閑話
辺境の地、キルンベル辺境伯領の領都キルンベル。
ここは国の端っこに位置していて、私が住んでいた王都から馬車で十日ほどかかる。
そして、領都キルンベルからさらに馬車で三日。ここに国境沿いの町ベルカがあった。
正直遠すぎ。馬車で十三日って……。
日本ならたぶん、新幹線で数時間の距離なんだろうけど、さすが異世界。
移動に時間がかかるのは辛い。
それ以上に馬車って跳ねるんだよね。クッションもないので、お尻が痛くなる。
バネつけてくれればいいのに。
はぁ……景色はいいんだけどさ。
緑が多い。日本じゃまず見られないほどの、大自然だ。
というか何もない。当たり前だけど電柱すらない。
「尻を押さえて、どうしたのだ?」
「……お尻が痛いの」
「ん?」
「お尻が痛いって言ってんの!!」
「お、おう。そうか」
この馬車は教会が手配してくれたもので、さらに六人乗りだ。
しかも乗っているのは、私とヨルくんの二人だけなので、かなり広さには余裕がある。
この中で寝泊まりも出来ちゃうくらい。
御者さんもいるけどね。
「そういえば、ヨルくんって神獣なんだよね」
「そうだな」
ヨルくんは身長がめちゃくちゃ高くて、二メートルくらいある。
私と並べば完全に大人と子供。
これだけ大きいんだから、きっと大きなサイズの神獣なんだろう。
「何の神獣なの?」
「お前らからすると、巨人ってことになるな」
巨人!? 狼とか馬とかじゃないんだ。
ちょっとこれは予想外。
確かに元が大きければ、少しくらい血をもらっても大丈夫かな。
「では、初めての吸血を試すがよい」
そういってヨルくんが、腕を差し出してきた。
えー、ほんとに? これに噛みつくの?
「遠慮するな。これから先、必要になることだ」
「……やってみる」
かぷっと噛みついてみた。
そして血を……血を……舐めてみる。
「ん? どうしたのだ?」
「……まじゅい」
なにこれ!? まっず!
いうなれば、ちょっと腐ったトマトジュースだ。
これからこんなものを飲まなきゃだめなの?
「まあそうだろうな。我は神獣であり暗黒神の僕にとっては、まずく感じるだろう」
「ええっ!? 知っててそんなことを言ってきたの!?」
「必要なことだからだ。まずく感じるだけなら、それでよい。並みの暗黒神の僕であれば、即座に浄化されるだろう」
やっば?
私が並みだったら、浄化されたの!?
「お前の肉体は暗黒神側だが、魂は女神側だからな」
「そうなんだ……って、いつの間に、魂が女神様側になったの?」
「お前は別の世界から転生してきたのだろう? その時に女神から加護を貰っている」
あっ、自動翻訳機のことか!
なるほど……そうだったんだ。
「普通の人間が真祖吸血鬼に噛まれれば、あっという間に暗黒神の僕へと堕ちる。お前が半分無事だったのは、魂が女神の加護を授かっていたからだ」
「……ありがとうございます、ルミエール様」
「だが気を付けるんだな。お前の肉体は暗黒神側だ。御力を使えば内部から、外部へと力が飛び出る。その際、外側の肉体が負傷するだろう」
それって、今後聖女の力を使うと、自分の身体に傷がつくってことになるのかな。
そういえば、異端審問のときに、祝福を使ったら手が焦げてたっけ。
あの時はすぐに治ったから、そこまで気にしなかったんだけどね。
いま気が付いたけど、お尻は痛いんだけど、そこまで酷くはなってなさそう。
これって、もしかして吸血鬼の能力ってやつかな?
治癒能力だっけ。
硬い椅子に長時間座って、下から突き上げられても、お尻はそこまで痛くなることはない。
割と便利かも?
「お、そろそろ領都とやらに着くな」
「やっと……長かった……」
「これからさらに三日かかるのだろう?」
「でも今日はお布団で寝られるから、ここで体力を回復できる!」
その日の晩は宿に泊まった。
横で寝ているヨルくん。
既に何度も一緒に寝ているのでいまさら感はあるけどさ。
やっぱり異性と同じ部屋で寝るのは緊張する。
「ねぇヨルくん」
「なんだ?」
「暗黒神って何者なの?」
「難しい質問だな。女神と暗黒神は対になっていて、同じ神から別たれた存在だ。いわば姉妹神でもあるな」
「そうなの!?」
「しかし互いに忌み嫌っているな。同族嫌悪だろうが……」
この世界を舞台にした姉妹喧嘩か。
壮大なのか、小さいのかわかんないや。
ま、いいか。
私は悲しんでいた女神様と仲良くなって、ついでにその力で人を助けられるのであれば、助ける。
うん。これが私だ。




