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エピローグ


「え? 妹が……あの子が聖女で吸血鬼になった!?」

「ナタリア」

「あっ、申し訳ございません、お父様」


 ここはリンドグレーン侯爵家の執務室。

 この部屋では現当主であるリンドグレーン侯爵と、次期侯爵のナタリアの二人が執務に励んでいた。


 そしてある程度、仕事を終えた侯爵が雑談のつもりで、娘だったルナフィアのことを出したところ、ナタリアが過剰に反応したのだ。


 この国では長子相続が基本であり、男女に差はないため、ナタリアが婿を貰い家を継いでいく。

 しかし次女のルナフィアは、聖女としての片鱗をあまりにも見せすぎた。

 このまま社交界に出れば、長子であるナタリアの存在が霞んでしまう。

 それに聖女の素質があるものは、教会にいくべきだ、という風潮もある。

 侯爵という高位貴族であれば、それらを撥ねつけることも可能だったが、次女という立場がまずかった。

 長女の立場を奪ってしまう。


 ナタリアはルナフィアに対し、酷く嫉妬をしていたことも知っている。

 次期侯爵の精神を安定させるため、そしてもしルナフィアが聖女になれば、教会からの後押しも狙える。

 このことから、ルナフィアを教会へ出家させることにしたのだ。


 結果は上出来……とは言えなかった。

 聖女で吸血鬼はどういう意味なのか、さっぱり分からない。

 だが出家したので、すでに当家との縁は切れている。

 万が一、ルナフィアに何らか問題が出たとしても、当家は無関係を貫くことは可能だ。


 それくらいのことを、ナタリアには理解できて欲しかったが、未だに嫉妬を持っていたとは。

 だがナタリアは十八歳であり、まだまだ若造の範囲だ。

 これからの、教育を考えるべきだろう。

 侯爵は深い溜息をついた。


====


「セシリオ様、聞いてください!」

「はいはい、どうしたのかな? 我が可愛い婚約者どの」


 セシリオはキルンベル辺境伯家の三男だ。そして将来は実家を支えるために、辺境で騎士となるつもりだった。

 ところが、四年ほど前にリンドグレーン侯爵家への入り婿という話が降ってきた。

 もちろんセシリオはそれに飛びついた。騎士だと考えていたものが、侯爵家の入り婿になれるのだ。

 雲泥の差である。


 お相手のナタリア嬢はセシリオより五歳年下だが、貴族ならこれくらいは当たり前だ。

 そして彼女と会話していると、何故か彼女の妹の話がたまに飛んでくる。

 どうやら、妹は聖女の素質があったらしく教会へ出家したらしい。

 しかも幼少の頃から、ナタリアはその妹が持つ聖属性が羨ましくて、嫉妬をしていたようだ。


 セシリオとしては、もしナタリアが聖属性を持っていたら、ナタリア自身が教会入りしていたかもしれないのに、なぜ嫉妬するのか理解ができなかった。

 教会に入ってしまえば、もう二度と貴族に戻ることはできない。

 そんなに教会暮らしが羨ましいのだろうか。


 首をかしげながらも、彼女の言葉に頷く。


 こちらは入り婿の立場だ。下手に彼女の機嫌を損ねるようなことはできない。


「それで、妹が聖女となったのですが吸血鬼なんですって。どういうことかご存じでしょうか?」

「……ああ」


 情報が命の貴族社会だ。当然知っている。

 聖女となった晩、吸血鬼に襲われ吸血鬼となってしまったものの、なぜか聖女の力を使ったそうだ。

 セシリオとしては、ふーん珍しいこともあるものだ、くらいの感想だ。


 吸血鬼だろうが人間だろうが、女神が聖女として認定したのなら、それで終わりだろう。

 そのような考えである。


「わたくしとしては、危険だと思うのです」

「何が危険なのかな?」

「吸血鬼ですよ! そんなものが教会の総本山にいるなんて、とても危険ではありませんか!」

「あーなるほど」


 今現在、吸血鬼が暴れたという情報は入ってきていない。

 それにもし暴れたとしても、教会が対処するだろう。

 我々がいちいち騒ぎ立てる必要性は全くない。


