットの小柄な生徒、須藤 かなめは弾んだ声で大きく欠伸をする親友に向かって言う。

「どうしようか」

 くぐもった声で答えた女子生徒は耳にかからないショートカット。

 前髪をなおしながら、寝起きの神崎 遙は普段よりも低い声で答える。

「また寝てたの?テスト近いんだからちゃんと授業受けなきゃダメだよ」

 心配して言うかなめに、遙は一度咳払いをする。

「わーてるって。心配性やな、かなめは。大丈夫。家でちゃんとやっとるから」

「それならいいけど……」

 かなめは口を尖らせ不貞腐れた様に言う。

「それで、今日はどこで食べる?」

「そうやね。天気もええし中庭にでも行こか」

 遙はカバンから弁当を出しながらそう言うと、二人は教室を出て中庭へと歩き出した。中庭に向かう途中の階段を下りながら、かなめは今日のクラスでの出来事を遙に話始めた。

「そういえば今日ね、うちに転校生が来たんだよ」

「へぇ~。女子?男子?」

「男の子。仲瀬 巧くん。あたしとね、背がそんなに変わらなくて、仲瀬くんの方が少し高いくらいなの」

 と、かなめはうれしそうに言う。

 かなめは女子の平均よりも少し背が低い。それに引き換え遙の方は、平均的な背が高さだ。そのため二人が並んで歩くと姉妹のようにも見える。

「ナカセ?なんか聞き覚えあるな」

「そう?あたしはないよ」

 二人は幼馴染で家も隣同士。幼稚園に入る前からの付き合いで、家族同然のようなもの。付き合いが長い分、お互いのことは知り尽くしている。かなめに覚えがないのなら自分の勘違いだろうと、遙は思った。

「あー。須藤さんだ」

 中庭まで出できたところで、眼鏡を掛けた小柄な少年が二人を見つけて手を振っている。

「あれ?」

 その『決して自分たちと同い年には見えない程幼く見える』眼鏡をかけた少年がさっきかなめの言っていた仲瀬 巧だと確信した遙が尋ねると、かなめは黙って頷く。

 少年は木陰のベンチに座っていたが、その小ささは一目瞭然で、ひざの上には大きめのタブレットを乗せて二人に一生懸命手を振っている。

「ちいさっ!」

「それ、本人を目の前にして言わないようにね」

 かなめはそう注意してから巧に近づく。

「仲瀬くん何やってんの」

「ちょっと、ゲームを」

 巧はそう言うとタブレットをベンチに置いて立ち上がると、遙の方を向く。

 確かに高校生男子の平均よりも身長は低い。遙より断然背が低かった。一見すると中学生でも通用しそうだった。

「どうもはじめまして。今日、転校してきた仲瀬 巧です」

「あぁ、ウチは神崎 遙。かなめの幼馴染」

 巧からの急な自己紹介に遙は若干戸惑いながら答える。

「遙、言葉使い変だけど気にしないでね」

 お互い自己紹介をする二人に割って入ったかなめに遙は少し嫌な顔をしてみせる。

「変ってな、印象悪うなるやろ。まあ、認めるけど」

 何のことか今ひとつ飲み込めない巧だが、二人はそれを気にせず話を進めた。

「で、何のゲームやってたの?」

 かなめはそう言ってタブレットの画面を覗きこむ。しかしそこには予想していたグラフィック画面など無く、文字ばかりが並ぶウィンドウと何処かのニュースサイトが表示されているだけだった。

「須藤さんと神崎さんも参加してみます?」

 愛嬌のあるクリッとした笑顔で巧はそう言う。

「ゲームって言っても、僕がやっているのはリアルタイムの謎解きなんです。だからもしかするとちょっぴり危険な目に遭うかもしれないけれど、でもそういうスリルがないとゲームとして成り立たないと思うんですよ。どうですか?一緒にやってみますか?」

「ちょい、面白そうやね」

 謎解きと聞いて遙が興味を示す。かなめも目を輝かせ巧の方を見る。

「リアルタイムって言ったけど、具体的にどんな内容なの?」

 興味を持ち始めた二人に巧は嬉しそうに頷く。

「僕が今追っている事件は、今、まさにこの学校で起こっているんです」

 『この学校』というフレーズで二人の顔色が変わる。

「まさか、瀬野さんの事件やないやろうね」

「そのまさかです」

 巧のその言葉に二人は目を丸くさせる。

「うわっ。なんでそんな事!」

「実は、こういった実際に起きている事件の情報収集して、自分で事件解決出来ないか考えるのが趣味なんですよ」

「……でも、あたしなんか参加して大丈夫?」

「はい」

 不安そうに言うかなめに巧は笑顔を返す。

「かなめだけずるいで。ウチもやる!」

 話しにノリノリな二人を見て巧は微笑んだ。

「助かるなぁ。なにせ今日この学校に来たばかりだかりなので、校内で突っ込んだ話とか、聞いて周ること出来なくて困っていたんです。でも、二人が居てくれると本当にありがたいですよ」

「任せとき。ウチがしっかり情報掴んできたる」

「でもさ、こんなの調べてどうするの?」

 やる気満々の遙の隣りで急に冷静になったのか、かなめが尋ねる。

「まぁ、単なる自己満足ですね。ゲームってそんなモンでしょ?それに瀬野さんの捜索に役に立つ情報が掴めればラッキーかなって」

 巧は微笑みながらそう答える。

「そうだね。あたし達が調べた事が捜査の役に立てば、瀬野さんも早く見つかるもんね!」

 かなめが鼻息荒くそう言う。

 二人が巧の提案を受け入れ、ゲームという名の捜査に協力する事が決まり、巧は今まで調べてきたことを2人に話し始める。

 巧が話す内容は、二人もニュースで聞いたことのある内容だった。

 そこにかなめと遙が知っている情報を付け足すとこうだ。

 

 瀬野 友香は今から八日前の日曜日に、同じ部活の生徒と会う約束をしている、と言って家を出た。瀬野と約束をしていたのは同じブラスバンド部の部長、佐山 伊月だった。

 彼女は約束の時間になっても現れず、連絡しても通じなかったと言う。結局、彼女は家を出たまま行方不明になったことになる。

 

 二人から佐山の話しを聞いた巧はタブレットに情報を打ち込んでいく。

「まずは、瀬野さんと約束をしていた、佐山君に会いたいんですね」

 そう言って置いておいた缶コーヒーを一口飲む。

 その隣りで二人も昼食を食べながら話をする。

「そら無理やで。今日、来てへんもん」

「え?」

 遙の予想外の言葉に巧から間抜けな声が出る。

「警察の事情聴取ってやつ?何日か前に一度登校して来たけど、野次馬に囲まれてアレコレ聞かれて困ってたで。それからは登校してへんよ」

「あっちゃー。まいったな」

 そう言うと後頭部をガシガシと掻く。

「大丈夫。遙、顔広いし、佐山君とも同じクラスだから、きっと何とかしてくれるよ」

「ウチ!?」

「わー。神崎さん助かるなー」

 巧のきらきらした笑顔を見て遙はげんなりした。

「……君がどんなキャラか判ってきた」

「ありがとうございます」

「でも、ちょっとの間、あいつのことそっとしといてええやろ?登校して来てまたごちゃごちゃ聞かれたらあいつも嫌やろうし、少ししたら話聞きに行ったるから」

「はい、それはもちろんです。お願いします」

 満面の笑みを返され、遙は額に手を当てる。

「あぁ、アカン。かなめがもう一匹増えた……」

 巧から目を逸らし、遙が呟くとかなめが背中を叩いた。

「それって、どういうこと?」

「ウチ、コロポックルのお願いって、何でも聞いちゃう悪い癖があるんよ」

「あっ!神崎さん、ヒドイ!」

 自分の身長の低さを揶揄われた巧が傷付いたとばかりに言う。

「それにしても、コロポックル二匹とウチだけじゃあ、戦闘能力低いんとちゃうん?校内で話聞いて回るだけならええけど、校外までってなると犯人も分からんし警戒せなアカンやろ?」