 だが婚約者は、どうやら妹をどうにか遠ざけたいようだ。

 はぁ……まったく困ったものだな。


「では、可愛い婚約者どの。私の実家の領地へ聖女様をお招きするのは、いかがかな?」

「……? セシリオ様のご実家の領地ですか?」

「ええ、キルンベル辺境伯領はこの国の端にあります。そのうちの一部が、国境に面しておりまして……」


 キルンベル辺境伯領にあるベルカという町。

 ここは国境ということもあり常時他国との緊張があり、また暗黒神の僕たちも度々襲ってくる危険地帯だ。

 常備兵はいるものの、それでも治安は悪く、住民たちの不安も消えない。

 セシリオは辺境伯家のものとして、騎士になればこの町へいくつもりだった。

 その話は入り婿の件で消えてしまったが、心の片隅に消えないしこりとして残っていた。


 聖女をこの町へ派遣すれば、もしかすると改善されるかもしれない。

 それに、吸血鬼となってしまった聖女は、教会としても扱いにくいだろう。

 しかし女神により認定されてしまったので、教会側としては動けない。

 ここで辺境伯家から手助けしてほしい、と伝えれば飛びつくのではないだろうか?


 それにベルカは本当にやばいのだ。

 聖女がいるならば、ぜひ助けてほしいのも事実である。


 その旨をナタリアに伝えると、彼女の顔は破顔した。

 まったく、分かりやすい婚約者だ。


====


 教皇様が突然部屋に来たかと思ったら、異動のお話が飛び出てきた。


「ベルカ……ですか?」

「その通りだ。ベルカは常時他国と緊張状態が続いており、時折暗黒神の僕たちも襲ってくる町だ」


 へー、そんな町があったんだ。

 ちゃんと地理も覚えなきゃだめだね。勉強不足だ。


「そこを治める貴族からの要望があってだな」

「なるほど分かりました! 行ってきます!」

「そ、そんなあっさり決めてもいいのか?」

「え? だって助けてほしい人がいるんですよね? 行きますよ」

「そ、そうか。すまないな」


 なぜか本当に申し訳なさそうな顔をする教皇様。

 でも私的には全然問題ない。


 すぐそこにある聖域は女神様とお話ししやすい場所だ。あそこにはおそらく基地局が立っているので電波状況も非常に良いんだよね。

 さらに言えば、自動翻訳機能もあの場所にあるらしく、私以外の人も女神様の言葉が分かる仕組みだ。


 でもいつまでも、便利に使っていいとは思わない。

 いつでもどこからでも会話できるようにならないとね。

 その為の訓練として、そのベルカという町へいくのは良いことだ。

 それに助けが必要だから、聖女としては行くべきなのだ。


「ヨルくん! 旅行だ!」

「我が来て早々に旅行か」


 私が側にいた人……いえ、女神ルミエール様が遣わしてくれた聖獣ヨルムへと声をかける。


 実はこのヨルム、私の血液タンク代わりである。

 吸血鬼の弱点とやらは女神様が消してくれたんだけど、どうしても血は飲む必要があるらしい。

 吸血鬼にとって血を吸うのは、人間がご飯を食べるのと同じだから、消せないんだってさ。


 でも私が迂闊に人間の血を吸ってしまうと、相手も吸血鬼になってしまう。

 だからこそ聖獣の出番だ。

 この子なら、吸血鬼になることもないから、思う存分吸っていいよ、ってルミエール様に言われた。


 いや、そんなにちゅーちゅー吸わないですけど……。


 聖獣と聞いて想像するのは、かっこいい狼とか、綺麗な毛並みの馬とかなんだけど、ヨルくん、普通に人間なんだよね。

 もちろん人間形態になっているだけで、変身すれば元に戻るらしいけど……。


 しかもすごいイケメンなのだ。身長はものすごく高く二メートルくらいあるけどね。


 で、見た目は前世の私と同じくらいの年齢だから、ヨルムをヨルくんって呼ぶことにした。

 まあ一種の照れ隠しだ。

 ヨルムさん、ヨルムどの、ヨルム、どれも恥ずかしいので、ヨルくんならいいかなと。


 え? 変わらない?


 まあいいや。


 さて、ベルカへ向けて出発するか!




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