「何言ってんの。遙、空手部じゃん」

「ウチの空手はフルコンタクトとちゃうし、第一弱いもん」

 遙とかなめが言い合いを始めるその横で、巧は腕を組み思案をしていた。

「誰かこのゲームに参加してくれて、しかもケンカに強い人って居ませんか?」

 巧の言葉に二人は同時に考え始める。

「あっ、一人いる」

 最初に声をあげたのはかなめだった。

「奏士だったら、止めといた方がええと思うなぁ」

 遙に言われかなめが頬を膨らませる。

「えー。だってケンカ強いじゃん」

「でも、あいつ今停学中だし……」

「明後日には学校にくるよ」

「ちょっといいですか。その奏士さんとは?」

 二人がどんどん話しを進めていくにで、巧がストップをかける。

「西島 奏士。遙と同じクラスで、家が私んちの隣りなの。私たち三件並んでお隣さん同士でね、奏士くんも小さい頃からの幼馴染なの。中学にはいって暫くしてからはケンカばっかりやってるケンカ番長」

「それで、その人はこのゲームに参加してくれそうですか?」

「ん~、遙次第じゃない?」

 かなめの言葉に二人は首を傾げる。

『何で?』

「まぁ、遙が頼めば、手伝ってくれると思うよ」

「なんか、さっきからウチばっかり……」

 文句を垂れる遙に巧は笑顔を向ける。

「神崎さん、期待してます」

「わかった。わかった。今日、帰りに西島の所に寄る」

『お供しまーす』

「ホンマ、息ピッタリやな。初対面とは思えへんわ」

ため息と共に遙はそう言葉を零した。


 

 

 賑やかな繁華街のはずれを西島 奏士は歩いていた。

 繁華街と言ってもここは近隣の不良の溜まり場だ。

 二週間の停学を食らっても、いつもと変わらず、毎日ここへ顔を出して過ごしていた。いつものように朝、学校へ行くフリをし、いつものように繁華街をうろつき、いつものようにケンカを売られる。

 そして今もいつものように目の前に学ランを着た五人の他校生が立ちはだかる。

「邪魔。どけ」

 二言、奏士が言うと、五人の内三人がポケットからナイフを取り出しナイフをチラチラと奏士に見せつける。

 それを見て低く唸ると、両手をズボンのポケットから出し、肩にかけたカバンをその場に落とすと、片足を少し引き拳を握る。

「やっちまえ」

 一番後ろにいた男が叫ぶと、ナイフを持った一人が奏士に向かっていく。

 両手でナイフを持ち、腰の辺りで構え、真っ直ぐに突っ込んでくる少年に奏士は軽く助走をつけて、顔面にドロップキックを見舞う。

「まず一匹」

 笑ってそういうと、近くにいた素手の少年の顔面に強烈なパンチを入れ沈めると、続けて隣りに居た少年のナイフを持った手を下から蹴り上げ、飛んで着たナイフをキャッチする。

「二匹片付けたぜ」

 持て遊んでいたナイフを構えると、最初に号令をかけた少年が悲鳴をあげて逃げ出した。

「どうする。続けるか?」

 奏士が声を掛けると、残りの二人も慌てて逃げて行ってしまった。

「まったく。情けねぇ」

 持っていたナイフの刃をしまうと後ろへ放り投げ、カバンを拾うとまたズボンのポケットに両手でを突っ込み、何事もなかった様に歩き始める。

 だが、数歩歩いたところで不意に後方から人の気配を感じた。気づかれない様にチラッと後ろの様子を伺うが誰も居ない。

 気のせいかと思い、再び歩き始めるがやはり気配は奏士の後を付いてくる。

 姿を現さず、コソコソついて来るその人物にイライラした奏士は近くにあったダンボールの山を思いっきり蹴り飛ばす。

「あっ。何やってんのあんたは!」

 突然上がる声に奏士は慌てて振り返ると、下校途中と思われる遙がドカドカとやってくる。その後ろには同じく幼馴染のかなめとかなめの身長がそう変わらない見たこともない子供。しかし、その子供は自分と同じ高校のブレザーの制服を着ていた。

「なんだ。お前らか」

 そう言って肩の力を抜くと、遙が奏士の元までやって来ていきなり頭をはたく。

「なんだじゃないでしょ。あんた、まだ停学中なのに何こんなところに居んのよ」

「それをいうならお前らもだろ。こんな所入ってくるな、危ないだろ」

 なぜか標準語で話す遙に、かなめの後ろにいた巧が首を傾げる。

「遙はね、奏士くんの前では標準語なのよ」

「何でですか?」

「さあ?前にそれでケンカして、遙が負けたんじゃないかな?」

 そう言うとかなめも奏士に近づいて行く。

「さっきのケンカ見てたよ〜。相変わらず凄いね〜。それより、こんな所で立ち話もなんだから、近くの店にでも入ろうよ」

「何なんだよ、お前ら」

 かなめに背中を押されながら文句を垂れる。

「いいから、さっさと行く」

 そう言う遙に手を引かれ、一同は表通りのファーストフード店へと入っていく。

 

 店に入り席につくと遙とかなめで早速、巧の提案した『ゲーム』の話を始める。

 それを黙って聞いていた奏士は最後に一言。

「くだらねぇ」

 そう言って席を立とうとする。

「ちょいまちぃ。あんたがやってるケンカの方がよっぽどくだらないって」

 そんな奏士の腕を掴み、遙がもう一度座らせる。

「別に俺から売ってる訳じゃない」

「確かに、さっきも向こうからケンカ売られてたもんね。それよりさ、ケンカに使うエネルギーを事件解決に使うだけでいいんだから、手伝ってよ」

 かなめの言うことにもため息で答える。

「大体な、なんで今日転校して来たばかりの奴がそんなに詳しく事件のこと知ってんだよ」

「元々、こういう事件の情報を集めるのは趣味なんです。今回は運良く、自分の転校先で事件が起きていただけです」

 用意していたかのように答える巧を鋭く睨みつける。

「偶然って言いたいのか」

「はい」

「……お前らはこんな胡散臭い奴と一緒に首を突っ込むわけだ」

「胡散臭いってのは、仲瀬くんに対して失礼だよ。奏士くん」

「大体、奏士の方が胡散臭いんだよ」

 この幼馴染二人が事件に首を突っ込むのは明白だった。恐らく言って聞かせた所で止める事はできないだろう。

 奏士はそう思うと後頭部をガシガシ掻きながら大きなため息をつく。

「……わかったよ」

「じゃあ、力を貸してくれるんですね?」

「お前にじゃないぞ。こいつ等が馬鹿なことをしないように監視しておくんだ」

「馬鹿に馬鹿にされちゃったよ」

 遙がそうとぼける。

「それで、俺は何をすればいいんだ」

「先程、西島さんが言ったとおり、お二人が面倒事に巻き込まれない様に護衛的な事をしてもらえるだけで大丈夫です。僕のことは気にしないでください」

「……お前ら、俺が復学するまで突っ走るんじゃねぇぞ」

 その言葉で巧の中で奏士の評価が変わった。

 始めはただの不良生徒だと思っていたが、今の言葉でただの不良ではないのだと思った。出会った時もそうだったが、幼馴染二人の身を案じる程には良識がある。割と世話好きだろう。街中でケンカをするのにも何か理由があってのことなのだろう。

 そう思うと、巧の好奇心が疼く。

「西島さんはなぜそんなにケンカをするんですか?」

「なんでお前にそんなこと話さなきゃいけないんだよ」

 巧を睨み付けると隣りに座る遙に頭を叩かれる。

「初対面の人を威嚇しない」

「突然すみません。ただ、暴れたいだけでケンカしている、という風には見えなかったので何か理由があるのかと思っただけです」

「別に。大した理由じゃない」

 ドリンクを持って踏ん反りかえるとそっぽを向く。

「えぇ〜。私もケンカの理由知りた〜い」

 キラキラした顔でかなめが言うと、遙も興味深そうに顔を覗いてくる。

 二人から見つめられ奏士は諦めた。

「……ある人物を探してる。あの辺で不良相手にケンカしてるヤツだ」

「奏士以外にもそんなヤツ居たんだ」

 遙が意外だとばかりに言う。

「あそこはここら辺の不良の溜まり場だからな。その辺の底辺不良のして回ってたら姿を現すかと思ったけど全然出てこない」

「ちなみに、なんでその人探してるの?」

 先程よりも明るい表情でかなめは奏士を見つめる。

 かなめも巧に負けず劣らず好奇心が強い。

「ちょっと、確かめたいことがある」

 難しい顔をして奏士がそう言うと、遙は何かを思い出した様に奏士に顔を近づける。

「それって、中学の時に高校生に絡まれたあんたを助けてくれた人?」

「そういえば、そんな事もあったね。あの頃はまだ真面目な学生だったもんね」

「……まあ、そういうことでいいや」

 説明を放棄した奏士はそう言ってストローを咥える。

「もうひとつお聞きしたいんですけど、瀬野さんが家出をする可能性ってありますか?」

「瀬野のことはあまり知らないからわからん。けど、一年の時はちょっと問題起こしてたな。学校はそれ程大きな問題と捉えてないし、相手も気にしてなかったしな」

「……相手、とゆうことはいじめですか?」

 察しの良い巧に奏士はうなずく。

「そっ。一年の時は瀬野と同じクラスだったんだよ。一人の女子生徒を何人かでいじめてたんだ。いじめの内容としては大した事はしてないけれど、相手がなんの反応も返さねぇからすぐ終わった」

「へぇ〜、そんな事あったんだ」

「ウチも知らなかった」

「この通り、他のクラスのヤツも知らない。なんなら同じクラスにいても気づいてないヤツがいるかも知れない」

「瀬野さん、そんな事してたんだ。意外」

「入学して初めの頃な。一人異質な奴がいたんだよ。教室に居る時はずっと一人で本読んでる優等生。班行動とかはちゃんと参加してたみたいだけど、向こうから積極的に話しかけてるところはあまり見なかったな」

「それって、もしかして時沢さん?」

 かなめの質問に奏士は頷く。

 巧も今日教室で同じ様に異質な雰囲気を持つ女子生徒が気になっていた。どうやらその人物が時沢という人物らしい。

「時沢さんとは確か同じクラスでしたね」

 巧の言葉にかなめは頷く。

「そうだよ。一年の時から成績はいつも一番。体育もなんでもできちゃうし、運動神経も良いんだろうね。三年になった今でもいつも一人で本読んでる。他の子が言うにはコミュ障とかでもなさそう。普通に話しをする事もあるって。私は話した事ないけど」

「あっ、二年の終わりに三年の先輩が抜けて女バスが弱体化しちゃって、だからずっと時沢さんの事勧誘してたんだけど、頑なに断られたって新部長の泣き言きいたわ」

 勉強も運動もできる孤独を望むタイプの人間。それは、周りは気になるだろう。ただ、そのスタンスを三年も突き通せば周りが理解し、適度に距離を取る様になったのだろう。

 巧はそう思い、時沢の人物像をインプットし、明日登校した時に観察してみようと思った。

「俺からも質問。なんで事件について調べてる」

 奏士からの突然の質問に巧はニッコリと笑う。

「ただの趣味です。あわよくば事件解決に繋がる情報が見つかれば良いなと思っている程度です。なので、基本的に危険な事はしません」

奏士からの質問の意図を掴み巧は答える。

 恐らく、かなめと遙を危険な目に合わせるなと釘刺して来たのだろう。

「ならいい」

 奏士も巧の答えにひとまずは納得した様子だった。

 

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